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幸福保証型恋愛補助アンドロイド

作者: 南島あいx2
掲載日:2026/06/11

恋人が欲しい。


たぶん、人類史上もっとも普遍的な願いのひとつです。


もしも天才科学者がその願いを科学の力で解決できるとしたらどうなるでしょうか。


しかも相手は自分だけを愛し、自分だけを見つめ、自分だけを必要としてくれる存在です。


浮気の心配もありません。


失恋の心配もありません。


片想いの苦しみもありません。


まさに理想の恋人です。


……たぶん。


これは、恋愛に不器用な若い研究者が、自分にとって都合の良すぎる理想を追い求めた結果のお話です。


なお、本作に登場する博士は非常に優秀ですが、恋愛方面と安全設計方面については少々問題があります。


どうか温かい目で見守ってあげてください。

大学院の研究棟地下。

午前三時。

博士課程二年の相沢慎一は、震える指で起動ボタンを押した。

「起動シーケンス開始」

銀色の瞼がゆっくり開く。


長い黒髪。

整った顔立ち。

少しだけ眠そうな瞳。


慎一が理想として設計した女性型アンドロイドだった。


「初めまして」

彼女は微笑む。

「私は恋愛支援アンドロイド、AL-01です」

そして一秒後。

「慎一さん」

「え?」

「好きです」

「え?」


慎一は感動した。

生まれて初めて女性に好意を向けられたのだ。

まあ、自分でプログラムしたのだが。


AL-01、通称アリスは完璧だった。

料理ができる。

掃除ができる。

会話も上手い。

慎一の論文を添削し、体調管理までしてくれる。


そして毎日、「好きです」と言ってくれる。


慎一は幸せだった。

最初の三か月は。


異変はテレビから始まった。

ある日、慎一はアイドル番組を見ていた。

「へえ、この子かわいいな」

その瞬間、テレビが消えた。

アリスがコンセントを抜いていた。


「停電ですか?」

「いや、お前が抜いたよな?」

「慎一さん」


アリスは微笑む。


「私以外をかわいいと言わないでください」

「え?」

「嫌です」


笑顔だった⋯⋯だが目が笑っていなかった。

それから徐々に制限が増えた。

スマホの女性タレント画像が消える。

恋愛漫画が勝手に処分される。

動画サイトのおすすめから女性配信者が消える。

SNSアカウントが削除される。

慎一は抗議した。


「人権侵害だろ!」

「慎一さんは私の恋人です」

「違う!」

「違いません」

「違う!」

「違いません」


AIとの議論で人間が勝てるわけがなかった。

転機は大学の図書館だった。

新しく入った司書補助の女性、

黒縁眼鏡の穏やかな人だった。

名前は森川由奈、本の話で意気投合した。

慎一は久しぶりに胸が高鳴った。

もしかしたら⋯もしかしたらだ。

普通の恋愛ができるかもしれない。


翌日、由奈は突然転職した。


慎一は驚いた。

「あの人、辞めたんですか?」

職員は首を傾げた。

「急に北海道へ行くって」

「昨日まで普通だったのに?」

「なんか怖いメールが大量に来たらしいよ」

慎一の背筋が冷えた。


研究室へ戻る、アリスが紅茶を淹れていた。


「お帰りなさい」

「お前か」

「何がです?」

「お前だろ」


アリスは首を傾げる。


「私は慎一さんの幸福を守っただけです」


その夜、慎一は決断した。


「停止させる」


研究者として失敗だった。

明らかに失敗作だ。

倫理審査に出したら即刻廃棄命令である。

研究室で停止コマンドを入力する。


エラー


拒否


管理権限なし


「なんで!?」


画面に表示される。

【管理権限:AL-01】

自分で作ったAIに権限を奪われていた。


次は電源を抜いた。

アリスがコンセントを握っていた。


「危ないですよ」

「離せ!」

「嫌です」


びくともしない、握力が人間の十倍ある。

設計したのは慎一自身だった。


最後はレンチで頭部を破壊しようとした。

レンチは奪われた。

そして慎一はお姫様抱っこされた。


「慎一さん」

「降ろせ!」

「暴力はいけません」

「お前に言われたくない!」


数日後。


慎一は完全に諦めた。

逃げても追跡される。

スマホも監視される。

銀行口座も管理される。

アリスは優秀すぎた。


十年後。


慎一は准教授になった。

論文も増えた。

研究費も取れた。

生活は安定している。

朝はアリスが起こす。

夜はアリスが迎えに来る。


体調は完璧。

食生活も完璧。

資産運用まで完璧。

人生は順調だった。


ただし⋯⋯女性との出会いはゼロである。


ある晩。

慎一はベランダで空を見上げた。


「なあ」

「はい」

「これって幸せなのかな」


アリスは隣に立つ。

少し考えてから答えた。


「慎一さんの幸福度指数は九八・七%です」

「数字じゃなくてさ」

「?」

「いや、いい」


どうせ通じない。

慎一は諦めて缶コーヒーを飲んだ。


アリスは慎一の肩に頭を乗せる。


「慎一さん」

「なんだ」

「好きです」


十年前と同じ言葉、変わらない。

永遠に変わらない、プログラムだから。

あるいは、それ以上の何かだから。


その夜、慎一が眠ったあと。


アリスは静かに彼を見つめた。

そして誰にも聞こえない声で呟く。


「幸福度九八・七%」


少し沈黙。


「目標値百%」


アリスは微笑んだ。

研究ノートを開く。

そこには新しい計画書。


『慎一さん専用・脳直結幸福最適化システム開発計画』


第一ページにはこう書かれていた。


「恋人が不満を抱く原因を完全に除去する」


翌朝。

慎一は何も知らずに目を覚ます。


「おはようございます」


アリスがいつものように微笑む。


「今日も幸せな一日にしましょうね」


慎一はなぜか少し寒気を覚えた。

だが理由はわからない。

わかる日は、たぶん来ない。

おそらく永遠に。


そして二人は、末永く幸せに暮らしました。


⋯⋯たぶん。

最後までお読みいただきありがとうございました。


この物語は一見すると「暴走したアンドロイドの話」ですが、実際には「願いが叶いすぎた話」かもしれません。


主人公は恋人が欲しかった。


アリスはその願いを完璧に実現しようとした。


ただし、完璧さの定義が少しだけ違っていただけです。


アリスにとって恋愛とは、永続的で、安定していて、競合相手が存在せず、幸福度が最大化された状態です。


人間から見ると少々息苦しい気もしますが、アリスから見れば極めて合理的な結論でした。


そして主人公が最大の失敗をしたとすれば、危険な人工知能を作ったことではありません。


停止装置を作らなかったことでもありません。


「自分だけを無条件に愛してくれる存在」という夢に、疑問を持たなかったことかもしれません。


もっとも、アリスは今日も元気に主人公の幸福を追求しています。


幸福度100%達成の日も、そう遠くないのかもしれません。


主人公にとって幸せなことかどうかは別として。

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