Hello.00
私は本当に幸福です。
つまり私は音楽のことだけを考えているのです。
私は音楽に恋しているのです———
ヨハネス・ブラームス
世界的アイドル・織姫桜がついに活動を再開!
地下アイドルが世界に羽ばたいた最高最強のアイドルこと、織姫桜が長き休養を終え、ついに活動を再開する。さらに所属事務所は彼女の復帰とあわせて、半年に渡り世界各地を巡るライブツアー「SAKURA World」を開催することを発表した。
ツアーは7月のロンドン公演を起点に欧州を巡り、その後アジアを経て、最終公演は12月25日、日本の東京で行われる予定だ。各国の公演では、その地出身の人気アーティストをゲストとして招き、オープニングアクトを務めてもらう形式が採用されるという。
一方、日本公演のオープニングアクトは特別企画として一般公募で決定される。全国規模のオーディションが実施され、最終審査には織姫桜本人が審査員として参加することも明らかになった。(応募詳細は後日発表)
世界で活躍してきた織姫の“原点回帰”となる試みとして、大きな注目を集めそうだ。
◇====◇ ====◇ ====◇ ====◇
織姫桜の復帰ニュースが世界各地に報じられる4日前。海外のとある掲示板では、既に織姫桜の復帰に関するリークが出回っていた。
その投稿を見た1人である鷹野リリィは、どうも信憑性の高そうなその投稿に、飛び跳ね回るほどに喜んだ。
荘厳美麗。若手のオペラ歌手である彼女のそんな姿をもしもファンが見れば、あまりの印象のギャップに卒倒することだろう。
しかし日本の父とイギリス人のハーフであるリリィは、毎年のように日本に旅行しては、すっかり日本のカルチャーに惚れ込んでしまった。その中でも日本のアイドル文化に感銘を受け、そのトップに君臨しているといっても過言ではない織姫桜は、リリィにとっての最推しだった。
リリィは早速、このまだ表にはなっていない嬉しいニュースを誰かと共有したかった。そしてそういう対象となるのは、決まってリリィの双子の弟であるレンだ。
仕事を終えて、自宅へと戻ったリリィは、早速レンの防音室へと突撃することにした。確か入るなの掛札が見えたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
「ねぇ聞いてよ、超ビッグなニュースがあるの!」
扉を開け、飛び込むように部屋に入る。上げた声は歓喜に満ちていた。
「——ちょっと…っ姉さん!? 今、配信…っ」
モニターに向かって何やらごにょごにょとしていたレンは、リリィが部屋に飛び込んできた瞬間、大きく肩を跳ね上がらせ、大慌てで何かパソコンの操作をした。
レンの荒れた呼吸が部屋を巡る。何かやらかしてしまったのだろうとリリィは一瞬沈黙するが、すぐに思考は織姫桜の復帰とそれにまつわる噂に引き戻される。
「…姉さん、部屋の扉に入るなって掛札してたよね? もう勘弁してくれよ…前回日本ではネットニュースになったんだぜ。仕事中はお願いだから部屋に入らないでよ」
レンは重くうめき声とため息をデスクに落とすと、肩越しにリリィを睨みつけながら言った。そういえば以前にも同じようなことがあって、掛札をするようにしたから気をつけてくれと言われていたような気がする。気がするというのは、確実に認知はしていなかった。つまりこれは不運な事故である。
それを言ったらさらに怒られそうなので、リリィは頭の中だけでそう解釈し、レンの後ろにあるモニターを見る。何やら日本語や英語が入り混じったたくさんの文章が、下から上にものすごい速度で流れている。文字ということは認識できるが、あまりにも流れるのが早すぎて、読むことができない。
「仕事…そういえばあんた、日本のエンタメ企業とオンラインで仕事してるんだっけ? 配信って…ライブみたいなことをしてるの?」
