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第8話

 注意書きとかそういうもの。


 ちょっと病んでる感があります。なんというか、感情の方向性とか深さとかが。



 じゃあじゃあととめどなく水音が響く。

 ひたすらに、ただひたすらに私は、シャワーの幾つもの穴から勢い良く流れ出る水の末路を眺めていた。ぼんやりと、何も、考えずに。

 ふっと意識が覚醒して、自分がシャンプーをした後の状態で、その泡を洗い流そうとしていた事を思い出す。

 ―ずっと、智が居ない、智が無い世界について考えていた。考えて考えて、でもそれはどうしようもなく袋小路に陥るもので、だから最終的に、考えや意識が止まってしまったのだ。

 私は最早何も考えられなくなりながら、シャンプーを流す為にシャワーを持ち上げる。後頭部から耳の後ろへ、耳の後ろから頬へ、水が滴り落ちる感覚が、あるのに、無いようで。麻痺した皮膚を撫でる様子を、見て、見ることによって撫でられている事を認識するような、そんな感覚がする。

 シャワー音だけがいやにはっきりと聴こえる。


 ―気付けば私は、嗚咽していた。


 吐き気のような喉の引きつり。でも、それは確実に泣いている時のそれだった。

 きっと今私が泣いている事は誰にも気付かれないだろう。微かな声はシャワー音に、涙は後頭部から流れる水に流れてかき消されて、誰にも、彼にも気付かれずに、私はひとりで、泣くのだろう。

「………………あれ」

 と。気付く。

 私は、水に流してごまかすまでもなく―涙を流していなかった。



 それでも私は、涙を流さず、泣いていた。



***



 時間は無機質に過ぎた。あの後私は何事も無かったかのように風呂を出て、リビングで今にも飛び降り自殺をしそうな少女とそれを止める友人達の友情物語が、テレビで繰り広げられていたのをちらっと見た。そして部屋に入って私は、特に理由も無く窓を開け放し、冷たい風と雨を浴びながら呟いたのだった。

「私、死にたいかも」



 見下ろした薄暗い光景に何も感じない事よりも、みんなと離れるという事よりも。

 私は、智と離れるのが嫌で嫌で仕方なかった。―どうしても、どうしようもなく。

 ―私は、智が、好きだったのだろう。

 そして今も。

 なんて今更。なんて手遅れ。

 もう、どうにもならない。

 私はどうやら無様な事に、気付かぬうちに失恋していたらしい。

 そして―

 ―彼がいなければ私は何もかもがどうでも良かった事に、気付いたのである。

 生きていく意味を、見失う程に―



 私は考えた。この辺で一番高い建物は、千恵美の住むマンションだ。じゃあそこに行こう、と。

 私は部屋着のまま、家を出た。上着も何も羽織って来なかったので流石にとても寒い。しかも、雨は相変わらず小降りながらも、止む気配はない。千恵美の家は近くはないがしかし、引き返そうとは思わなかった。



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