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第5話


 朝。千恵美との待ち合わせ場所に立っていると、美術部の現部長の朋ちゃんに会った。会ったと言うか、すれ違った。

 朋ちゃんは私に気付かず、彼女の友人と思しき人と話していた。

「で?どうだったの?昨日」

「OKだった…っ!いいって!」

「おおっ、良かったね!!元部長と現部長かぁ」

 私は多分、目を見開いた。千恵美から朋ちゃんの話を聞いた時以上に。

 驚いた。

 これはもう、純粋に。

 じゃあ今、智と朋ちゃんは付き合ってるんだ。

 ―へぇ。

 想像がつかない。でも、そうなんだ。

 程なくして、千恵美がやって来た。それとなく話を智の方へ持っていき、さっきの話を持ち出してみる。

「朋ちゃん、OKだったって」

「うん。知ってる。昨日、朋ちゃんから聞いたよ」

「…なんだ。知ってたのか」

 しかし、千恵美がその事を知っている事に関しては、少し考えれば分かる事だった。千恵美と朋ちゃんは、先輩後輩以前の問題として、友達同士なのである。だから、朋ちゃんが智に告白する事を知っていたのだ。

 なるほど。つまり私は、そんな事に気付けなかった程、驚いていたのか。私はそんな自分に驚いた。

 ―そしてその先にある私の感情とか思いとかそういうものについて私は、考えなかった。無意識に、だけれどひょっとすると考えたくないと思う私のどこかが意図して考えに歯止めをかけたのかもしれない。

 それに、本当に思いもよらなくて。まるで現実味の無い事だったから―



***



 卒業式という、一種の晴れ舞台を明日に控えているというのに、部屋の窓から見える空は曇り空だった。下手をすると明日、雨が降るかもしれない。それはそれで、多くの友達との別れを悲しむ卒業生達の心情を表しているのかもしれないが。

 それとも、今日とは打って変わって、晴れるだろうか。生憎私は今朝、天気予報を見逃したので、確実な事は分からなかった。そもそも天気予報というものも、単なる予想なので確実さには欠けるのだが。ただ、個人的には晴れとは言わずとも、雨は降らないでほしい。

 雨は嫌いだ。私はいつだって折り畳み傘を持ち歩いているから、急に降る事に関して不平を言う訳では無く、かと言って外で運動ができない等と不満を言う訳でも無い。だいたい、私は完全なインドア人間だ。例え晴れていたって、間違っても外を走ろうとは思わない。

 なら何故なのか。聞かれても、私は明確な答えを持ち合わせてはいない。私はやっぱり、別に雨の所為で理由無く鬱屈した気分にはならないし、そして理由ありきの陰鬱とした気分にもならない。ただ、嫌いなのだ。おばけは怖いもの。と、子供が思う、その『怖い理由』が無く、直結しているのと同じ事だ。

 私は、晴れも好きではない。でも、ひだまりは好きだ。これには理由がある。単純に、暖かいから。でも、ひだまりを見るのは嫌い。目がチカチカするから。日陰は目に、いつも通りの平穏を与えてくれる。

 それはともかく私は、青空が嫌いだ。いつだって雲が流れている。その様子が途方もなくて、目が回るのだ。まるで車に乗っているような気分になる。走っている車の窓から空を見ると、丁度雲が風に流されるように、風景が横切っていく。同じ理屈で、乗り物酔いの酷い私は青空を見ると、気持ちが悪くなっていく(勿論雲のない青空は例外だけれど)。

 でも、晴れた日の夕焼けは大好きだ。単純にとても綺麗だから。

 最終的に辿り着くのは、私は天気の中で、曇りが一番好きだという事だ。

 晴れないけれど、雨も降らない。強すぎる光は差さないし、冷たすぎる水も降らない。白でも黒でもないグレーの雲が渦巻く曇り。けれども確かに、私は曇りが嫌いではなかった。

 そうか。そう考えると今日は、私の一番好きな天気の日なのか。とはいえ、『雨が降るかもしれない』と気を揉むのは、いい気はしないが。

 私のそんな思いを知ってか知らずか、空は更に薄めた墨汁のような雲色を濃くする。




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