太陽の下の影
昼休みの中庭。
お昼ご飯を食べた後、私達が花壇の周りで談笑する中、グルナ様はいつものように柔らかな微笑みを向けて輪の中心に居る。
まるでグルナ様は太陽。さんさんと優しい光を私達に向けている。
「心配しなくてもいいの。努力は必ず実を結ぶわ」
ある生徒がグルナ様へ試験などで不安になっている事を言って、グルナ様が頭を撫でながら安心させていた。
「さすがグルナ様……!」
周囲の生徒達は感嘆の声を上げ、憧れの眼差しを向けていた。
その中には当然私も居る。
「決して諦めてはいけませんわよ」
「はい……!」
グルナ様のはげましは、この世界の誰よりも強い力がある。
だからグルナ様に尊敬しちゃうんだ。
「……そこで何をしているの?」
ふとグルナ様が中庭の外を見た。
視線の先には、掃除道具を抱えたアプリルの姿。タイミングのせいかもしれないけれど掃除する訳でもなく、私達を見ている。
「ぐ、グルナ様……」
「……また出しゃばっているのね、アプリル・ブラチスラバ」
「わたくしは、ただ掃除を……」
少々尻すぼみな声を出して、グルナ様に反論していた。
「言い訳は聞き飽きたわ」
グルナ様は微笑みを崩さないけれど、声には棘を込めている。
それを躱す力なんてアプリルには無い。
「あなたが居るだけで皆の気分を悪くするの。どうして理解できないのかしら」
周りがアプリルを嘲笑する。
アプリルは俯いて、静かにその場を離れていった。
「ごめんなさい。気分を悪くしてしまって」
「いえいえ、グルナ様のせいではありません」
「悪いのはあのブラチスラバですから」
私も他の生徒と同じように同調していた。
タイミング的になんであそこに居るんだろう。こうなるのは理解出来るはずなのに。
アプリルが去った後、中庭の空気は再び和やかなものに戻っていった。
生徒達は「やっぱりグルナ様が正しい」と頷き合い、彼女の周りに花が咲いたような笑顔が広がっていく。
「サフィーさんも、心配はいりませんわ」
不意にグルナ様が私の方へ視線を向け、やさしく微笑んだ。
その目は、私だけを選び取るように真っ直ぐでーー胸の奥がじんと熱を帯びる。
「あなたは誰よりも努力を重ねている。だから必ず殿下に認められます。……わたしが見守っていますから」
「……っ!」
胸が震えて、思わず頷いてしまう。
その瞬間、周囲の生徒達の羨望が一斉にこちらに注がれてきた。
けれど私はそれを誇らしく受け止めることができた。
(やっぱり……グルナ様こそが私を導いてくれる。あのアプリルと違って……)
ふと、視界の端にさっき去っていったアプリルの背中が残像のようにちらつく。
でもグルナ様の藤色の瞳に見つめられた途端、その影は霞のように遠のいていった。




