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Hello.06 -side.スミス-

 パトカーに押し込また後は、とにかく激しい揺れがスミス達を襲った。あまりにも荒い運転。前方の座席では、黒と白の百合コンビが、逃走経路について言い合いしている。


「これ…どうなるんだろう」


アキラが隣で不安と困惑と、そして微かな期待を含めた声音でそうこぼした。


「ここからの王道展開としては、どこかの湾に沈められる…とかでしょうか」


「そんな生々しい展開、いきなりはごめんだよ…」


 スミスがアウトロー系の漫画やドラマの展開を参考に予測を口にすると、アキラは冷め切った残りわずかのコーヒを無理やり喉に押し込んだ時のような苦々しい表情を浮かべた。


 何はともあれ、まだ後ろの方からサイレンの音は鳴っているし、前方の二人は逃亡に全集中していて、この後のことを聞き出せるような雰囲気ではない。少なくとも今は大人しく事態が次の段階に進むのを待つしかないようだ。


 とりあえず、シートベルトはつけるべきなのだろうか——


 緊迫した空気感とは裏腹に、スミスの思考は緩やかにどうでも良いことを考えていた。


 しばらく酷い運転と、後ろ髪を掴むようなサイレンの音に追い立てられる時間が続いた後、薄暗い路地裏にねじ込むように突っ込み、ようやく停車した。


 気が付くとサイレンの音も聴こえなくなっている。


「…撒けたか?」


「そうみたいッスね…やりましたよ、パイセン!!」


 感涙の声を上げながら、二人はシートを乗り出してハグしている。警察とのカーチェイスは、この二人に軍配が上がったらしい。それにしても、後部座席に連れていきている人質のことはすっかり忘れているように見える。


「よし、アジトに帰るかっ!」


「これはボスにもたくさん褒めてもらえるッスよ〜」


 それまで緊迫していた空気が弛緩して、今度は和やかなドライブが始まる。後部座席に座らせているスミスとアキラは、依然黙したまま。お互いに、今の空気感を壊してしまうような発言をするくらいなら、一旦このまま最後まで身を任せようと暗黙のうちに感じ取っていた。


 それから少しの間ドライブが始まった。スミスは窓の向こうにある世界を見つめる。てっきり全ての場所が東京の土地をモデルにしていると思ったが、今はところどころに建物が点在する、寂れた荒野のような場所を走っている。V.SEKAIの舞台は、一つの島にプレイヤーや視聴者が飽きないように色々なテイストのエリアで構成されている。あの渋谷は、そのうちの都市エリアに分類される場所ということだろう。


 まるで西部劇の世界に迷い込んだような感覚で外を眺めているうちに、やがてパトカーは錆びたトタン屋根の大きな倉庫の中に入り、そして停車した。つまり、ここが彼らのアジトというわけだ。


 広く開けた倉庫。奥には巨大なキャンピングカーが横向きに鎮座している。ただし車を車たらしめているタイヤは全て抜き取られており、走行はできないようになっていた。


「ボスー! 戻ってきたっスよ〜! ちゃんとお仕事成功させたっス〜!」


 パトカーが停車するや否や、助手席にいた白百合迷彩少女が飛び出し、キャンピングカーへと向かって走り出した。


 すると彼女の声が、中まで届いたのか、キャンピングカーの扉が開け放たれ、奥から一人の女性が出てくる。


「ナギ! 戻ったんか」


 関西弁の、首筋に色の入っていないカーネーションのタトゥーが入った女性だった。無造作風でアシンメトリーな黒髪と、やたらと布面積の少ない格好が特徴的である。アキラなんかは、目のやり場に困ったように所在なさげだ。


「ボスぅ〜、もうほんと大変でしたよ! これって、ちゃんと手当出るんですよね!?」


「お〜、よしよし…ショットも無事やったか」


 ボスと呼ばれたその女性は、勢いのまま突っ込んで抱きつく白百合迷彩少女——ナギを抱き止めながら、その肩越しにショットと呼ばれた黒百合タトゥーの男の方を見て、ナギに向けたものとは一転して冷めた声を投げかけた。


「無事じゃないぜ、全く…もうすぐで豚箱行きだったんだからさ」


「それは苦労かけたなぁ…って、そのパトカーの後部座席…誰かいるん?」


 ボスの視線がパトカーの後部座席に向けられる。するとショットとナギの肩が同時に跳ね上がった。もしかすると、存在をすっかり忘れられていたのかもしれない。とはいえ、ようやく行動する機会を得たスミスは、すかさずパトカーの扉を開いて外に出る。それに続いてアキラも反対側の扉から外に出た。


