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ファンタジー

かぐや姫、異世界に転生したから自分で幸せを掴む

作者: めみあ


 

 かぐや姫の世界に転生した。

 もちろんかぐや姫として。


 ――って、始めるつもりだったけど、どこで間違ったのか、かぐや姫in異世界になりました。


 

 とりあえず、月には帰れない。

 それはわかる。

 

『そちらは我の力が及ばない。声もこれが限界――』


 あのとき、神のような存在との繋がりがこの言葉を最後に途切れた。

 

 抽選で好きな世界への転生の権利を得たから、かぐや姫の世界に生まれ変わりたいと願った。もしトラブルがなかったら、平安の世に生まれ変わるはずだったのに。


「竹から生まれたかった……」


 私は世界樹の下に投げ出され、大きな斧を担いだ女性冒険者に拾われた。


 そこで大切に育てられ……てはおらず、即奴隷商人に売られ、そこで大切に大切に扱われ、誰に売ろうか見定められているとこ。


「カグヤは見た目だけだからなあ」


 ジーンが私のつやっつやな髪を櫛で梳かしながら呆れ声で笑った。

 

 そう。私は何をやらせても上手くならない不器用なかぐや姫だった。美貌に全振り。


「ぽんこつでごめんなさい」

  

 ジーンは技術職や芸術家を扱う奴隷商人だが、私は特例で買われた。


「まあいいさ。器用な奴の方が売れるが、それがなくてもお釣りがくる美貌だ」


 そう言われて鏡を見れば、そこに映るのはまさに天女。

 艶々の黒髪、麗しすぎるかんばせ、真っ白な肌にしなやかな肉体。


(やっぱり十二単が着たかったな……この世界はヨーロッパ顔が多いから基本的に洋装だし)

 

「そうだ、ジーンさん。私の値段を釣り上げる方法を思いついたんですよ。多分入れ食いです!」


「……それとお前はあまり喋らない方がいい……慣れていても少しガッカリする」


 ちなみに、ジーンは馬が合うし見た目も好みだ。でも恋愛対象としては見れない。超がつくほどの愛妻家だから。

 私は前世で略奪され続けた。だからもしジーンさんを好きになってもそんな真似は絶対にしない。




 

 そんなこんなで競売日。


 売られる者たちは己のできることを見せる。

 ジーンは奴隷商としての目利きは確かで、ほとんどの奴隷にはすぐに買い手がつき、評判もいい。


 今日も順調に買われていくと思ったが、今回は初めて野次がとんだ。ある彫刻家が作品をだしたときに「そいつを買うなら自分で彫った方がいいぞ」と。

 姿は見えなかったが若い男の声だった。

  

 少し場が白けたが、私の出番になり空気がガラリと変わった。

 私の姿を見た全ての人が口をポカンとあけたまま動けず、場内が静まり返るという事態に。

 それから女神が降り立ったと大騒ぎになり、私だけ再度日を改めて競売されることになった。




 その間に私の噂がまたたくまに広がり、姿を一目見ようと各地から権力者や富豪たちが集まってきていた。


(よしよし、予想通り)


 この後の予定は、私が買い手に条件を出し、買い手の人となりを判断する時間を稼ぐつもりでいる。


(とにかく美貌しか取り柄がないなら、フル活用させてもらう。今世こそ幸せになるために!)


「……天女が鼻息荒く拳を突き上げるのはやっぱり慣れないな」 


 ジーンが呆れてため息をついた。





 改めまして私の買い手を決める日。

 私は女神ここにありきというような神秘的な装いで舞台に上がり、決めていた言葉を放つ。



「わたくしが望むものを手に入れた方に、わたくしの全てを捧げます」


 目一杯の媚びをつくり、上目遣いに願えば、気を失う者が複数でるほどの威力。


 ――これは……人を惑わせる悪魔と言われて処刑されてもおかしくないレベルかも……美しいって罪なんだな、本当に。



「なんて、美しさだ!」

「おいっ、全財産早く持ってこい」

「女神だ……!」

 

 カオスと化した場内。

 ジーンは静かに壇上に立ち、

「今回は特別ルールで、奴隷より買い手を選ぶ趣向でございます。ご覧の通り、希少な人材ですから」と、私が望むものリストを掲げた。

 その内容でさらに会場の混乱がヒートアップした。





 リストの中身はこんな感じ。


 ・ドラゴンの鱗(生きている状態で剥がしたもの)

 ・炎を纏う熊の毛皮(ひと突きで殺さなければダメ)

 ・フェンリルの髭(数百年に一度生え変わる)

 ・七色の鉱石(外では七色に光るが、洞窟内ではただの石にしか見えず、石が人を選ぶ)

 ・世界樹の芽(無垢な心の者しか見つけられない)

  


「こんなのSSランクの冒険者でも無理だ」

「いや、世界樹の芽ならワンチャンある」

「とりあえず文献をあされ!」


 口々に語られる言葉に私も(へえ……)と感心してしまう。ジーンから渡されたメモをそのまま採用したけど全て入手困難なものらしい。

  

 本家と違い、どのアイテムもどうにかすれば手に入るものにした。

 理由は、帰る場所のない私はここで生きるしかなく、それなら一番幸せになる場所を自分で探そうと決めたから。


 ――前世は、何が幸せかわからないまま終わった。今世はそれを知りたい。





「わー……あれが王子か。あれはないなあ」


 竜の鱗をはがすため、国の兵を駆り出した王子。自分は後方から偉そうに指示を出している。


 私はそれを上空から眺めて判定中。


 なぜこのようなことができるのかというと、美貌全振りの私にもささやかなチートがあり、それが鳥の目を借りること。すっごく目が疲れるからあまり使わないけど。

 

