廃都での再会
「夢……だったのね」
指先にまだ、王宮のシャンデリアの光が残っている気がした。処刑されることなく、幸せのままでいられたあの場面の。
でも、目を覚ますと、場所は追放された廃都のままだった。
朝の風が冷たくて、凍えそう。
「何が本当のハッピーエンドよ……もうバッドエンドしか残っていないじゃない」
もう私に残されたのは、廃都で死ぬまで過ごす。孤独に。
ここからハッピーエンドになるって、どう転んだらいけるのよ。
廃都を抜け出すのも不可能と言えるし。
「悪夢過ぎるじゃない……」
あの夢を思い出す。ハッピーエンドになったのは良いけれども、私の末路は首が飛んだというあんな夢。
結局、破滅したっていうのは面白かったけれど……
私自身が目指していたハッピーエンドが偽りだったから。敦賀佐奈として、憧れ続けていたものがね。
良いように利用されたあげく、捨てられるなんてね。
可能性の末路がそれって、哀れ通り越して笑いたくなる。
こんなはずじゃなかった。
だって、ゲームの中なら、努力すれば報われるはずだったのに……
ゲームで憧れたハッピーエンドがそれって……もうマルチバッドエンディングじゃん。
「でも……そっちが良かったかな……?」
王子と結婚できているし、幸せを謳歌していた。
それなのに私は……
罵られた上に、結婚できずに廃都へ追放された。
幸せを掴めていない……バッドエンドよ。
何で私はサフィーを破滅に追いやっちゃったんだろう。絶対にこれだけは迎えてはいけなかったのに。
「もう……いっそ……」
心が崩壊しそうになる。
ずっとずっと、ここで過ごすのかな。
私はぼんやりと、かつての街並みを見ていた。
その時……
廃都の風が止んだ。
砂が静まり返ったその瞬間、誰かの声が響いた。
「サフィー・プラハ」
私の名前を呼ぶ、その声。
それを聞いたとき、いつもの幻聴かと思った。
廃都の風が響かせる幻かと。
でも違っていた。
「あ、アプリル……」
廃都には居ないはずの女性、アプリル・ブラチスラバが立っていた。
どうしてこの場所に彼女が……
この女は私が破滅させるはずだった。のに、私が破滅してしまった。
許せない……
彼女を見ていると怒りが出てきてしまう。
「着きましたね……アプリル様……」
さらには、ワインレッドの髪をした眼鏡の女性までやってきた。
荷物を持ちながら砂漠を歩いて結構体力を使ったのか、息切れしている。
確か彼女はそう、ロータスって言っていたっけ。
アプリルを断罪させるための証言をしていたのに、彼女はアプリルを守ろうとした証言だけじゃなくて、私を悪者にした証言まで……
おかげで私は破滅して、ここに追放された。
何でここに来るのよ。
許せない……
許せない……!
「アプリル・ブラチスラバ! お前のせいで私は破滅したんだ!」
私はアプリルに思いっきり、感情をぶつける。
こうでもしないと、心が落ち着けなかったから。彼女達は平然と日常を過ごしていて、私は砂漠でボロボロの生活を送っている。
その格差が許せなかった。
でも言いながら、心のどこかで分かっていた。
本当に憎んでいるのは、あの時の自分自身だってことを。
「サフィー……」
アプリルは私を見て、複雑そうな表情をしている。
何を思っているんだろう。
哀れな女として見ているのか、ゴミとして見ているのか。
「お前もよ、ロータス! お前が破滅に追いやったんだ!」
「やっぱり……」
悲しそうな表情をしていた。
そうよね、これが舞踏会で王子と踊っていた女の、醜い末路だもの。
「何でこんな場所に来たのよ!? わざわざ私を笑いに来たの!?」
広大な砂漠を歩いてここまで。
私を笑いたいんだ。
破滅させるのに失敗した、馬鹿な女を。
王子とのハッピーエンドを逃して、バッドエンドになった阿呆を。
「笑ってよ、笑いなさいよ。殿下と結ばれるはずだったのに、現実は廃都へ追放になった私を……」
もう私が笑いたくなった。
哀れでも無い、私自身を。
「選択を間違えて……」
「……サフィー、もう芝居はおやめになって」
アプリルの赤い瞳は真剣だった。
全く笑っていないし、真実を見ているような感じ。
「えっ……?」
私が芝居……?
どういう事?
「サフィー、貴女はわたくしを守るためにわざと自滅した。そうでしょう?」
何を言っているの?
私はアプリルを破滅させようと……
とどめの一撃を加えようとして、自滅して……
「ねえ、何でそんなこと……」
そんな目で見ないで。
私は……私は……
「もう偽らないでくださいな。こんな場所に追放されても、偽りの仮面をつけないで」
頬に涙が伝う。
もう湖と同じで枯れちゃったはずなんだけれどな。
見たら、私と同じようにアプリルも涙を流していた。
悪役令嬢が涙を流さないで。流して良いとすれば、断罪されて破滅する場面だけ……
泣かないで。そんなつもりじゃない。
アプリルが泣いたら……私は……私は……
もう良いかな。
「……バレちゃったか」
私ははにかみながら返事をした。
この瞬間、私につけていた仮面は全て外れたのだった。
ヒドインという仮面が音もなく。
廃都の風だけが、私達の間をすり抜けていった。