以前同じようなことが起きた時は、パニックになったレンに叱られて、とても話を詳しく聞ける状態じゃなかった。ところが今回は2度目ということもあって、速やかに対応できたらしい。
リリィはレンがどんな仕事をしているのかというのをぼんやりとしか知らない。そもそも興味もない。リリィの目には、毎日外に出て喉を酷使している自分とは違って、部屋の中でぬくぬくとしながら小器用に稼いでいる風にしか見えなかった。
ところが今回は日本とタレントという部分に興味が湧いた。自分がこよなく愛する日本のトップアイドル織姫桜のことを考えていたからだろうか。
「…そうだよ。動画配信サイトで活動するいわゆるネットタレント…VTuberだよ。今も配信してたところさ」
レンは昔からパソコンとかインターネットとかの類に強い。父親が数学者ということもあってか、理系的な脳みそが遺伝したのだろうとリリィは思っている。
一方でリリィは機械系はめっぽうダメだ。パソコンではなくスマホ派だし、スマホだって連絡やSNS、あとはいつも見てるネット掲示板でしか使えない。
きっと自分は感性豊かな母親似なのだと、言い聞かせている。
「へぇ…でも配信って何するの? あんたのピアノで人集められるの?」
「どうせ僕は姉さんとは違って凡才さ…別にライブといっても特別なことをするわけじゃないよ。ゲームとか、今は雑談中かな。あ…ちょっと待ってね。離席字幕だけつけるから」
そう言って、レンは慣れた手つきで何やらPCの操作をし、華麗なブライドタッチでキーボードを打ち始める。こういうことをさらっとやってしまうところが、機械音痴としては嫉妬せざるを得ない。
「…雑談って、それこそあんたの話なんかに興味ある人なんているの?」
「あのねぇ…一応日本では最大手の事務所のVTuberだぜ? これでも海外勢トップの人気だから、僕」
レンは呆れたように、しかしながらどこか自慢げな雰囲気を含ませながら言った。実に生意気である。
日本のカルチャーを愛するリリィも、もちろんVTuberという存在は知っている。ただ、リリィが愛する日本の文化は平成中期頃のもので、VTuberのような最新は管轄外なのだ。
「それで、僕の仕事の邪魔をしにきてまで報告したいニュースってなんなのさ」
早く配信に戻りたいという気配をリリィに飛ばしつつ、レンは話を戻した。
「そうそう! 大変なのよ。あの最高最強のアイドル織姫桜が復帰するらしいって!」
リリィもここに来た目的と胸の内を満たして溢れそうになっている感動を思い出し、それを双子で半身とも呼べるレンに共有すべく両手を広げて、織姫桜復帰のニュースを報告する。
レンも織姫桜は好きなはずだ。彼女が活動中、一緒にライブを観に行ったこともあるのだから。
しかしレンの反応は淡白なものだった。
「あぁ…そういえば、そんな噂があるみたいだね。今朝からネット掲示板はその話で持ちきりだ。しかも復帰早々世界ツアーで、各地の有名アーティストを呼んでオープニングアクトを任せるらしいよ。あ、でも最後の日本での公演は、オーディションで決めるとか…もしかしてそれだけ? だったら僕は仕事に戻りたいんだけど」
レンは既にPCモニターの方を見ていた。
インターネットに強いレンは、すでにリーク情報を得ていたどころか、リリィよりもずっと詳しいところまで把握していた。それを早々に知っていながら、これまで自分に共有しない姿勢に苛立つものの、すぐに愚弟からもたらされた重大な情報が、粒子として円環を光速で巡るが如く思考力が働き、一つの天啓をもたらした。
「…あんたの所属してる事務所って、日本じゃ有名なタレント事務所…なのよね?」
ヘッドフォンをつけようとしたレンの手が止まった。
「なんでそんなことを聞くのさ」
そう聞き返すものの、レンは冷や汗を流している。流石双子の半身、きっと今の一言で自分が考えていることが伝わったのだろう。少し、無茶をさせるかもしれないが、大事な姉の望みを、きっと叶えてくれるだろう。
