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第3話


 翌日。今日から学校では、卒業式の練習のみをする事になっている。だから午前中だけだ。

 とはいえ、そんな事を簡単に喜べる程、私は素直ではない。たかが卒業式の練習の為だけに、今日から学校に行かなければならないのである。そもそも卒業を祝われる側である私達に、練習というものが必要なのがおかしいと思うのだ。

 そんな鬱屈とした思いを胸に抱えつつ、私はいつもそうしている様に、窓のカーテンを引いた。そこにはいつもそうである様に、学校が在った。



「おはよう」

「おはよー」

 待ち合わせ場所にて、千恵美と落ち合った。今日は風が強いのだなと、千恵美の長い髪が靡くのを見て、気付く。そして自分の三つ編みにした髪も、風の所為で背中でポンポンと跳ねている事に気付いた。何となく見上げた空は青かった。白い雲が強すぎる風に流されていく。はやい。はやい。はやい。

「朋ちゃんらしい!」

「だね」

 昨日智とした話をしながら、私と千恵美はゆっくりと学校に向かった。



***



 卒業式の練習は、思っていたより楽で、思っていたより苦痛だった。

 ひとつ、思っていたより私達のするべき事は少なかった。

 ふたつ、思っていたより座っている時間が長く、辛かった。

 そんなものだろう、と思った。

 そして今日の練習は終わり、私はまた、千恵美と並んで帰路に着いていた。

「…え?誰?」

「智が」 聞き返した私に、千恵美は短く答えた。

 先程会話の中に智が出てきて、ふと千恵美が思い出した様に言ったのだ。『智、告られるよ』と。

「いや、そうじゃなくて。智が、誰に?」

「ああ。そういう意味か。…智が、朋ちゃんに」

 私は多分、目を見開いたのだと思う。それだけ純粋に、驚いた。千恵美が良い反応だとでも言いたげに、いやらしく笑う。

「智、いいやつだもんね」

「…そっか。卒業だしね」

「うん。告白シーズンなんだよ」

 閑話休題。

 話はそこで終わった。

「それじゃねー」

「ばいばい」

 千恵美と手を振って別れる。強い風が私の全身に、容赦なく吹き付けた。

 また、空を見上げる。雲が音もなく流されていた。

「智と朋ちゃんか」

 私としては、思いもしなかった意外な取り合わせ。全くの予想外。でも、無理矢理ではない。

【静かな芯の強さは圧巻でした!】。

 最後に滲み出ていたのは、敬意だけでなく、抑えきれない恋心だったのか。

 ―さてはて。智はどうするだろう。

 YESかNOか。

 YESなら、意外。ありえないとは思わないけれど、意外だなあと思う。

 NOなら程度に差はあれど、これまた意外。こちらの方がまだ現実味はあるけれど。

 どちらに転んでも意外。

 なら、どちらだって良い。どうせ同じ事ならば。

 いつの間にか家に着いていた。鍵を開けて、小声でただいまと言いながら入る。奥から、扉が開いた音に気付いたのであろう母親の『おかえりー』と気怠げに間延びした声が聞こえた。

 部屋に入り、窓を開ける。まだ肌寒い空気が部屋に流れ込んだ。

 昨日何とはなしに机に飾った色紙を見る。騒々しい文面に、私は嫌気が差して、それを本棚の本と本の隙間に入れた。

 そして、その色紙があった隣に置いている、縁がくすんだあめ色である写真立てに、目を遣る。この写真立ての縁は、元は明るい茶色だったのだが、今はかつてそうであったという面影すら見られない。そんな写真立てに目を遣る。―正確にはその中の写真に。何時何処で如何なる故にその写真を撮ったのかは、最早思い出せない。ただそれが、小学生の時である事だけは分かる。そうとしか分からない。しかしそれをずっと飾っているのは、この写真が好きだからなのだろう。

 しばらくそうして眺め、部屋に流れ込む冷風に身を震わせた。そして、特に理由も無く開けた窓を、閉めたのだった。




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