北街道の盗賊
一週間が経ち、露店は順調に売り上げていった。
そのために、品物はまた足りなくなっていく。
仕入れないといけないけれども、共同倉は売ってくれるのだろうか。
私は不安になりながら、北街道の共同倉へと向かっていく。
「大丈夫なの?」
アプリルが問いかけていた。
前回、「今回だけだ」と言われていたため、余計売ってくれるか心配になる。
「分からないの」
「断られる可能性があるのね」
呆れながらそう返事をしていた。
「あれ?」
倉へと向かっているのに、道が妙に静かだった。
荷車の音すら聞こえない。
「に、荷車が!?」
近くでは荷車が横倒しになっていた。
積み荷が散乱していて、明らかに何かがあった感がある。
どうしてこんな事が……。
すると、大きな声が聞こえてきた。
「やめろ!」
争っている音だ。
そして袋を抱えてこっちに向かって走ってきた。
姿は、明らかに盗賊らしき男性。
目が血走っていて、焦りと苛立ちが混ざっている。
ただの悪党というより、追い詰められた獣のようだった。
彼が言っていた盗賊の一員なのかな。
「どけ!」
明らかに私達とぶつかる。
「うわわ……」
「サフィー!」
避けないと。
こんな急に盗賊と出会うなんて。
でも、震えてしまって動けない。
あの断罪の場で、視線を浴びたときと同じ感覚。
身体が凍りついて、思考だけが空回りする。
盗賊は短刀を持っていて、避けないと刺されてしまうかもしれない。
なのに……恐怖で動けなかった。
(やばいやばい……動けないよ)
そのまま刺されてしまうのかなって思ったけれど……。
「えっ……」
すると、盗賊を追いかけるように黄色髪の女性が走っていた。
地面を蹴る音が軽くて、盗賊よりも速い。
盗賊との距離が、目に見えて縮んでいく。
まるで最初から追いつけると分かっている走り方だった。
「何だこの女は!?」
盗賊は振り返るが、既に距離は詰まっている。
「常連さん……?」
この女性、マッサージを受けに来ていた人。
まるで陸上競技をやっているような動きをして、追いつこうとしていた。
「うわっ!?」
彼女は思いっきり盗賊に体当たりした。
その衝撃で彼は倒れて、袋が転がる。
「逃がさないよ」
女性はのしかかって、動けないようにしていた。
「あっちに怪我をしている商人がいるから、手当てして!」
「う、うん!」
言われるとおり行ってみると、数人の商人が怪我をしていた。
大きな怪我をしている人もいるけれど、私とアプリルで一応の手当をする。
「大丈夫ですか?」
血の臭いが鼻を刺す。
でも、露店で怪我をした客と触れたときと同じように、手は震えなかった。
「ああ……なんとかな……」
「結構、酷い怪我をしているわね」
こんな被害が出ているなんて。
危険すぎるって。
「盗賊は一人だけだったんですか?」
「いや、複数人いた」
周囲を見回すが、物陰には誰もいない。
けれど、完全に去った保証は無かった。
という事は、他は逃げた可能性があるんだ
仕方ないけれど。
「ありがとうな」
「いえ、私は……」
手当を済ませると、商人は感謝していた。
そして黄色髪の女性が、捕まえた盗賊を当局に引き渡そうとしていた。
「君達は先日の……」
倉庫番が話しかけてきた。
どうやらこの一件を知って来たみたい。
「はい、また仕入れたいなって思いまして」
「そうなのか。手当ては君達が?」
私は何も言わず、頷いた。
すると倉庫番は周りを見て、こう私に問いかけた。
「……何を仕入れたい?」
倉庫番は捕まった盗賊を一瞥し、それから倒れている商人達を見る。
その視線が、少しだけ和らいだ。
「良いんですか?」
「ああ。君達のおかげで、彼らが助かっているようだからな」
私は足りないものを言っていく。
すると、倉庫番は用意してくれた。
「高いが支払えるか?」
「問題ありません」
私はお金を支払って、品物を受け取る。
「まあ、また来てくれ」
「……はい」
倉庫番に頭を下げて、宿へと帰っていく。
さっきまで震えていた足は、もう止まっていない。
怖かった。
でも、逃げなかった。
持たせられるかな、これで。




