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聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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ギルドの検査

「よし、今日も頑張ろう!」


 翌朝、私は昨日と同じ時間に、宿を出た。

 露店の布をめくって、木箱を並べながら深呼吸をした。

 昨日よりも人が多い気がする。

 緊張で喉が渇くけれど、逃げるわけにはいかない。

 ニコラさんの代わりに店番をすると言ったのは、他でもない私なのだから。


「今日も……頑張ろ」


 朝の日差しに、店先の金属製の飾りがきらりと光った。

 今日から店先にはもう一つ看板を置いて。

 昨日アプリル達の仕事を聞いて、焦ったから置いてみたものだったり。

 少しして、最初のお客さんが来た。

 干し果物を手に取りながら。


「嬢ちゃん、あのお兄さんは今日も居ないのかい?」


「はい。用事でしばらく不在だそうです」


「へえ、珍しいねえ。まあいいや、これ三つちょうだい」


 思ったより自然に返事が出来て、自分でも驚いた。

 どこか、胸の中があたたかい気分になる。

 でもその安堵を破る出来事は、突然やってきた。


「失礼。商業ギルドの者だ」


 影を刺すように、青い外套の男が三人。

 胸には商業ギルドの紋章が光っている。

 彼らを見た露店街のざわめきがすっと引いた。


(……ギルド!? こんな早く来るの!?)


 喉の奥がひゅっと縮む。

 客だったおじさんが気まずそうに離れていく。


「この店の主は?」


「えっ……えっと……私が今、代わりを……!」


「代理? では”代理人承認書”を見せてもらおう」


 承認書なんて……そんなの、もらってない。

 ニコラさん、何も言っていなかった。

 胸がぎゅっと痛む。


「あ、あの……書類は……」


「まさか無許可の店番ではないだろうな?」


 ギルドの人の圧が重い。

 まるで”悪事を暴く”時の視線。

 断罪の場を思い出し、足がすくんだ。

 今まで信じてもらっていた人から裏切られる、そんな恐怖。


(いや……いやだ……もう、あんなのは……)


 あの時は断罪を受けるって決めたから、あの断罪も内心は受け入れられた。

 でも今の状況は違う。

 このままでは、何もなしに捕まる可能性がある。

 どうしようもないかもしれない、そう思った瞬間……


「失礼いたしますわ。こちら、わたくしの代理でございますの」


 澄んだ声で割って入った。

 アプリルだった。

 旅服姿なのに、一歩前に出た姿は、貴族令嬢としての”気品”がにじむ。


「この露店はわたくしと主のニコラ氏の”共同契約”下にあります。こちらがその証明書ですわ」


 アプリルが差し出した紙は、昨日彼女がチェックしていたもの。

 商業ギルドで正式に写しを取った”共同出店許可”の書類だった。


(え……アプリル、そんなの準備して……?)


 ギルドの人は紙に目を通し、眉を上げた。


「これは……確かにギルド印がある。昨日提出されたものか」


「ええ。店主不在の間、わたくしの監督していますわ」


 アプリルの声には一切の揺らぎが無い。

 ”悪役令嬢として陥れられた時の口調”ではなく、”人を守るための令嬢の声”だった。


(いつの間にそんなのを……)


 気になったけれども、アプリルに訊くのはこれが終わってから。

 でも作ってくれたんだ。


「書類も正しいみたいだ……」


 少しして、後ろからロータスが駆け寄ってきた。

 息を切らしながらも、手には細かい帳簿と在庫表を持って。


「あ、あと……在庫と売り上げ記録です……! 昨日の分、ちゃんとまとめました……!」


「これは……ずいぶん丁寧に管理されているな」


 ギルドの人が思わず感嘆するほど、ロータスの字は整っていた。


「問題は……無いようだ。むしろ……」


 三人のギルドの人達が顔を見合わせる。


「むしろ前より管理が良い。露店規約と完全に沿っている。よって代理として認めよう」


「あ、ありがとうございます……! よ、良かった……」


 息が漏れた。

 膝から力が抜けそうだった。


「君、名前は?」


「さ……サフィー、サフィー・プラハです……」


「しっかりやりたまえ。期待している」


 ギルドの人が去っていくと、露店街の空気が戻ってきた。

 周りの露店の店主達もひそひそと話している。


「さっきの嬢ちゃん、ギルドの人を押し返したぞ」


「いや、後ろの二人が凄ぇな……あの書類、どこで取ったんだ?」


「なんだか、本格的じゃねえか」


 私はへたりこみそうになりながら、震える声で呟いた。


「アプリル……ロータス……ありがとう……」


「当然ですわ。何のために一緒に来たと思っているの?」


「サフィーさんを守るために、ですよ」


 二人が両脇に立っている。

 太陽の光が、露店の布越しにこぼれ落ちた。

 私は気づいた。


(この二人といたら……この先だって、怖くないのかもしれない)


 そんな温かい気持ちが、胸の奥からふっと浮かび上がった。


「ねえ、これってどこで作ったの?」


「昨日仕事が終わった際に、ギルドへ行きましたの。せめてこういったのをするなら、こういったことはしませんと」


「ありがとう……」


 ちょっと申し訳ない気持ちになってしまう。

 私は恥ずかしく顔を赤らめる。


「凄いね! 若いのにそこまで出来るなんて……」


 隣の店主が話しかけてきた。


「わ、私はまだそこまで……」


「でも、それだけ信頼できる人がいるって、凄い事だよ! 頑張りな!」


「は、はい……!」


 少し勇気が湧いてきた感じがする。

 ほんのちょっとだけ、このお店を守れる自信が強くなった。


「サフィー、これは何なのかしら?」


 ふとアプリルが新しく置いた看板に目を付ける。


「肩もみにヘッドマッサージ……ですか?」


 ロータスが看板に書いた文字を読み上げる。


「そう! 肩とか頭とか、店先で座りながら出来そうなのをね」


 私自身、出来る仕事を増やしたかったから。

 


「確かに貴女は上手いけれど……来るのかしらね」


 ちょっと懐疑的な目を向けているアプリル。


「分からないけれど、試しにね」


「へぇ~、やってみたら良いじゃない」


「じゃああたし達、そろそろ行きますから!」


 アプリル達はそれぞれの仕事へと向かっていった。

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