廃都を出る日
今、私はそれが発揮されたため、廃都に追放された。
廃都に風が抜けていく。それをサフィー・プラハとして感じていた。
でも……今も思っている。
「私……本当に中途半端……」
「中途半端……ですか……?」
あんな裁定の場で、演技をしていたとはいえ、アプリルを断罪しようとして……
私自身がもっと優しかったら、告発状なんて書かなかった。どんな事があろうと、真っ向から聖女様と反発した。
アプリルを守った。
でも……結局私は……
「殿下と一緒になる幸せに酔いしれて……グルナ様に従って、アプリルを断罪しようとした……」
だからこそ、私はヒドイン。
憧れのサフィーを私が思っている最悪のバッドエンドにしてしまった。
偽りのヒロインにしてしまった。
悪女なのよ。
「サフィーさん……」
私は両手で顔を覆って、涙を流した。
こんな私でも涙はまだ出るのね……
「グルナ様を信じ続けたから……私は……私は……」
涙は止めどなく出続ける。
まるで私がヒロインであったかのように。
でも、あんなことをした私がヒロインであってはいけない。
「でもサフィー、貴女は本当に見るべきものを見失っていなかった」
「わ、私が……?」
そんなの……もし見失っていなかったら、こうなっていない。
どうしてアプリルはそう言えるのかしら。
だって、だって、私は……
「もしも貴女が見失っていたとしたら、貴女は最悪の末路を遂げていた。わたくしもですが」
言われて気がついた。あの夢……
ひょっとしてあの通り、私がアプリルを断罪していたらーー私もアプリルも破滅していた。私とアプリルには何も残らない。
そんな終わり方だったのかも……
となれば……まだ残っているのかな……?
「だから、ありがとう」
「アプリル……感謝なんて……」
「貴女が演じたのは決して無意味じゃないから」
「そうです! 本当に守りたいものは、守れたんです……!」
アプリルの感謝と、ロータスの励まし。
とても温かくて、安らぐ。
昼間は暑くて夜が寒い、この廃都で感じたことのないものだった。
「アプリル……ロータス……」
心の中で少しだけ洗い流されるような気持ちだった。
二人って本当に優しい……
「でもね、中途半端というのなら、そうかもしれないわ」
「……やっぱり」
アプリルでも感じていたんだ。
「貴女は自身が破滅すれば、わたくしがずっと助かる……そう思っているんでしょうけれど、そうはいかないですわ」
「どういうこと?」
もうゲームとしてのストーリーは終わったのだから、これでアプリルは……
今はバッドエンドを迎えた先にあるもの。
だから……
「グルナがわたくしを破滅させようとするのはやめませんわ。確かに一旦は救われましたが、時間を置いて破滅しようと動きますわよ。グルナ・フストはそんな女でしょうから」
「そんな……無意味だったの?」
私が破滅したとしても、アプリルは絶対に守られないの?
何で……
「いえ、そんな事はありませんわ。貴女の本心が分かりましたし、これからの行く先が見えましたので」
「そっか。良かった」
「ですから、わたくし達と一緒に行きますわよ。それが、貴女に課せられた罰ですから」
アプリルは荷物を手にしながら、言っていた。
まるで廃都の砂漠を抜けると言っているように。
「い、行くの……? でも私は追放されて……」
「この罪は、『廃都への追放』だけですわ。追放された後は、抜け出ようがどうにもなりますので」
そんな重いように見えて軽いような罪だなんて……
「この国で罪を犯さなければ、この国で生活だって出来ますよ」
ロータスが補足していた。
そうだったんだ。砂漠を抜けられれば、元の生活がある程度出来るなんてね。
都合の良い罪。
王国で廃都に追放されたって、隣国では生きられるなんて。
「ですが、簡単に抜けられては困るから……衣服だけにするんですのよ。それだと、この廃都で朽ち果てるだけになりますから。砂漠を抜けられずに」
今の私には追放される際に着ていた服だけが残っている。
それ以外は何もない。まあ、元々転生した時にあったものしか無かったけれど。
確かに服だけだったら、砂漠なんて抜けられない。途中で野垂れ死ぬだけ。
「なら出られるのね」
孤独だったら終身刑、信じてくれる人が居たら、追放されるだけ。
そんな罪があるなんて。
「ええ。そのための準備もしていますので」
二人が持っていた荷物には、さまざまなものがあった。
水だけじゃなくて、食料や新しい衣服まである。
「あ、ありがとう……」
二人はそんなところまで……
本当に私をここから出そうとしていたのね。
風が止んだ瞬間、世界の音がすべて消えた。
その静けさの中で、アプリルとロータスの掌のぬくもりを感じる。
この温度の中に、初めて”救われる”という言葉の意味を知った気がした。
(私はこの人達を信じて……もう一度歩いてもいいのかな)
胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなった。
「じゃあ、着替えなさいな。見ませんから」
「うん……」
私は言われるとおり、服を着替える。汚れきったこれまでのものから、新しい服に。
身体も洗いたかったけれども、流石にそんな場所はないから、仕方ない。井戸の水はそんなに綺麗じゃないから。
古びた布を脱いだとき、砂埃が舞い上がった。
それがまるで、私の中にこびりついていた後悔や罪が剥がれ落ちるように見えた。
新しい衣服の布地が肌に触れる。冷たくて、でも少しだけ希望の匂いがした。
「やっぱり綺麗ですわね」
ロータスが褒めてくれた。服のことを言っているのか、姿の事を言っているのか分からないけれど。
「えへへ……でも、髪とかはくすんじゃっているけれど……」
べたべたしていて、女の子として大事なものが埋もれちゃったかな。
破滅しているからどうでもいいかもしれないけれど……
「砂漠を抜けてから考えましょう」
「そうだよね。抜けたら、水がある所だってあるから」
「さて、これから廃都を出るわ」
もうアプリルは荷物を整えていた。
話したら、すぐに出る感じじゃん……
「急じゃない?」
「ここに滞在していても、身体が休まりませんわ。せめて抜けた先で何とかしましょう」
廃都に休める場所なんてない。私も身体が疲れ切っているし。
「うん……」
確かにここへずっと居ても、意味は無い。
それなら早いうちに出た方がいいけれど……
「じゃあ、行きましょう」
アプリルが先に一歩を踏み出す。
その足跡を風がさらっていく。
でも、跡が消えても”道”は続いている。
「案内はお願いするね」
二人は廃都へ来るまでも、砂漠を歩いてきたのだから。
多少は慣れているんだよね。そう信じたい。
私にとっては、佐奈としても歩く道なき道だから。砂丘だって歩いた事はないし。
「勿論です!」
廃都の門を抜けた瞬間、背後で砂が渦を巻いた。
まるでこの場所が、私達の過去をやさしく埋めてくれるように思えた。
罰ではなく、始まりの旅。
という事で、私達は廃都を抜けて、砂漠地帯を歩いていくことにしたのだった。