日本、オーディション、オープニングアクト…歌には少し自信がある。いや、むしろ来るべきその日のために、自分は歌ってきたのかもしれない。
最初で、最後のチャンスだ——
◇====◇ ====◇ ====◇ ====◇
藤間雷華は自身の歌とバックバンドの演奏が聴こえてくるヘッドフォンを、乱雑に取り外し放り投げた。
「なにこれ…全然ダメなんだけど」
暗いアパートの一室。ノートパソコンから放たれる光と、いつも肌身離さず持っているヴィンテージという表現では足りないほどに傷だらけでありながら、隅々まで手入れされた自身のギターの重みを感じながら、雷華は表情を険しくしてため息をこぼす。
近くに置いてあったスマホを取り出して、連絡帳を開く。苛立ちを抱えながら操作し、プロデューサーと表示されたページの番号をタップして通話をかける。
「——ライカさん、どうしましたか?」
通話はワンコールで繋がった。雷華は待たされるのが大嫌いだ。プロデューサーはそれを分かっていて、電話には3コール以内でいつも出てくれている。
今回はワンコール。ちゃんと自分のことを分かってきていることに、少しだけ溜飲は下がるものの、これとそれとは別であることもまた事実。
「優吾ちゃん、今日送ってもらったバックバンドの演奏、聴いたけど」
「おぉ、どうでしょうか? 今回はなかなか良い人たちで——」
「全然ダメ。ウチのこと、舐めてるの?」
ライカは通話先のプロデューサーである川上優吾の声音が一瞬喜びと安堵に染まっているところを、途中で容赦無く叩き切った。
「ダメ、でしたか…これでもう5組以上になるんですが」
「そんなのウチには関係ない。というか、もういっそのことウチ1人でやった方が良くない?」
雷華は外に跳ねたウルフカットである自分の銀髪をねじねじしながら提案した。
雷華が川上優吾と出会ったのは、東京の人気の少ない路地だった。家にも帰れず、友達もいない雷華は、たまたまゴミ捨て場で拾ったギターだけを抱えて、毎日その路地の脇を陣取って、錆びた音楽と歌を奏でていた。
家なき自分に、ゴミ捨て場に捨てられたボロボロで辛うじて音は出るアコースティックギター。その組み合わせは、悲劇のフィクションの一幕みたいで、雷華はただそんな自分に酔っていた。
酔っているフリでもしなきゃ、自分の周囲に蔓延るどうしようもない現実に打ちのめされてしまいそうだったから。
歌なのか、ただ音を乗せて叫んでいるだけなのか。周囲の視線も掻き消すように歌って、弾いて、歌って——すっかり枯れ果ててしまったその時に、雷華の目の前に彼は現れた。
どこかの音楽レーベルの人。難しい話はよくわからなかったし、興味もなかったが、彼はとにかく目を輝かせて言った。
“君の音楽は素晴らしい! ぜひ僕と一緒にしてくれないですか”
自分が吐き出していた音を”音楽”だと表現してくれた人。しかも暮らせる場所と食べ物、おしゃれな服も——人並みの生活をできるようにしてくれた。
優吾には感謝している。でも、雷華にも譲れないものはある。
自分の音を、叫びを、邪魔するようなものは許せない。
自分の中にあるこの音とボロボロのこのギターだけが、唯一のアイデンティティだから。
「その方法が君の良さを一番引き出せるということは僕も分かっている。でも君という存在を世に広めるためには、流行や分かりやすい派手さとか、そういった大きな流れに乗る必要もあるんだ」
優吾のこの言葉は、もう何度も聞いた。その度に自分の実力を信じてもらえてないようでむっとしてしまう。
「…だったらもっとマシなバンドを連れてきて。プロデューサーには感謝してるけど、これだけはウチも引けない」
「分かってる…実は一つ提案があります」
わがままを言っても優吾は音楽に関してはあくまでも自分の意見を尊重してくれる。それだけでも、あの日優吾の手を取って良かったと思っている。
優吾の提案には耳を傾けるだけの価値がある。きっと藤間雷華のことを第一に考えた末のものだろう。だから雷華は少し突き放すような声音で返事をしつつも、言葉の続きを促す。
