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世界樹、私を抱きしめて

一話完結です

 「世界樹わたしを抱きしめて」


彼女は幼い時、両親に連れられここに来た。わずかな食料とたくさんの衣類を持ってここに来た。


最初は驚いた。こんな森の深い所に人間なんてそう来ない。その上来訪者は幼子連れた親子だった。

驚くのはそれだけじゃない。なんとこの両親、こんな人っ子一人いない森に子供を置いて行ったのだ。

口減らしだ


許せなかった。一人で生きる術のない子を置き去りにして自分たちは屋根のある家に帰るであろうあの二人のことが


両親は瘦せていて疲れている様子だった。苦労してきたのだろう。

それがなんだ。子供を捨てていい理由なんかない。


こんな少しの食料。すぐに食べ終わってしまう。やがて飢えてまう。

偶然にもこの辺は木の実は豊富だが


いや、飢えより先に動物に襲われ食われてしまうかもしれない。

まあ気性の荒い生き物はこの辺では見かけないが、、、


いやいやいや!そもそもこの寒さでは凍え死ぬのが先だ

、、、だからこそ。ありったけの衣類を持ってきたのか


この子を不憫に思った。まだ甘えたい盛りの子供が親が離れても泣かずにじっとしている。

本当は大泣きして追いかけて抱っこしてもらいたいだろうに


もう一つ不憫なのはあの両親。口減らしをするくらい困っているのに痩せていたのは親だけ。

この子も細身ではあるものの顔色もよく髪の三つ編みも綺麗だった


大切にされている子


そんな言葉が似あう女の子だった。そんなわが子を置いていく親の気持ちを考えたら無責任だと思う怒りより切なさが勝った。胸が張り裂けそうだ。


「いい子にしてたらパパとママは必ず迎えに来るからね」


そんな言葉を残して二人は消えた。

彼女はいい子にしていたが季節が何度廻ろうと両親は迎えに来なかった。


「あのね世界樹わたしそろそろパパとママに会いに行こうと思うの」


ここに来た頃に比べて背も髪も随分と伸びた。彼女の成長は孤独の証。


「ここでいい子にしてるって約束したけど、わたしはもう充分いい子にしてたよね?」


君はずっといい子だったよ


「それにだいぶ大きくなったしさ!一人で帰って驚かせちゃおうかな!」


大人になった君を見たら両親は喜ぶだろうね。生きていてくれたって


「ねぇ。世界樹、私、もうこんなに大きくなったよ。もう帰るから。だから、、、」


どうした。なんで泣いてるの


「だからねもう。私に栄養を分けてくれなくていいんだよ」


そんなことしてないよ


「世界樹は私が飢えないようにって常に木の実をならせてくれたね。雪の日もお腹いっぱいだったよ」


それは偶然だ。日光や雨の加減で不作豊作は左右されるからな


「雨や雪の日は葉で私を守り、日差しの強い日も葉で私を隠してくれた。そのおかげで私はたったの一度も体調を崩さなかった」


ただそこにあっただけだ。特に何もしていない。君が強かっただけだ。


「全部、全部。世界樹が見守ってくれていたからだよね。私を守ってくれてありがとう」


ここまで生き抜いたのは君の努力だ


「もう、世界樹は私を守らなくていいんだよ。ありがとう。ごめんね。私のせいで世界樹。こんなに小さくなってしまったね」


ああ、優しい君。どうか泣かないでくれ。違うんだ。わたしが小さくなったのは君のせいなんかじゃない。


「私がここに来た時に比べてあなたは日に日に小さくなってる。私が過ごしやすくなるように何か力を使ってくれたの?」


違うよ。ただの寿命だ。君は何も悪くない


「、、、こんなこと言われても困るよね。ねぇ世界樹。あなたが例えどんなに小さくなってもあなたは私の世界の全て。私の世界樹。」


そう言って君はわたしの一部に口づけをする


ありがとう。君だってわたしにとっての世界の全てだ。君がずっと話しかけてくれて嬉しかった。だって君が来るまでわたしは一人で寂しかった、、、。


一人?