 

 

 炎の熊は、特S級の冒険者が仕留めた。

 フルCGのような戦いに目を奪われたけれど、仲間を口汚く罵ったり、雑用の子に乱暴を働いたりしていたのもしっかり見させていただいた。


「この人は……いやだな」


 

 

 フェンリルの髭は、元々持っている男がいた。男を脅して奪おうとする者が後を絶たず、途中で願いのリストからはずした。


「迷惑かけちゃったなあ」

   

 

 七色の鉱石は苦労せず掘り出されたようだ。鳥の目では洞窟内が見られず、誰が見つけたかはわからなかった。

 現場を仕切っていたのが脂ギッシュな金満家だったが、出口で職人達ともめていた。


「七色の石をわけてくれる約束だったろ!」


「七色の鉱石に傷をつけさせるわけがないだろう。これ以外の石なら使わせてやると言ったはずだが」


「なにを!」


   

 金満家と護衛と職人達が揉み合うのを眺めながら、ふと視線を巡らせれば、片隅で一心不乱に石を彫る男が目に入る。どこかで見たような気がしたが、気のせいかと鳥の目を切った。


 

 世界樹の芽は人海戦術の規模が大きすぎて、鳥の目でも追いきれなかったから保留にした。ただ、雇われていたのが身なりの汚い子供ばかりで、ちゃんと報酬をもらえているのかが気になった。





「……軽く考えてたけど、人の闇ばかり見る羽目になったなあ……」


 ついこぼした私の愚痴に、ジーンが笑みを浮かべ、「そもそも人を買う奴にまともな人間がいるわけないだろ」と皮肉を返してきた。


 

 


 

 奴隷が買い手を選ぶという前代未聞の状況も、ようやく終わりを迎えようとしていた。


 ・竜の鱗

 ・炎を纏う熊の毛皮

 ・七色の鉱石

 ・世界樹の芽


  四つが私の前に並べられた。


  王子が恭しく手を差し出し、

  冒険者が自信満々な表情を浮かべ、

  金満家がにちゃあと笑い、

  狡賢そうな男が頭を下げた。


  それぞれ背後には彼らを恨めがましく見る者たちを引き連れている。


 (うわー……選ばないは駄目なんだよなあ。言い出しっぺは私だし)


 その時.金満家の背後で興味なさそうに立っている男が手にしているものに気づく。

 

 小さな石像。私を模したもの。

 柔らかく微笑んだ表情を切り取っていた。

 

(あ、もしかして洞窟の脇で石を彫っていた人?)


「あの……そこの、石像を持っているおかた」


 男は辺りを見回し、俺?という風に怪訝な顔をする。ボサボサ頭で身なりも頓着ない。作業中に無理やり連れてこられた感じだ。それでも作業途中の作品を大事そうに抱えている手つきに好感を持った。


「貴方が手にしている石像は私ですよね? 私はここでその像のような表情を見せた記憶はないのですが」


 男はキョトンとしたあと、「ああ」とすまなそうな表情を見せた。


「これか。君の顔が女神像に合う顔だったから勝手に顔を使わせてもらったんだ……嫌な気持ちにさせたなら悪かったな」


(あ、この声、初日の野次の声だ。彫刻バカなんだろうな。一点特化型で気が合いそう)


 心が決まるのは一瞬だった。

 幸せは自分で掴むもの――そう思ったら自然と言葉が口をついて出た。


「こんな顔でよければ一生使ってください」




 逆プロポーズ(私を買ってとお願い)をすると、ジーンが「出世払いでいいぞ」と援護してくれた。

 さらに周囲の職人から、「そいつが石を見つけたんだから誰も文句は言えねえよ!」と声が上がる。


 それを見ていた4人がそんな馬鹿なとイキリ立つ。私がアルカイックスマイルを浮かべると彼らは少し機嫌を良くした。


 その隙に、私が真実を突きつける。


「私は全て知っています。貴方たちが人を使って手に入れたことも、人を騙したり傷つけたことも」


 彼らがギクリと肩を揺らす。

 


「その品々は持ち帰って構いません。協力をしてくれた人たちに報酬を忘れないでくださいね」


「うちに買われるか? 悪いようにしない」


 ジーンが後ろに控えている人たちに声をかけた。俯いていた彼らが顔を上げたことが答えだろう。


 

(まあ、ジーンは奴隷商のフリをした派遣会社の社長みたいなものだからね)


 それからジーンが続ける。

 

「おい、言い忘れていたが、カグヤは天から遣わされた女神だからな、機嫌を損ねたら神の裁きを受けるぞ。仕返しなど考えるなよ」


 と、まだ恨みがましい表情の4人に声をかければ、彼らは尻尾を巻いて逃げ出した。



「私が女神? あと神の裁きって……」

「その見た目なら信じるだろ」


 ウインクするジーンに私は呆れて言葉も出ない。


 そして、私を押し付けられた彼は今、私の顔をスケッチしている。彼もまた夢中なことに全振り系だ。

 

「ひとつ聞いても?」


 私が声をかければ、筆を止めて目を合わせてくれた。


「私は女神じゃないから一緒に年をとるけどいいの? 見た目もどんどん変わっていくよ?」


「女神像が若くなくちゃいけない理由はない。俺は君の美しさを一生賭けて彫り続けたいんだ」



「……あなたといたら心臓が破れるわ」




 私の演じるかぐや姫はこうしてハッピーエンドを迎えた。


 もちろん、知りたかった幸せも手に入れて。

 


 





読んでいただきありがとうございました。

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