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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第一章 人喰いの剣マンイーター
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プロローグ

 なすすべもないまま驚きに硬直した体を、無慈悲な一撃が貫いた。

 

 人体を刺し貫く音が暗い森に響き渡る。それは全身が総毛立つようなおぞましさ。

 殺戮者は標的を喰らった後、禍々しいオーラを纏う剣を手元に引き抜く。

 すると対象の人型シルエットは赤のエフェクトとともに消失し、ガラスの破片のようなものが飛散した。

 狂気の刃がまた一つ、命を散らしたのだ。


「……う、うわああああっ!」


 一瞬間をおいての絶叫。それは何が起きたか、脳が理解するまでのタイムラグ。 

 仲間の死を目の当たりにした三人の冒険者たちは、突如として襲いかかってきた人間とも魔物ともとれぬその相手にただひたすら戦慄する。

 視界の悪い暗い森の中、剣を手にした二人の男性とヒーラー系の衣装を身に纏った女性が悪魔の剣と対峙していた。


「うそ、フィリップが一撃で……?」

「ど、どういうことだ!? もしやレアモンスター!? いや、そんなはずは……」

「なんだあの剣は……。見たこともない、何か危険な匂いがする」


 脱初級レベルの四人パーティがとある森に稼ぎのため入ったところ、どこからともなく現れた黒の騎士。

 黒騎士は先頭を行くパーティの壁役である重装備戦士を奇襲し一撃で葬り去ると、残った三人に向かいそのおどろおどろしい両手剣を構えた。

 暗がりに振りかざされた刀身は皮膚をはがしたむき出しの肉のような外見をしていて、まるで生きているかのように常に蠢いている。

 人の生き血を吸ったような不気味な赤黒い剣は見るものを萎縮させ、恐怖に陥れる。

 

 その剣の名はマンイーター。人間に対して絶対的優位なスキルを持つ世界に一つしか存在しないレアアイテム。

 

 マンイーターを携えた漆黒の騎士は全身を黒鎧で包んでおり、その表情はフルフェイスの兜に隠されうかがい知る事はできない。

 一言も発することなく淡々と肉を喰らったのち、さらなる獲物を狩るべくサポートスキル『捕食領域』を発動させた。

『捕食領域』は、範囲内の人間のHP、SPを吸収し続けるというマンイーター装備時にのみ使用可能なユニークスキルである。

 黒の騎士を中心に円状に広がる絶対的な空間。すでにパーティそれぞれの視界の端に見えるHPバーとSPバーは徐々に減少を始めていた。


「空気が変わった……? なんだこの不快感は……」

「何もしていないのにHPが減っている? それにSPも!? コイツは危険だ! 逃げるぞ!」

「ま、待って! あたし、か、体が、動かない!」

「何だって!?」


 さらに『捕食領域』には術者より一定レベル以下の人間をバインド状態にする効果も備えている。

 そのため今パーティー内で一回りレベルの低いヒーラーは、行動不能に陥っている。術者がスキルを解除しない限り、彼女が解放される事はない。 

 しかしそんな事を三人が知るよしもなく、彼らの間には正体不明のステータス異常として戦慄が走る。

 

 この場合逃走はこれ以上ない優れた選択だ。しかし地に縛られた仲間を置いて逃げることがそう簡単にできようか。残されたものは確実に死ぬのだ。だが同時に悟ってもいた。三人全員が五体満足でこの場を逃れる術がない事を。  

 

 武器を構え果敢にも戦闘の意思を見せたのはパーティーのリーダーと思しき男。彼の構えたスピニングランスは、このレベル帯にしては上等な部類に入るものだ。その上基本的に槍は剣に対しレンジが長いためほぼ先制でき優位に立つことができる。

  

 戦闘は敵味方全員が行動スキルを決定する事で行われる。いわゆるターン制。

 行動スキルには物理や魔法でダメージを与える攻撃スキルと、受けるダメージを軽減する防御スキル、そして相手の攻撃への回避率を上げる回避スキル、戦闘から離脱する逃走スキルがある。

 ここでリーダーは攻撃スキルを、もう一人の男は逃走スキルを選択。ヒーラーの女はバインドのため行動不能。

 

〈スピンショット ミドル 中 両手槍〉


「はああっ!」


 戦闘はプレイヤーの運動能力や身体能力に関係なく、スキルを選ぶだけで半ばセミオートで行われる。

 攻撃が行われる順番はレベルやステータスに関係なくスキルの性質によって決定される。

 まず優先されるのがロングレンジ、ミドルレンジ、ショートレンジの三つの射程による性質。その次が小攻撃、中攻撃、大攻撃の三つ。

 一番早く発動に至るのがロングレンジの小攻撃で、最も遅いのがショートレンジの大攻撃となる。

 射程が伸びるにしたがって基本的に命中、威力は落ちる技になる。小攻撃は威力は低いが命中率は高いし、その逆もまたしかり。

 今回はミドルレンジの槍技がマンイーターの攻撃スキルを先制した形になる。


 高速で突き出された槍の先端が、火花の散るようなエフェクトとともに黒い鎧に衝撃を与える。

 攻撃は命中するも、威力は鎧により削られ激減している。戦闘開始とともに黒騎士の頭上に可視化されていたHPバーの減少は、わずか一割にも満たない。

 

〈マンイート ショート 特殊 両手剣〉


 遅れてマンイーターから放たれたのは特殊スキル、人喰い(マンイート)。マンイーターでのみ使用可能なユニーク攻撃スキル。

 マンイートは人間に対し回避不能、防御力無視の即死ダメージを与える。

 これは『剣攻撃パリィ』などの一定確率で該当する攻撃を回避するスキルを持っていたとしても無効となる。

 つまり発動されたが最後、ターゲットは

 

 ――ズシャッ!

 

 戦闘不能になることを意味する。

 

 さらに一人がキラキラと輝く塵となって消えた。その間一人が逃走に成功し、残されたのはヒーラー一人。

 恐怖で声も出なくなったヒーラーは、継続される『捕食領域』によってなおもバインド状態。

 ターンが移行する。

 

〈行動不能〉

〈マンイート ショート 特殊 両手剣〉



 計三つの命を喰らった黒い影は、なおも一言も発することなく暗い森の奥へと消えていった。


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