王子との出会い
王子と出会う。その期待はすぐに叶う事になった。
ある日のこと。
私はついに、彼に出会う事が出来たから。
出会ったのは学院の教室にて。
「おっとっと」
ちょっとペンを拾おうとしてよろけちゃった。
「大丈夫かい?」
「は、はい……あ、あれ……?」
差し伸べられた手を取ろうと見上げたとき、心臓が跳ねた。
「サフィー・プラハ嬢ですね」
爽やかな声とともに、差し出された手。
そこに立っていたのはーーキリル・デ・プレスラバ王子。
「は、はいっ!」
あまりの緊張で声が裏返ってしまう。
けれど、王子は優しく微笑んでくれた。
私の目をまっすぐに見つめ、穏やかに頷いてくれる。
(ああ……やっぱり、これだわ! ゲーム通り、いや、それ以上! もうすぐハッピーエンドにたどり着ける!)
胸が高鳴り、夢見心地になった。
「サフィー、勉学に励んでいると聞いているみたいだ。君のような真心ある姿、聖女様は必ずご覧になっているはずだ」
殿下が……私を認めてくださった。
これこそヒロインの証よ……!
「頑張ります!」
「俺も期待している」
よし、こうなったら勉強をもっと頑張らないと!
そう思っていたけれども……
ーーその瞬間、ふと後ろの方から視線を感じた。
アプリル・ブラチスラバだった。
彼女は棚を掃除していたけれども、王子と私を一瞥しただけで、また掃除に集中していた。
(……冷たい。祝福してくれてもいいのに……)
私の胸は夢でいっぱいだったけれど、その冷ややかな仕草が、どこか針のように刺さっていた。
しかも陶酔している状況を打ち砕くように、今度は横からわざとらしい声が響いた。
「まぁまぁ、サフィーさんったら。殿下と目が合っただけで”お芝居の主役気取り”ですの?」
モニカ・ヴォローシンが腕を組んで、取り巻き達を従えてにやりと笑う。
ゲームだったら貴女も取り巻きの一人なんだけれど。
「勉学に励んでるんですって? でも庶民の娘にできることなんて、限られてますわよね」
「きゃははっ!」
「本当に殿下のお相手になると思ってるのかしら?」
笑い声が突き刺さった。
胸が痛み、唇が震える。
でも私は必死に顔を上げた。
(これはイベントの一つ……だから。いじめに耐えた先に、必ず救いがある。ヒロインだから大丈夫……!)
私は必死に言い聞かせる。
ふと横を見ると、アプリルが掃除している手を止めて、わずかに眉をひそめていた・
けれど何も言わず、ただ静かにその場をやり過ごしていた。
(……冷たい。でも、あの人には私の夢なんて分からないんだ。殿下と婚約していたくせに)
夢に酔いしれる私と、冷ややかな視線、嘲笑。
それぞれに思惑が交錯する教室で、胸の鼓動だけがやけに大きく響いていた。




