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聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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初日の失敗

 翌朝、まだ街が動き始める前。

 私は少し早めに宿を出た。

 石畳には朝露が残り、空気はひんやりとして気持ちが良い。

 緊張で胸がざわついていたけれど、なんとか足は前へ進んだ。


「ここ……だよね」


 昨日、ニコラさんと話した露店。

 布で作られた簡易的な天幕に、木箱がいくつも並んでいる。

 乾燥果物、香辛料、小さな工芸品……

 いかにも”旅の商人”という感じの品揃えだ。


「えっと……札を出すんだっけ」


 昨日教えてもらった通り、”臨時店番中”の小さな木札を看板の隣にかける。

 朝の光が差し込んで、文字が浮かび上がる。


「よし……」


 少し深呼吸して、店の前に立った。

 気分は少しだけ文化祭に出ている模擬店のようだった。


「おや、この店は……ニコラのところじゃないかい?」


 最初に来たのは、小柄な老婆だった。


「あ……はい! ニコラさんが不在で、今日から私が店番を……」


 この方は私が王国で破滅した事を知らない。

 やっぱり隣国までは届かないのかな。

 だから安心出来るかな。この国で働いていたら。


「へぇ……若い子なのに大変だね。じゃあ、この香辛料をーー」


 そう言われて、私は慌てて香辛料の袋を取り出した。

 けれどーー。


「……あれ? 値段、いくつだっけ……」


 昨日、ニコラさんに『これはこれね』って説明されたけれど……

 緊張で全部飛んでしまっていた。


「あの、ごめんなさい! こっちが……えっと……」


 焦る私を見て、老婆は眉をひそめた。


「大丈夫かい? 本当に任されているのかい?」


「は、はい……! すみません、少しだけ……!」


 ーーやばい、信用を失う……!

 そう思った瞬間。


「サフィーさん、これです!」


 ロータスが走ってきて、値段をそっと渡してくれた。

 彼女は給仕の仕事があったのに、私のために……


「あ……ありがとう!」


 本当に助かった。私ってまだまだだね……

 こんなので失敗しちゃうなんて。

 それでも、なんとか老婆に商品の代金を伝え、無事に売ることが出来た。


「しっかりしないとねぇ、若いの!」


「は、はい……」


 老婆はクスクス笑いながら去っていった。

 励まされるような感じがして、ちょっと恥ずかしくなっちゃう。


「た、助かった……ロータス……」


 来てくれなかったら、大変な事になっていたよ。


「心配だったので、ちょっと来てました!」


 ロータスは胸を張って、太陽みたいに笑っていた。

 しかも、仕事をするのにも関わらず。


「ではあたしも、仕事を頑張りますね!」


「うん! 行ってらっしゃい!」


 ロータスは、元気よく去っていった。

 本当に頑張ってね。

 アプリルも頑張っているのかな。

 そう思いながら、今日からの仕事をしていく。

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