国境の料理番
私がこの世界に来て2週間が過ぎた。
初めは夢かと思っていたが、今だにここにいる。
アンナ先生が私を見てびっくりしていたから、なんか大きな怪我があったのかと思ったが、背中の打撲ぐらいだったので安心した。でも指摘された瞬間に痛くなってきた。
全治1週間と言うことで、打撲用の湿布を貰ったのだが、アンナ先生が忙しい時は、恐れ多いことにアシュリー団長が貼ってくれた。
初めはオネエ系フィルさんに頼もうと思ったが、団長さんが、肩に近い場所とはいえ、他の団員に肌を見られるのは緊張するでしょと、気を遣ってくれたのだ。
団長は美人で役職も高いのに気遣いができる素晴らしい人で、そして勿論物凄く強い。
鍛錬の様子を見せてもらったが、団長様は2-3人同時に相手しても、あっと言い間に全員を倒して、息すら上がっていなかった。
2週間もするとここの生活にも慣れてきた。
私が落ちてきた場所はこの国と隣国の国境で、第2騎士団は4ヶ月この国境の砦に遠征に来ている。
雪山に囲まれたこの場所は雪が溶けるまでの4ヶ月間は陸の孤島になるらしく、皆さんが住む王都にも戻れないそうだ。この砦への遠征は第1騎士団から第4騎士団までの持ち回りで行われるらしく、春になれば第3騎士団が交代に来るらしい。
近隣には村とかもないので、食料品や必要物資は交代する時に全てここに持ってくるそうで。
南極越冬隊みたいと、話を聞いた時に思ってしまった。
アシュリー団長に申し訳なさそうに、物資が限られているので、着替えが制服とかしかないのと言われたが、何かあるだけありがたい。男女は関係ないようだが、みなさん背が高いので、サイズも1番小さいのでもかなり大きいくブカブカだが贅沢は言えない。
ここに駐在しているのは、フィルさん達を含めた15人の団員さん達、アシュリー騎士団長、アラン副騎士団長とアンナ先生。
アラン副団長とアンナ先生は実は夫婦だった。
「あの人は騎士としての実力は凄いの、でも結構なヘタレで、わたしから迫って結婚したんだよ」ってアンナ先生はいうが。
アラン副団長は短髪で体格も良く、模擬戦ではアシュリー団長とほぼ互角に戦う。周りの団員さん達が女性数人を除いて、男性はほぼオネエ系なので、とても男らしく感じる。
アシュリー団長も「アランは団長になる実力は十分にあるんだけど、まず第2騎士団で副団長として成果を上げてからって事になっているのよ」
なるほど、ここの団員さん達は女性かオネエ系なので、男性だけの騎士団より統率しやすいのかもしれない。
背中の打撲も治り、春になって王都に行くまではする事がない。暇を持て余した私はアシュリー団長に頼んで、砦の掃除と料理の手伝いをする事にした。
この世界に電気と言うものはないが、いろんな場所で魔道具と言うものが使われている。魔石を動力にして動いていると聞いて、この世界に魔物がいるのかと思ったが、そう言うのはいなくて、ただ魔石と言われる石が鉱山のような所から取れるらしい。
そのお陰でこのような辺境地でも、キッチンにはストーブやオーブンがあるし、温水シャワーもある、灯りも少し薄暗いが問題なく、電子レンジなどの便利な家電はないが、慣れたら問題なく生活できている。
ここには限られた人数しかいないので、洗濯掃除は各自で、調理はアラン副団長がメインになって、後は交代でしていた。
「アラン副団長はお料理できるんですね」
と私が野菜を切りながら聞くと。
「アランでいいよ、俺もレイって呼ぶから。俺はね、上に4人の姉がいるんだ。だから、家事は昔から叩き込まれててね。姉達とよく遊んでたから、ちょっと女っぽいとも言われててね」と恥ずかしそうにアランさんは言った。
「そうですか?お料理出来る男性とかポイント高いですけどね。私はアランさんを女っぽいとも思わないですけどね?」と私が言うと、アランさんは嬉しそうだった。
「レイは料理は何処で習ったの?すごく手慣れてるよね」
「私は一人暮らしが長かったのと、実家が大家族で良く母を手伝っていて。うちは父もそうですが家族全員、料理好きなんです。父なんか凄く凝ったもの作りたがって、週末はキッチンを占領しちゃうので母によく怒られてました」
「すごく大らかなお家なんだね。俺は女っぽいって父に無理やり騎士団に入れられたんだけど、まあ体格にも恵まれて、どうやら剣術の才能があってここまで来れたんだ。アシュリー団長にも凄くお世話になっている」
「アシュリー団長はすごく素敵ですよね、かっこいいし」と私が言うと。
後ろから「あらー、レイにそう言ってもらえると嬉しいわー」と声が聞こえた。
「あ、アシュリー団長!」
「今日はレイの故郷の料理で、唐揚げっていうらしいです。さっき揚げたてを味見させてもらったんですが、すごく美味しいですよ」とアランさんがニコニコしながら説明している。
私はまだ唐揚げを揚げている最中なので、手が離せない。
するとスッと後ろに団長様が来て。
「レイーーー、私も味見したいわ」って顔を覗き込まれた。
美人のドアップは破壊力がある。
「団長、油が跳ねると危ないですよ」
「大丈夫よーこれぐらい」
「ダメです、団長のお顔に傷がついたら、世の中の損失です」と私がいうと。団長の頬が少し赤くなった。
「ちょっとだけですよ」と唐揚げをフォークに刺して、団長の口の前に差し出すと。赤い頬のままパクりと唐揚げを食べた。
「美味しい!レイは天才ね」と団長は言うが、言い過ぎだろう。
「団長、これはエールと物凄く合いますよ」と言ったら。
アシュリー団長は
「じゃあ今日はエールの日にしちゃうましょうか」と眩しい笑顔で言った。
4ヶ月分の物資を運んでくるの大変そうですよね。騎士団の皆さんはいっぱい食べそうだし。




