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聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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光の部屋へ

 その夜、食堂の灯りは柔らかく、談笑の声があちこちから聞こえていた。

 けれど、私の耳には何も入ってこなかった。

 テーブルの上で、湯気の立つスープを見つめながら、私はぼんやりとしていた。

 グルナ様の言葉がまだ頭の中で響いていたから。

 ”明日の夜、大事な話をしましょう”

 その一言が、ずっと胸の奥で鳴り続けている。


 トレイを持って座ると、アプリルが向かいの席に座った。

 相変わらず落ち着いた所作で食事をしているけれど、その顔にはどこか疲れが滲んでいる。 目が合った瞬間、私は視線を逸らす。

 最初、どちらも先に口を開けなかった。

 でも沈黙を破ったのは、彼女だった。


「……サフィー、今日は学院で何かあったの?」


 静かな声。

 以前と同じ、心配してくれる響きなのに、私は何故か息苦しくなった。


「ううん、何も。大丈夫よ」


 笑って返したけれど、その笑顔がひどく薄っぺらく感じた。


「舞踏会の後、疲れていない?」


「平気よ。グルナ様のおかげで、すごく幸せだったの」


 笑顔のまま返したけれど、アプリルはわずかに眉を寄せた。


「……そう。なら、いいの。無理だけはしないでね」


 そう言って、また俯いてしまった。

 アプリルの言葉は、まるで祈りのようだった。

 でも、私にはそれが”遠慮”に聞こえてしまった。

 これ以上何を話せば良いのか分からず、またぼんやりとした。

 少しして冷めたスープの上に、淡い月光が反射している。

 私はその光から目を逸らすように、食事を終えた。


(ごめんね、アプリル。でも、あなたの優しさはもう、私を導けないの……)



 夜更け。

 部屋の灯りを落とし、アプリルは机で日誌を書いていた。

 ペン先が紙を走る音だけが静かに響く。


「おやすみなさい、サフィー」


「……うん。おやすみ」


 背を向けたまま返事をする。

 手の中には、昼間にグルナ様から渡された小さな封筒。

 ”今夜、この時間に来てください”と記された文字が脳裏に浮かぶ。

 そのままベッドから起き上がり、そっと靴を履く。

 胸の鼓動が早くなる。


(……グルナ様の部屋へ行かなくちゃ)


 そのとき、背後から声がした。


「夜風が冷たいから……気をつけてね」


 アプリルの声。

 まるで、すべてを見透かしているようだった。

 でも、振り向けなかった。


「うん……すぐ戻るから」


 扉のノブを握る手が震える。

 けれど、もう迷わない。

 私は光の方へと歩き出した。

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