蝋燭の影
その夜。
寮の部屋に入ると、アプリルが机に向かって黙々と帳面を整理していた。
蝋燭の灯りが赤い瞳を照らし、影が揺れている。
「……サフィー」
その声に、思わず背筋が伸びた。
呼び止められたはずなのに、胸の奥がざわつく。
「なに?」
「今日の事、どう思っているの?」
その一言で胸が強く脈打つ。
アプリルの視線は真剣で、彼女の声は震えていないのに、必死に抑えているような張り詰めた響きがあった。
「どうって……グルナ様が正しいに決まっているじゃない」
自分でも分かっていた。即答しすぎた。
でも、それを否定したら、私は迷ってしまう。だから口早に言葉を重ねた。
「だって、あの人が声を上げれば、みんな信じてくれるじゃない。まるで奇跡みたいに」
アプリルは小さく息を呑み、何かを言いかけては飲み込む。
赤い瞳が震えているのが、蝋燭の炎に揺れて見えた。
「……サフィー。わたくしは、ただ貴女に間違ってほしくないの」
「……っ」
声が痛い。優しいのに、刃のように胸を刺す。
思わず机の上に視線を落とした。
「やめて、アプリル。私はヒロインなのよ。だから導いてくれるのは、グルナ様だけなの。あなたじゃない」
言い切った瞬間、アプリルの顔から血の気が引いたように見えた。
けれど彼女はただ静かに俯き、それ以上は何も言わなかった。
寂しい沈黙だけが残る。
蝋燭の炎が小さく揺れ、影が二人の間に深く落ちていく。




