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聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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三人で見た売り上げ

 宿に戻る頃には、街はすっかり夜の顔になっていた。

 石畳の通りには橙色の灯りがともり、昼間の喧騒が嘘のように落ち着いている。


「ふぅ……」


 部屋に入った瞬間、私は思わず息を吐いた。

 身体は疲れているはずなのに、どこか心地よい。


「お疲れ様です、サフィーさん!」


 ロータスはそう言いながら、窓を少し開けて夜風を入れる。

 アプリルは椅子に腰を下ろし、静かに手袋を外した。


「さて……本日の成果を確認しましょうか」


 その一言で、空気が少し引き締まる。

 私は露店で使っていた布袋を、そっと机の上に置いた。

 一瞬だけ、私達は言葉を止める。


「じゃ、じゃあ……これが、今日の売り上げ」


 袋の口を開くと、銅貨と銀貨が控えめな音を立てて転がった。

 思っていたよりも、ずっしりとしている。


「……思った以上ですわね」


 アプリルは一枚一枚、丁寧に貨幣を数えていく。

 その手つきは、メイドとして学院で書類を確認していた頃と同じくらい落ち着いていた。


「干し果物が一番出ていますね。次が干し肉、香草袋も、伸びています」


 ロータスは帳簿を開きながら、素早く計算していく。

 こんなに能力があるなんて、一緒にいて頼もしいね。だから学院のメイドとして働いていたのかもね。

 紙の上で数字が整っていくたびに、私の胸が少しずつ高鳴った。


「……合計すると、日銭としては十分すぎるくらいです」


「え、そんなに……?」


「そうね。二日目としては、かなり良い売り上げですわ」


 アプリルは顔を上げ、はっきりと言い切った。

 その声には、評価と安堵が混じっている。


「サフィー、貴女はちゃんと”商い”をしていますわよ」


 アプリルのその言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。

 この街の人達に顔を覚えてもらった、この事に私は嬉しくなる。


「私、失敗すると思ってた」


 ぽつりと零れた本音。

 二人は何も言わず、続きを待ってくれる。


「ギルドに止められて、怒られて……何も出来ずに終わるんじゃないかって。ニコラさんの露店を潰してしまう事になるのかなって」


「でも、終わらなかったですよ! 続いています!」


 ロータスが、ぱっと笑顔を向ける。

 本当に元気ね、ロータスって。


「むしろ、始まった感じです!」


 その明るさに、思わず笑ってしまう。


「ええ」


 アプリルも小さく頷いた。


「貴女は今日、”誰かの役に立つ”ことを恐れなかった。それは、とても大きな一歩ですわ」


 私は机の上の貨幣を見つめた。

 ただのお金なのに、今日一日の重みが詰まっている気がする。


「明日も、ちゃんとやれるかな」


「やれますわ」


 迷いなく、アプリルは言った。


「今日出来たのなら、明日も出来ますわ。それにーー」


 少しだけ表情を和らげて、続ける。


「貴女は独りではありませんもの」


「そうですよ!」


 ロータスが元気よく頷く。


「あたし達、ちゃんと帰ってきますからね! 毎日、サフィーさんの成果を見に!」


 その言葉に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。

 でも、それは痛みじゃない。


「……ありがとう」


 声が少しだけ震えた。

 灯りの下で、三人の影が床に並ぶ。

 断罪でも、破滅でもない。

 ただ、今日を生き抜いた人間としての影。

 こうして夜は更けていく。

 小さな露店の一日が、確かな”再生”として胸に刻まれながら。

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