音楽団の暝里音と虎武②
「えちょっと待って」
思わずポロっとというかびっくりしてでた言葉に、私のことを「この前のお客さんのお友達」と呼んだ14歳ぐらいに見える、オレンジの髪で赤い目の女の子が振り向いた。そしてちょっとびっくりしたように見た後、花菜里に「説明してなかったのー?」と聞く。
「うん、見せたほうが早いかなと思って」花菜里はそう答える。
「それもそうだねー!」
女の子は納得したように頷くと、こっちを見ていった。
「こんにちは!お客さん。私は杖野魔霧って言いまーす!きりちゃんとかそんなふうに呼んでね!」
そんな元気はつらつな自己紹介を聞いて、私は思った。
(なんか、虎武に似てるかも)
だが、嫌な気持ちではなかった。
「私は暝里音音斗。よろしくね、魔霧ちゃん。」
とりあえず、私も自己紹介をする。
「うん!ねとさん!で、本題に入るけど、クラリネットを杖にしたいの?」
クラリネットを杖にするなんてできるの…?
「いや、花菜里に連れてこられただけで、まだ決めたわけじゃないんだけど…」
「えー…そうなの…?」
あからさまに残念そうにしてる。
「い、いや、とりあえず色々聞いてもいい?」
「うん!」
魔霧ちゃん、すごくうれしそう。…そんなにうれしい?感情が豊かだな…。
「まず、ものを杖にするのには、魔法石がいります。あと、魔力ね。魔法石はうちにあるからダイジョブ!魔力はあなたのと、私のを組み合わせる感じ。魔力が足りない場合は魔力増幅装置をつけてもらいます。そして、何より大事なのは杖にしてもいいという本人の同意だね。これがないと杖にするものがバラッバラのこっなごなになっちゃいます。」
怖っ。10年以上付き合ってきた相棒だぞ。
「そして、杖になったらどんな事ができるかというと、つける魔法石によります。これまでは…フライパンに火属性の魔法石をつけてどこでも料理できるようにした人とか、水筒につけて水が永遠に湧くようにした人とかかな。お客さんみたいな、楽器なら雷属性の派生の音魔法石をつけて音を二重にできたりするのがいいかなと思ったけど…」
魔霧ちゃんはうーんと考え込むように顎に手を当てる。
というかそんなことできるのか。花菜里が勧めてくるわけだ。
「あっ!いいこと思いついた!」
「えっ?なになに?」
「少々お値段は張るのですが…」
すっごいニヤニヤしてる。ちょっと怖い…
「光属性の派生の幻影魔法石をつけるのはどうかな!」
幻影魔法?
「だいーぶ珍しいものだけど、お客さんなら使いこなせると思うんだ!ちょっとまってね!」
そう言うと魔霧ちゃんはドタバタと奥の方に行ってしまった。そしてしばらくして戻ってくると、手には小さな白色の魔法石がつけられているソプラノリコーダーを持っていた。
…多分小学校とか使ってたやつだな?
「行くよ?」
魔霧ちゃんは、そっとリコーダーを吹き始める。高いシの音がお店に響き渡る。それよりも、私はリコーダーに釘付けになっていた。
「すご…!」
リコーダーのおしりのところからシャボン玉のようなふわふわとした幻影が出てくる。
魔霧ちゃんが一回リコーダーから口を離して、今度はミの音を…
「ぴぃぃ〜!」
吹けなかった。
「へ…えへへ…」
ちょっと恥ずかしそうにしている魔霧ちゃんに話しかける。
「今のすごかった!あんな事ができるの?」
「そうだねー!でも、お客さんなら私よりもっとすごいことができると思う!怖い音なら幽霊みたいなの出したりとかできるかも…!私低い音できないからまず無理だけど…しょんぼり」
すごい…!そんな事ができたらきっと儲かること…じゃなくて売れること間違いなし!楽しそうだし、やってみよう!
「魔霧ちゃん!」
「はい、ねとさん!」
「私のクラリネットを、杖にしてください!」