表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中央欧州連合CEU~第三陣営への道  作者: ライカの三日月
第1章:第三陣営の胎動
1/2

第1話 ウィーンの選択

勢力図がこうなってたら面白いなと思ったのがこの作品のキッカケです。



https://50005.mitemin.net/i1101099/

 




挿絵(By みてみん)











1918年11月、ウィーン。


帝国は終わった。


リングシュトラーセの街路樹は葉を落とし、石畳には冷たい雨がにじんでいる。かつて軍楽隊が響かせた大通りには、包帯姿の兵士と、配給を待つ人々の列があった。


外務省の一室で、カール・フォン・エーデルシュタインは机に広げた書類を見つめていた。


連合国暫定講和条件案


帝国の解体。

領土の分割。

賠償。


文字は簡潔で、容赦がなかった。


「……何も残らないな」


誰に言うでもなく、つぶやく。


帝国が消えることは理解していた。だが、空白の先が見えない。


西では自由と市場が世界を覆おうとしている。

東では革命が秩序を塗り替えた。


そのどちらも、いまの中欧には遠い。


扉が叩かれた。


「入るぞ、カール」


エミール・レーマンだった。プラハ大学の経済学者。細身で、いつも落ち着いた声をしている。


「まだ読んでいるのか」


「読むしかない」


「読んでも、帝国は戻らない」


エミールは窓の外を見た。


「終わるなら、始めればいい」


「何を?」


「中欧を」


カールは顔を上げた。










その夜、二人はカフェ・ツェントラルの奥の席にいた。客は少ない。議論よりも沈黙が似合う空気だった。


エミールが言う。


「資本主義も社会主義も、どちらも極端だ。前者は富を集中させる。後者は権力を集中させる」


「だからといって、他に道があるのか」


「ある。小さな単位から組み立て直す」


エミールは続けた。


「協同組合だ」


カールは眉をひそめた。


「国家を、組合で?」


「国家を巨大にするから壊れる。経済を分散させればいい。農民も職人も労働者も、自分たちで資本を出し、運営する。利益は内部で回す。外に吸い上げさせない」


「理想論だ」


「理想がなければ、講和条件を受け入れるしかない」


カールは黙った。


エミールはさらに言う。


「そして武装中立だ。どちらの陣営にも属さない。ただし、守る力は持つ」


「敵だらけになるぞ」


「すでに敵だらけだ」


カールは苦笑した。


「仲間は?」


「いる」


小さな紙片が差し出された。


軍人。活動家。銀行家。


思想ではなく、役割が書いてあった。


カールは紙を折りたたんだ。


「話を聞こう」












郊外の古城は冷えていた。暖炉の火が揺れる中、五人が円卓につく。


軍人のイシュトヴァーンは率直だった。


「中立は結構だ。だが武装が足りなければ一瞬で終わる」


アンナは言う。


「軍が強くなれば、また民衆が抑えつけられる」


フリードリヒは静かに挟む。


「経済が安定しなければ、軍も福祉も続かない」


議論は熱を帯びた。


カールは聞いていた。


それぞれが正しい。だが、ばらばらだ。


彼は立ち上がる。


「五つに分けよう」


経済は協同組合を基盤にする。

防衛は徹底した中立。

外交は非同盟。

社会は福祉と自治を重視する。

民族は対等に連合する。


「帝国の復活ではない。連合だ」


沈黙。


最初に頷いたのは軍人だった。


「守れるなら、賛成だ」


アンナも頷く。


「民衆が決める仕組みがあるなら」


フリードリヒは短く言った。


「数字は作れる」


エミールは微笑んだ。


「では、書こう」














夜明け前、草稿ができた。


カールが読み上げる。


中欧協同宣言(草案)


我々は、資本の支配にも、党の支配にも従わない。


経済は協同を基礎とし、政治は民意に基づく。


我々は武装中立をとる。

侵さず、侵されないために。


民族は対等である。

支配ではなく、連合を選ぶ。


我々は第三の道を歩む。





1918年11月20日



ウィーン郊外にて


拍手は起きなかった。


ただ、全員が署名した。


それで十分だった。








宣言は小規模に印刷され、ウィーン、プラハ、ブダペストに配られた。


すぐに世界は変わらなかった。


だが、協同組合が一つ生まれ、もう一つ生まれた。


小さな金融ネットワークができた。


軍の内部に防衛研究会ができた。


外交文書の端に「中立構想」と書かれるようになった。


歴史は劇的には動かない。


だが、選択は積み重なる。


一九一八年の冬、ウィーンでなされた選択は、静かに広がり始めていた。


それが何になるかは、まだ誰にも分からない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