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聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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廃都での再会 アプリルからの真実

【アプリル視点】

 数日後、わたくし達は廃都に着いた。

 砂丘を越えたとき、空気が変わった。

 遠くに、石の街が見える。

 屋根は崩れ、塔は折れ、窓の穴から風が抜けていた。

 それでも、どこかで”呼吸”を感じた。

 砂に覆われたはずの街が、まだ生きている。

 きっと、彼女がそこにいるから。


「ここが……廃都……」


 ロータスが呟く。

 その声に、風が応えた気がした。

 まるで街そのものが、来訪者を迎えているように。


「サフィー・プラハ」


 廃都の中央部に、彼女は居た。

 ボロボロの衣服にくすんだ金髪。顔も疲れ切っている。


「あ、アプリル……」


 疲労によるものなのか、声が涸れ気味。


「着きましたね……アプリル様……」


 ロータスもここまで歩いてきたから、疲れていた。

 彼女って本当、体力があるのね。


「アプリル・ブラチスラバ! お前のせいで私は破滅したんだ!」


 わたくしを見るなり、サフィーは目を血走りながら指さして叫んだ。


「サフィー……」


 ここまで来ても、彼女は悪者を演じようとしていた。

 彼女なりの筋なのかもしれない。


「お前もよ、ロータス! お前が破滅に追いやったんだ!」


「やっぱり……」


 ロータスにも指さした。この様子を見て、演技じゃないって思ってしまっているのかも。


「何でこんな場所に来たのよ!? わざわざ私を笑いに来たの!?」


 風が止んだ。

 崩れた柱の影がゆっくりと伸び、わたくし達を二つに分ける。


「笑ってよ、笑いなさいよ。殿下と結ばれるはずだったのに、現実は廃都へ追放になった私を……」


 サフィーの瞳は、どこか遠くを見ているようで、けれど確かにわたくしを見ていた。

 あの裁定の日と同じ、迷いを隠したままの目。


「選択を間違えて……」


 次々と、サフィーはわたくしを非難するように見せかけて、己をいじめていた。

 これ以上はやめて。

 もう分かっているから……


「……サフィー、もう芝居はおやめになって」


 その言葉が、砂の上で静かに沈む。

 わたくしのその言葉を聞いた途端、サフィーの表情に困惑が。

 まるで言われるとは思っていなかったかのように。


「えっ……?」


「サフィー、貴女はわたくしを守るためにわざと自滅した。そうでしょう?」


 彼女にわたくしが気づいた事を言っていく。

 偽りの仮面で、自身を壊し、わたくしを守った。サフィー、貴女はこれ以上見せなくても大丈夫。


「ねえ、何でそんなこと……」


「もう偽らないでくださいな。こんな場所に追放されても、偽りの仮面をつけないで」


 だから、もう本当のサフィー・プラハを見せて。

 わたくしは涙が出るのもいとわずに、彼女にぶつける。

 返事の代わりに、彼女の肩から力が抜けた。

 砂の城が崩れるとき、音はしない。ただ、形だけが変わる。


「……バレちゃったか」


 その一言のあと、風が再び吹いた。

 風が舞い上がり、二人の足跡を消していく。

 サフィーは、さっきまで見せた狂気を消して、はにかみながら笑った表情を見せた。その言葉にだけ、生きている熱が戻っていた。


 沈黙。

 その沈黙の中で、わたくしは悟った。

 彼女にとってはこれで終わりで、わたくしにとっては始まりなのだと。


 やはり彼女は、わたくしを守ったのだ。

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