「やっぱりいいバンドを連れてくるには、それなりの実績…あるいはネームバリューを高められるだけのきっかけが必要です」
「ウチに実績はないけど」
「これからですからね、実績は。だから私たちが狙うべきは後者…ライカさんはアイドルの織姫桜をご存知ですか?」
「有名なアイドルだよね? 曲とかは全然知らないけど」
昔の雷華は音楽を自由に聴いて楽しむような環境にはいなかった。それでも時々街にある大型ビジョンや、コンビニの店内BGMで見たり聴いたりすることはあった。世界でも活躍する最高最強のアイドル——それが織姫桜。
「その織姫桜が、近々ワールドツアーを敢行するようで、年末に行われる最後の日本でのライブでは、オープニングアクトを任せる女性アーティストをオーディションで決めるみたいなんです」
「そのオーディションに合格すればいいの?」
雷華は自分のするべきことを予測して訊ねた。しかし優吾はやんわり、いいえと告げる。
「参加するだけでも十分な餌にはなります。まだ業界内にしか知らされていないことなんですが、今回のオーディションはそれ自体もコンテンツにするようです。既に注目度も十分で、冠には世界一のアイドルの織姫桜がついている。これならネームバリューを高めるきっかけになり得ます」
「…そのオーディションに参加すれば、もっとマシなバンドを連れて来れるの?」
「はい。必ず引っ張ってきます」
断言する優吾の声音はまっすぐだった。よほど確信がなければ、ここまで言い切らない。まだ数ヶ月くらいしか一緒にいないが、それくらいは分かるようになった。
しかし、雷華としては気に食わない部分もある。
「分かった…オーディションには参加する。でも…」
「でも…?」
電話向こうの優吾が不安に感じるのが分かった。自分のことで戸惑わせていることに、少しだけ優越感を感じた。
「参加するには絶対に合格する。アイドルのライブには全く興味はないけど、ウチの実力を、プロデューサーに証明してみせるから」
雷華の瞳に、闘志の星が宿る——
◇====◇ ====◇ ====◇ ====◇
「オープニングアクトの…オーディション、か」
楽屋での待機時間、日々夜奏は今朝から世間を騒がせているニュース記事を見つめながら、ぽつりとこぼした。
織姫桜。
仲間だった。親友だった。ライバルだとも、思っていた。
今でこそ、日々夜奏という名前と姿をもらって、世界的Vtuber事務所の立役者として担ぎ上げられているが、そもそもの始まりはただの売れない地下アイドルだった。
暗くて眩い場所から、空を見えげて足掻き続ける凡才。
他の数いる売れないアイドルと何も変わらない。でも唯一他のアイドルと違ったのは、同じグループに織姫桜がいたことだ。
彼女はアイドルだった。
アイドルを目指す子や、夢を叶えてアイドルになった子ならたくさん見てきた。でも織姫桜は、そういう子たちとは根本的に違う。
まるで神様が初めからアイドルとして創造したかのような——そう、アイドルになったのではなく、彼女はきっとはじめからアイドルだった。そう思ってしまうほど、完璧で最高で、最強だったのだ。
世界はすぐに織姫桜を見つけた。地下アイドルからメジャーデビューし、そして世界へ。彼女は日本のアイドル文化を世界中に広めた。
アイドルといえば織姫桜。世間がそう言い始めて、逆に世の中は今まで彼女を他のアイドルと同列に認識していたことに、きっと同じステージに立ったことのある人なら思っただろう。
自分もそうだった。最初はライバルだと思って、ひたすら彼女の横に立てるように努力をし続けて、それでも届かず、挫折して。
織姫桜は特別だから——無意識にそんな認識で逃げていたことに、その時気がついた。
それから織姫桜は世界でも圧倒的な魅力と実力を発揮し、絶好調のまま突然活動を休止した。理由はわからない。今や彼女の連絡先すら知らないのだから。