そうだ思い出した。わたしは樹ではない。


「生贄に捧げられた人間だったんだ」


「え?」


まぶしくて何も見えない。太陽を肉眼で見た時以上に目に染みる。なんだこれは、まずい君を守らねば


、、、。


「君!!!」


やっと光が収まり目を開けるとそこには君がいた。安心した。


「、、、えっと。あの。」


目をぱちくりさせ君は私を見ている


「怪我はないか?」


わたしの問いに君は大きく目を見開く


「もしかして、、、世界樹?」


「ああ、そうだ。正確には樹にされた元人間だ」


「世界樹、、、。世界樹!こんなにずっと一緒にいたのに初めて声を聞いた。ふふ、あなたってそんなに優しい声なのね。想像通りよ!」


樹から人になったわたしを見ても怯えることなく君はわたしに微笑む


「驚かないのか?樹が人になったんだぞ」


「人が樹になったんでしょ?でもどうして?」


「ふふ、そうだな。わたしが樹になったんだ。ずっと昔。9歳の時、作物の豊穣を願ってここに埋められた。気が付いたら樹になっていた」


「そんな、」


「だからこそ。森に君を置き去りにした両親を許せなかったが、すぐに状況を理解した。村の争いから君を遠ざけるためだ。君は愛されていた。」


君は本当に立派に育った。君は泣くことも恨むこともしなかった。


「わたしはここの森で一番背が高い。だから見える。つい先日まで村を占領していた異国の者がいなくなり。人々に笑顔が増えた。やがて君の親は迎えにくるだろう」


「良かった、本当に、、、。世界樹。あなたも一緒に帰りましょう。」


「それはできない。わたしは遥か昔にここの生贄になった。君の村に行くことでわたし自身が災いを招いてしまうかもしれないからね。ここで生きるよ。」


「あなたを一人にしたくない。私もここに残るわ」


「優しい君。どうか胸を痛めないでくれ。わたしは寂しい。そんな気持ちも忘れていた。だけど君がいたから一人で寂しかったと思い出せたんだ。ありがとう。」


君がわたしを抱きしめる。


「いや!!ここにあなたを置いていきたくない!!あなたが私と来ると言うまで離れてあげない!!!私はあなたを愛しているの大好きよー!!!!」


、、、。


それから君は本当に私から離れなかった。4日後。君の両親が君を迎えに来て感動の再開を果たすかと思いきや、君はわたしと一緒じゃないと帰らないと駄々をこねていた。


事情を聞いた君の両親も一緒に帰ろうと騒いでわたしから離れなかった。

実を言うと嬉しかった。わたしも君を愛していた。


こうしてわたし達は村に行き。そして将来を誓った。


「なーに真剣な顔してるの?もしかして緊張してる?」


「いや、なにちょっと君と出会ってからのことを思い出していただけだよ」


「ふふ、最初は樹だったもんね!」


純白の衣装に包まれた君はいつも以上に美しかった


「いまだってそうさ。身も心も君に捧げている。ただ前と違うのは今日、わたしは、自分の意志で君に永遠の愛を捧げるんだ。他の誰でもない私自身の為に。幸せさ」


「じゃあやっぱりあなたは私の、私だけの世界樹だね」


「そうとも。雨の日も雪の日も厳しい晴れの日も君を守る君の世界樹だ」


「ねぇ、式が始まる前にお願いがあるの。いつも私が一方的にあなたに抱き着いていたでしょ?だから、、、」


君が何を言いたいのかはすぐに分かった。だが照れながら言う素敵なお願いを最後まで聞きたくてわたしは言葉を待った。


意を決した君が言う


「世界樹わたしを抱きしめて」

これ恋愛のなんてジャンルなんですかね?


拙い文章ですか最後までお読みいただきありがとうございました。人気が少ないのでちょっとでもいいなと思っていただけたら感想いただけると嬉しいです

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