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聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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ついてきたロータス

【アプリル視点】

「結構来たわね」


 数時間は歩いただろうか。ちょっと休憩していた。

 もう学院の建物はすっかり見えなくなっていた。

 それにもう戻れないけれど。


「はぁ……サフィーは干からびていないかしらね」


 廃都には地下水があるとはいえ、心も病んでいくあの場所なら、そこまで時間があるとはいえない。

 早めに行かないと。


「……アプリル様」


「あら?」


 誰かが叫ぶ声がする。

 どうしたのかしら。


「アプリル様! アプリル様!」


 声の方向を見てみると、そこにはロータスがこっちに向かってきていた。

 メイド服じゃなくて私服姿で。


「ちょっと、ロータス!? 何でここまで……!」


 明らかに旅をする格好をしていて、まるでわたくしについていこうとしているような……


「あ……あたしも行きます! アプリル様を一人には出来ません!」


 急いで駆けつけたからか、息切れをしていた。

 いや、何でここまでわたくしを追ってくるのかしら。


「ロータス、仕事があるんじゃないの!?」


「辞めました! アプリル様と一緒に行きます。もう学院には辞表を出しましたので」


 行動が早すぎる。

 思いつきでしていいものじゃない。


「そこまでして……」


「学院での仕事を推薦してくれたトパーズさんには、申し訳ないですが……今のあたしにはアプリル様が最優先です!」


 どこまでわたくしの事が好きなのかしらね。

 もう色々と不義理をしようとしているから……


「……分かったわ。でも、一つだけ約束して。わたくしがこれから向かう先に、決して目を背けないで」


 サフィーが廃都まで持って行った真実に、ロータスは気づくことはない。

 ロータスにとっては、サフィーが悪人だと思っても仕方ないと思うだろう。

 だからこそ、約束してほしかった。


「……分かりました!」


「ありがとう。じゃあ行きましょう」


「はい!」


 わたくし達は廃都へと向かっていく。

 途中で砂漠を抜けるのに必要なものを揃えて。

 廃都は、この砂漠の中央にあるかつての都市。オアシス都市としての機能を失った現在、砂漠を越えるためには、準備万全でいくしかない。


 やがて砂漠に入ると、これまでの光景とは変わっていく。

 昼は白く、夜は青い。

 砂漠の色は一日のうちに何度も姿を変えた。

 太陽が昇るたびに、わたくし達の影は短くなり、沈むたびに長く伸びてお互いの足跡を飲み込んでいく。


「暑いですね……」


 ロータスが笑いながら言う。

 唇は乾いて、笑顔なのか苦笑なのかも分からない。


「夜になれば凍えるわよ。油断しないでね」


 そう言いながらも、わたくしも息が荒くなっていた。

 風が吹くたび、砂が頬を叩く。

 まるで誰かの声のように、”まだ行くのか”と問いかけてくる。

 でも止まれない。サフィーが選んだ孤独の重さを。

 この身で確かめるまでは。


「気をつけてね、サソリとかもいるかもしれないから」


「は、はい……」


 水袋は一人あたり三つ。砂鉄で針が狂うから、星で方角を取る。

 露出を抑えた格好で、身体を守る。


「どうして廃都に向かうのですか? あの場所には、サフィー・プラハが追放されているのに……」


 廃都に向かっている途中、ロータスは訊いてきた。

 こんな場所に……サフィーが居る場所にわざわざ向かう理由を知りたいから。


「だからこそよ。わたくしは、サフィーに会うの」


「な、何で……あの人はアプリル様を破滅させようとしたーー悪女ですよ!? アプリル様を恨んでいるんじゃ……」


 肯定したら、案の定ロータスは驚いていて、罵っていた。

 仕方ないけれどね。


「そんな事は無いわ。だって……サフィーはわたくしを守ろうとして、”わざと”破滅したから」


「わざと……破滅?」


「気づいたのよ。裁定において、わたくしを完全に終わらせようとして、逆に自滅したけれども……でも本当は演技をしているって。わたくしにはイヤなほどに」


 そんな彼女を放っておけない。

 自分を犠牲にしてまで、こんなわたくしを守ろうとする彼女を。


「もしかして確かめようと……?」


「ええ。救われた側が、ただ生き延びるだけでは、不公平でしょう?」


「演技じゃなかったら、どうするんですか?」


「その時は……その時よ。だから、約束した通り、目を背けないで」


「は、はい……」


 砂漠の夜は静かすぎて、考える時間ばかりが増える。

 どうして、ここまで来たのか。

 彼女を責めたいのでも、赦したいのでもない。

 ただ彼女が選んだ”破滅の形”に、わたくしも並びたかっただけ。

 同じ重さの罪を抱えて、同じ場所で息をしたかった。

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