「マネージャー、織姫桜のこのオーディションってさ、私でも参加できるのかな?」
ふと、側でスケジュールの確認をしていたマネージャーに声をかける。マネージャーは自分のタブレットに視線を落としたまま、
「…あぁ、そのオーディションなら、ウチの事務所からは、水月孤儛さんを押し出す予定ですよ。もう本人の了承もいただいているとか」
「えっ!? そうなの?」
まさかの情報に、思わず瞬きの回数が一瞬多くなる。しかしマネージャーは、その驚きに気が付くことなく、タブレットを操作しながら続ける。
「はい。一応企業として事前に共有はいただいていたので…もしかして、奏さん興味があるんですか?」
「えっと…うん」
今のマネージャーは、1年前に配属された人で、日々夜奏が日々夜奏になる前のことを詳しくは知らない。
もちろん、織姫桜と知己であることも。
「一応、応募条件は日本で活動する女性アーティストでプロ・アマ問わずってことでしたから、応募できなくはないのでしょうけど…事務所的にはNGだと思いますよ」
「どうしてっ?」
詰め寄って問いただすと、そこでようやくマネージャーの顔が自分に向く。困惑したように眉が八の字になり、目が少しだけ泳いでいる。
しまった——そう思って咄嗟に顔を伏せた。感情を爆発させて、それをあろうことかマネージャーに向けるなんて、あまりにプロ意識に欠ける。
後悔が怒涛のように押し寄せて、何も言えない空白が開いた。
「…えっと、そもそも今回のオーディションは、新人や売り出し始めの子を推し出すためのものなんです」
やがて沈黙が苦しくなったのか、マネージャーが言った。
「でも、別に応募要項に新人じゃなきゃダメとは書いてないでしょう?」
「そこは暗黙の了解といいますか、建前というやつですよ。他の海外ライブのように、ゲストとしてアーティストを招待する形式ならともかく、日本の場合はあえてオーディションをして…言い方を悪くすれば、ライブツアー最終日を盛り上げるサブ役を選定するんです。ブランディング的にどこも主力アーティストは出さないですよ…まぁ、多分主催者側も新人が来ることを前提としているのでしょうね。織姫桜さんも言ってたじゃないですか——未来に繋げるをコンセプトに、と」
考えてみれば、確かにその通りだ。ヒートアップしていた体温が下がっていく。ゲストとして出演するなら立場は対等に映るだろう。でもオーディションで選ばれてステージに立つとなると、誰がどう見てもその位置は織姫桜の下になる。
そんな場所に、主力アーティストを立たせる事務所やレーベルはないだろう。だからこその、新人発掘の場。新人であれば、ブランディング的なマイナスはない。むしろ、大きな功績となるだろう。
Vtuberや歌手として第一線に立ってきた者として、その理屈には理解はできた。
でも、納得はできない。引き下がれない。織姫桜と同じステージに立てる。しかも、オーディションで認められて。そんな機会、この先二度とないだろう。
ずっと追いかけても届かなかった背中に、今このチャンスを掴めば、届くかもしれない。
今度こそ、あの子の隣に——
「マネージャーさん」
「ど、どうしたの?」
マネージャーは緊張した面持ちで聞き返した。どんなわがままが返ってくるか、構えている様子だ。
その通り。これから、自分は無理をわがままで通す。
でも絶対にこのチャンスだけは譲りたくない。
スマホを取り出して、SNSを開く。自動ログインで日々夜奏のアカウントページが開くが、すぐにログアウトして、デバイスに登録されていないIDとパスワードを素早く打ち込んだ。
もうずっとログインしていないのに、指はずっと覚えていたようで、滑らかにログインすることができた。
「…日々夜奏としては応募できないんですよね。ここに、全く売れなくて、そのまま夢を諦めた地下アイドルがいるんですが、売り出してくれませんか?」
一度体温の下がった全身に、熱い血液が再び巡り始めた。




