一人の地獄、二人の天国
【アプリル視点】
次の日、サフィーは廃都へ追放される馬車に乗り込まれようとしていた。
群衆が彼女へ暴言や嘲笑を投げつける。
当然石だって投げつけられていた。
「やめて……!」
「……私はヒロインなのに」
でも、自身が主役を気取った悪役であるように叫び、泣いていた。
誰も信じないし、むしろそれを逆手に罵声が大きくなる。
乗り込まれる際でも、それは続いていく。
わたくしは、胸を痛めつける気持ちで乗り込まれる様子を見ていた。
サフィーがわたくしを守ろうと、最後の最後まで悪人でいようとしている。
助けたいけれど……そうすれば彼女を余計傷つける。演じきろうとしている彼女の思いを踏みにじりながら。
だから貴女に届かない声でこう呟いた。
「……もう芝居はおやめになって」
彼女は廃都へと追放されていった。
これでわたくしは破滅から逃れた。
でもこれで良かったの。
とはいえ、グルナはしばらく手を出せないだろう。下手に危うくすれば、自身が破滅しかねない。
聖女が転落する可能性もあるから。
わたくしは、しばらくこのままで居られるのかもしれない。
メイドとしてこのままの生活が続くといえる。誰にも監視されずに。
サフィーがわたくしに、与えてくれた結果。
その代わり、サフィーは誰も居ない廃都で過ごす事になった。
このまま彼女は廃都で朽ち果てるのだろうか。
誰も来ないような、砂漠の中央で。
そんな末路を迎えさせても良いのか。
自らをそんな運命に置かせ、わたくしだけが助かる。
かつてのわたくしだったら、それでも良かったかもしれない。誰かが破滅しようと関係ないと。
でも、今のわたくしは一度破滅して、メイドになっている。
ロータスやサフィーと出会い、変わってしまった。
サフィーをあのままにしておけない。
控え室に戻ると、黒いメイド服が椅子に掛けられていた。
磨き上げた布地が、誰かの影を吸って沈んでいる。
わたくしはその上から、白いハンカチを一枚置いた。
ーーこれで終わり。
誰かに仕える自分を、ここに置いていく。
「今までありがとうございました」
それだけ告げて、扉を閉めた。
音が鳴った瞬間、何かが終わった。
そして歩き出した。
この道の先に、廃都がある。
破滅を選んだ彼女が、まだそこにいるなら。
貴女一人の地獄なら、わたくしも一緒に行きましょう。
二人の地獄だったらきっと、天国になるから。




