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聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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祝宴の影

 学院の祝宴。

 舞踏会は無事に終わって、私達は食堂へ。

 テーブルには豪華な料理が並び、王子や貴族達が談笑していた。

 アプリルなどの侍女達は、料理を運んだり皿を片付けたりして、動いている。

 その中で、私は自分の皿に盛られたサラダを見つめて固まっていた。


(うう……食べないといけないのかな……)


 真っ赤に熟したトマトが、宝石のように光っていたから。

 何とか他の野菜は食べていたけれども、トマトだけが残ってしまう。

 私はトマトが嫌い。あの酸味とかがどうしても口に合わない。

 そんなトマトがどうしてよりによって、ここに……

 フォークを伸ばそうとするけれども、指先が震える。


「どうした、サフィー? 食欲がないのか?」


 そんな様子を斜め向かいの席に座っていた王子に見られてしまう。


「い、いえ……その……」


 トマトが嫌いなんて言えない。

 言えないはずなんだけれども……

 必死に取り繕おうと言葉を考えていくけれども、口から出てきたのはーー


「……わ、私……トマト、苦手で……」


 ほぼ直球の言葉だった。

 一瞬だけ、場が静まり返る。

 でもその瞬間、モニカとその取り巻き達がクスクスと笑う。

 しかも水を得た魚のように……


「まあ、サフィー様ったら可愛らしいですわ」


「子供のようで微笑ましいですわ」


 気がつくと私は頬を赤くして、はにかみ笑いで誤魔化しちゃった。

 王子は笑っていたけれども、その笑みにもどこか『甘やかすような』響きがあった。

 私の胸はチクリと痛む。


「次の料理が来ますので、こちらお済みでしたらお下げしますわ」


 するとアプリルがトマトのサラダを下げた。

 またはにかんだけれども、少し嬉しかったと同時に恥ずかしい気持ちもあった。


(ピンチを救うなんて……アプリルがヒロインに見えるじゃない……)



 宴が終わり、灯りの消えた回廊に出る。

 月光が白く床を照らし、夜気がひやりと肌を撫でた。

 そのとき、不意に背筋をなぞるような視線を感じた。

 振り返っても誰もいない。

 けれど、祭壇に飾られた白い花が一輪、風もないのにかすかに揺れていた。


(……今、誰かが……?)


 胸の奥に小さなざわめきが広がる。

 それは、まだ名前のない不安の種だった。

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