夜の訪問者
夜更け。
アプリルが眠った後、部屋の灯りを消してから間もなく、扉が控えめに叩かれた。
「……サフィー、まだ起きているかしら?」
グルナ様の声だった。
思わず飛び起きて、アプリルを起こさないように慌てて扉を開ける。月光に照らされた白銀の髪が、夜の静寂に淡く輝いている。
「グルナ様……!」
「夜分にごめんなさいね。少し、お話ししたくなって」
そう言われただけで胸が高鳴る。私は迷いなく頷き、彼女の後に続いた。
案内されたのは、学院の一角にある小さな応接室。蝋燭の明かりに包まれた空間で、彼女は椅子をすすめ、微笑んだ。
「先日のお茶会、とてもよく振る舞えていましたわ。殿下も貴女を見て、確かな誠実さを感じていらしたわ」
「ほ、本当ですか……?」
「ええ。わたしはずっと見ていましたもの。サフィーが、どれほど努力しているかを」
その言葉に、胸が熱くなる。
アプリルが言った『自力で掴んで』という言葉が、一瞬頭をよぎる。
でも今、目の前にいるのは自分を信じ、誉めてくれる存在。
グルナ様はやさしく私の手を取った。
「だから、どうか迷わないで。殿下に選ばれるのは、貴女です。わたしが保証します」
藤色の瞳に見つめられた瞬間、あらゆる不安が溶けていった。
胸の奥の痛みも、アプリルへの罪悪感も、霧のように。
「……グルナ様……!」
涙がにじみそうになって、私は思わずその手を強く握り返していた。




