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聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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舞踏会前夜


 舞踏会の前夜。

 窓の外では、学院の庭園に提灯の灯りが揺れ始めていた。明日の舞踏会に向けて、生徒達が飾り付けをしていったもの。

 人のざわめきと灯りの光が、まるで『これから祝福が訪れる』と告げているようでーー私の胸はさらに高鳴った。


(明日は……物語のヒロインらしく、みんなの前で輝くんだわ!)


 私は自室の鏡の前でドレスを合わせながら、胸の鼓動を抑えられずにいた。

 このドレスは舞踏会に併せて、学院が発注してくれたもの。希望の色をベースに作られている。色は舞踏会の雰囲気に合ったものから選ぶ形だったけれど。


(ついに……殿下と並んで踊れる日は来るのね。これで本当に”ヒロイン”だって証明できる……!)


 頬を紅潮させ、夢見午後地でドレスの裾を広げてみせる。


「……浮かれて転ばないように」


 背後から冷ややかな声がした。振り向けば、アプリルが雑巾を手に立っていた。

 煌びやかな夢を映す私と、現実を拭う彼女。二人の姿は同じ部屋にありながら、まるで別の世界にいた。


「転んだって、殿下が助けてくださるもの!」


 私は強がって言い返す。

 けれどアプリルは肩をすくめただけで、窓辺に視線を向ける。


「華やぎは一瞬。けれど失態の記憶は長く残りますわ」


 その声音は、冷たいのに優しくもあった。

 かつてアプリル自身が破滅した事を含んでいるのかもしれない。

 胸を刺されるような痛みを覚えながらも、私は鏡に映る自分の笑顔を見つめ直す。


(大丈夫……私はヒロイン。輝く未来は、きっと私のものだから……)


 アプリルは雑巾を絞ると、何事もなかったかのように黙って机を拭き続けた。

 その背中を見ていると、胸の奥に小さな棘が刺さったように疼く。


(……でも、きっと大丈夫。だって明日は、私はヒロインで、彼女はもう破滅済みの悪役令嬢なんだから)


 私はそう言い聞かせてドレスを抱きしめる。けれど、胸の奥にある自分の笑顔が、ほんの少しだけぎこちなく見えた。

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