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聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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優しさの棘

 その夜、眠りに落ちた私は、王子と並んで舞踏会を踊る夢を見た。

 伸ばされた手を取り、踊るたびに胸が高鳴り、誰もが私を祝福してくれる。

 シャンデリアも大理石の床も輝いている。

 ーーそう、これこそヒロインの私にふさわしい未来。


 ……けれど、目を覚ましたときに見えたのは、隣のベッドで眠るアプリルの横顔だった。

 夢のきらめきは一瞬で色褪せ、胸の奥に小さな寂しさが残る。

 アプリルの横顔は何故か現実を思わせてしまう。


(大丈夫……殿下はきっと、私を見てくださる。だって私はヒロインだから)


 翌朝、鏡の前で髪を整える手が自然と震えていた。

 少しでも美しく見えるようにとリボンを結び直し、深呼吸をして学院へ向かう。


 ーーそして廊下の角を曲がったとき。


「やあ、また会ったね」


「で、殿下!」


 私は王子とばったり会った。

 笑顔が素敵で、この人と結ばれる事に期待感が高まっていた。


「お天気も良くて……素晴らしいですね!」


 緊張していて、こんな会話しか出来ない。

 ゲームだったらもうちょっと良い選択肢が出るはずなんだけれども、ここは現実。

 そんなに上手くいくわけなんてない。


「ああ。君も太陽と同じように綺麗だ」


「殿下……嬉しいです!」


 顔が紅く染まっていると思う。

 それくらい感情が高ぶっていた。


「さて、また会おうか」


「はい……!」


 王子はまた歩いていった。

 しかし……


「アプリル、久しいな。体調はどうだ?」


「お心遣い痛み入りますわ、殿下」


 すぐ横で、王子がアプリルにも優しく声をかけるのを聞いてしまった。


(……どうして。アプリルはもう破滅したはずなのに。どうして殿下は、あの人にも……)


 婚約破棄されているから、王子がアプリルに近づく理由なんてない。むしろ、そんな人が会話したら……

 胸の奥に、ひやりとした棘が刺さった。

 それが嫉妬だと気づくのに、時間はかからなかった。

 アプリルへも優しく声をかけた殿下の姿が、何度もまぶたに焼き付いて離れなかった。

 ひやり、と首筋を風が撫でた気がした。

 私は笑っているはずなのに、頬の筋肉だけがぎこちなく震える。


(どうしてーー私だけを見てくださらないの?)


 胸の奥の棘が、鼓動に合わせて少しずつ深く沈んでいった。

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