一日目の仕事
日が昇るにつれて、客も増えていった。
「この干し果物、試食出来るのかい?」
「はい、どうぞ!」
「お、うまいじゃないか! 二袋くれ!」
毎回おどおどしていたけれど、少しずつ慣れていくのが分かった。
子供が駆け寄ってきて、売り物の石を手にしていた。
「このキラキラした石、きれい! いくら?」
「それは……えっと……これくらいだよ」
「おこづかいで買える!」
そう言って笑った子供に、私の胸も温かくなった。
ーーああ。
断罪とか、破滅とか、あの舞台の冬みたいな世界とは全然違う。
ここではただ人と話、人と笑い、人から必要にされている。
それだけで、夢が救われていくようだった。
「どう? ちゃんと出来ていますの?」
夕方、店仕舞いの準備をしていると、アプリルが仕事終わりに様子を見に来た。
「うん……午前はちょっと失敗しちゃったけれど、でも、ちゃんと売れたよ!」
「そう。よく頑張ったわね」
アプリルは珍しく、ほんの少し目を細めて微笑んだ。
「サフィー、貴女……”誰かのために動いて、誰かに認められる”ことが好きなのね」
「え……?」
まるで私のことが分かるみたいに、話していた。
「学院ではあれほど空回りしていたのに、今日はとても自然に見えるもの」
胸がくすぐったくなり、思わず目をそらした。
「う、うん……だって、嬉しいんだもの。誰かが笑ってくれるのって……」
「ええ。その気持ち、大切にしなさい」
アプリルの声は、砂漠の夜の風よりも柔らかかった。
今日の店番は何とか終わった。
「ふぅ……ちょっと疲れたね」
宿に戻り、ベッドに腰を下ろす。
足は痛いけれど、心は軽い。
「……今日、生きているって感じがしたな」
あの廃都での孤独も、断罪の舞台も、聖女様の囁きも、今は少しだけ距離がある。
ーー明日も頑張ろう。
そんな気持ちで、私は目を閉じた。
こうして、私として”初めての仕事の一日目”は幕を閉じた。