「…えぇと、彼女たちは?」


「あー、実は逃げ出す時に少しヘマしちまって…こいつらはその時に捕まえた人質だよ」


「その人質を、なんでアジトにまで?」


 ボスの瞳がゆっくりと細められていく。何かまずい気配を察知したのか、抱きついていたナギがさっと離れた。


「いやぁ、それがうっかり忘れちまってた」


「…つまり、そのうっかりで一般人に、このアジトの場所がバレた、ゆうわけか?」


 決定的な一言。ショットはその一言を受けて少しだけ考え込んだ後、みるみるうちに顔色が青ざめていく。


「そ、それはぁ〜…」


「今、うちのチームがどういう状況か分かってんのか? 敵は警察だけじゃない。 この場所がそいつらにバレたら、これまでの計画がご破産になるかもしれへんねんぞ」


「ご、ごめんなさいっス」


 ボスに近づき、上目遣いで瞳を潤ませるナギ。そのいたたまれない様子に、それまで放っていた刺々しいオーラが軟化していく。やがてボスの女性は大きくため息を吐き、


「ま、今回は無茶な仕事をしてもらったしな。成功に免じて、罰はなしや」


「よかったーっ!!」


 ボスの一言に、喜びに跳ねるナギと、安堵して崩れ落ちるショット。そんな二人を見て呆れたのか、もう一度短いため息をついたボスは、今度こそスミスとアキラの方に意識が向けられる。


「…で、お二人は、もしかして最近来たばっかの人?」


「分るのですか?」


 スミスは目を丸くして思わず聞き返してしまっていた。


「あたしはこの街に来て長いからなぁ…それに、顔もそれなりに広い」


「…つまり、ここの事情についても、相当お詳しいのですか?」


「ん? まぁ、そこいらの住人よりはずっとな」


 V.SEKAIに足を踏み入れて早々に厄介事に巻き込まれてしまったと思っていたが、ここに来て事態は好転していることをスミスは確信する。目の前の彼女であれば、スミス達が求めている情報もきっと知っているはずだ。


「オレたちは、新しく出来上がったドームに出演する方法が知りたいのです。もし、ご存知なのであれば、教えてくれませんか」


「ちょっ…いきなり大丈夫なの?」


 隣にいたアキラが軽く肘で突きながら焦り顔で耳打ちをしてくる。大丈夫かどうかなんて、アキラと同じくこの世界の来たばかりスミスに分かるはずがない。でもスミスは早くこの世界での目的を果たし、マスターの音楽に身を捧げるという重要な使命がある。


 時間は無駄にしたくない。だから効率良く、最短距離で目的を果たす。そのためには、こんなところで駆け引きに興じている場合ではない。


「そうか。あんたらも、あのドームに参加するためにこの街に来たクチか」


「その通りなのです。もし情報提供してくれるのであれば、この場所のことは誰にも口外しません」


 スミスは一歩前に歩み出て、強気に条件を提示する。ついでに懐から、初期アイテムとして配布されたスマホを取り出す。これがあれば今ここで警察への通報も可能であることを示す。


「おい、テメェ…」


 ショットが銃を取り出した。その剣幕に怖気ついたか、背後にアキラがさっと寄ってくる気配があった。空気がピンと張り詰める。わずかな沈黙——


「はっはっは! ショット、銃下げや。面白そうな奴らやんけ。まさかこの街に来たばっかの奴が、この状況であたしを脅してくるたぁ…気に入った!」


 一触即発寸前の空気が、快活な笑い声によって吹き飛ばされる。


「いいで。ここで出会ったのも、間違いなく何かの縁なんやろ。知りたいこと教えてやる…っと、その前にあたしの自己紹介やな。あたしはクラム。”幻想華劇”ってチームで仕切りを任されてるロクでもない、ギャングや」


 生唾を呑み込む音が、背後のアキラから聞こえてきたような気がした。とはいえ、超スーパーAIであるスミスでさえ、開始早々このような状況になることは想定外だった。


 ギャング——この世界において、組織的な犯罪を仕掛けるアウトローな集団。そのうちの一つのてっぺんから、クラムと名乗った女性は不敵な笑みで、スミス達を見下ろしていた。

よろしければ★★★★★★を入れて応援お願いします。

励みになってやる気が_(:3 」∠)_

ぐーんと伸びます!・:*+.\(( °ω° ))/.:+

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