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専願受験と高校デビュー

作者: 燈夜

人気が出れば、長編化する予定です。

都市公園で、俺はクラスの女子と肉まんを頬張りあう。


うん、最近の肉まん。




──実に旨い。




で、俺たちはというと、ただベンチに座って肉まんを頬張っているだけではなくて。




「ねえ、私変なこと言った?」




彼女がこんなことを聞いてきた。




「ああ、言ったぞ」


「え!? え! そ、それってどんなこと!? 私って変!? 変なの!?」


「正直言っていいのか?」


「え? そりゃ、もう、当然じゃん!」


「じゃあ、はっきり言うぞ?」


「う、うん」


「お前は変だ。はっきりしっかりバッチリ変だ」


「そ、それって君より変だってこと!?」


「あ?」


「えー! そんあのやだよ、君より変だなんて、もう私生きていけないよ!」


「はあ!? いうに事欠いてそれか!」


「え? 何? それってどんな意味!?」




酷い言われようである。


俺も長く人間としての生を生きてきたが、ここまで誹謗中傷鵜の言葉を浴びたのは初めてだ。


しかし、ホント学のない女。


自毛と言い張る栗色めいた黒髪に、膝上まである黒いニーソにガーターベルト……。


上着は腰のところで長袖の腕の部分を結び、スカートにかかる。


そしてその下にある、極限まで短くしたミニスカートはそれ、お前やりすぎだろ!


いや、その恰好がすでに「私はバカです」って大声で叫んでいるようなもんだ。




一体腹壊したらどうするんだか。


寒いだろうに。


いや、椅子に座っただけで中身が見えるに決まっているし。




ああ、バカは想像力がないんだな。


そう、こいつの場合はわざとじゃない。


ふらり流れて高校デビュー。これだ。




うん、中学では何故か丸坊主だったし。


それはもう、つるっつる。


確か、病気が何とかって。


で、死にそうな顔して毎日学校に来てて。




幽霊女、禿女ってみんなでバカにしてた。


まあ、当時から、こんなふうにつま先から頭のてっぺんまでバカなんだけど。




でも、卒業式が近づくにつれて、こいつ、どんどん顔色が良くなって、肌や髪に艶が、そしてガリガリだった体には丸く肉を帯びるようになっていた。




うん、ちょうどコイツが首から金色のアクセサリー。


曰く、『聖人様』をぐら下げてきてからだ。




ああ、金色だけど、ビリケン様とは違うから。


足の裏をコチョコチョ掻いても金運は上がらないらしい。




で、俺はそんな彼女に声をかけた。


クラスのみんなはコイツを相も変わらず無視してシカトして、腫れ物にでも触るような感じだったんだけどな。




その時の俺は、志望校の専願が受かってウキウキしてたんだよ。


そ、もうわかるだろ?




コイツも俺と同じ学校の専願に受かり、通ってたんだ。


ま、さらに三年間一緒が確定。


だから俺、今の友達が以後の友達になると決まって、早々と声を掛けたのさ。


もっとも、時々クラスの奴らには秘密でコイツの入院している病院に見舞いに行ってたけれど。




そ、そしてこいつから聞いたのは、禿の理由。


ツルツルだった、彼女の頭の理由だよ。




うん、それは白血病。


血液のガン。


治療は相当難しい。


寿命は神様のさじ加減次第。




そうなんだ。


白血病の抗がん剤の副作用。


だからこいつは禿だったんだ。


で、いつも帽子をかぶってた。




で、今はパツ金のウィッグを付けているのだが。


俺はその下を見たことがある。


地毛が少し生えてきた、ふさふさとした頭を。


つまり、白血病は快癒した。


主治医がとても驚いていたそうだ。




俺はクラスメイトに避けられるようになるも、逆にコイツとつるむようになった。


俺が煙たがられた理由? 


簡単だ。


俺がクラスのカーストを壊したのさ。




で、去っていた表面だけの友達もいれば、相変わらず接する人間もまあいるわけで。


そして最大の変化、コイツと毎日言葉を交わして。




で、二人で進学、中学の時と同じように、一緒のクラスになったわけ。




「で、薬は飲んでるのか?」


「う、うるさいな、忘れずに飲んでるよ!」


「ほんとか?」


「うん、お薬変わってから、全然辛くないの」


「体質に合ってるんだろうな」


「うん、先生が素敵なお薬見つけてくれたんだ!」


「そうだな」


「うん!」


「じゃ、感謝しないとな!」


「え? あ、うん」


「お礼は言ったか?」


「え? あ? うん、言ったよ? 言った。私、お礼言ったもん」


「よし。じゃ、もう普通にしていいのか?」


「え? あ? ええとね、やっぱり検査はやめられなくて、お薬も続けろって」


「だろうな」


「え? あ? ううう? ……それだけ?」


「は? お前はバカか?」


「え? あ? バカ?」


「そうだよ、でもバカはバカなりに、病院の先生の言うこときちんと聞くんだぞ? 体調に気を配ってな? 薬の副作用、予期せぬ転移。心配事はいっぱいあるだろ?」


「え? あ? え? 私、まだ危ないの? 死ぬの? 痛いの? ……また禿げるの?」




はあ、と俺は大きくため息をつく。




「本っ当にわかってないな、お前、本当にバカなんだなあ……」


「え? あ? 私、やっぱり君よりバカなの?」


「そうだよ!」


「えー! ……そんなの、ショック……」




しゅん、と沈むバカがいる。


その眼にはうっすら涙が。


ああ、ちょっとやりすぎたか。


俺はコイツの頭をウィッグの上からゴシゴシ撫でる。




「ふええ!?」




何度も何度も。


コイツのバカが快癒するように、病気も消え去るように祈りつつ。




「バカでもバカらしく、それぞれに考えて、行動して、未来を思うんだよ」


「え?」


「今、一分後、五分後、一時間後、一日後、半年後……いいや、一年間!」


「ふえ?」


「しっかり未来だけを、うまくいった未来だけを思い描いて、夢への設計図を書いてみろ! 今まで入院してばっかりで、今にも死にそうな顔して、未来のことを、可能性の夢溢れる未来のことを、全く考えてなかったろ? そうだろ!?」




俺が視線を合わせ、甲まで言うと、彼女ははらりと一滴涙をこぼし。




「え? あ? わ、私?」


「そうだよ」


「わ、私、私の夢?」


「そうだよ。眠ってる間の夢のことじゃないからな!?」


「ええと、私の将来?」


「そうだよ。俺と同じで無限大だ。みんなと一緒。可能性が広がる未来」


「ふええ!?」


「それがお前にもあるんだよ。お前が病気と闘って、勝って、手に入れたんだ! その小さな両手に掴んだんだよ!」


「そんな」


「……だから、前を向け! 素敵なことだけ考えろ! 楽しい事だけ考えて、どうしたらもっと楽しく過ごせるか──そんなことだけ考えるんだ」


「私が?」


「そう! お前が。お前はもう、そんな普通の未来への可能性を手に入れたんだ!」


「そ、そうかな?」




コイツが見上げてくる。


その目じりは赤くなっている。




「そうだよ」


「私、普通になっても良いの?」


「ああ」


「わ、私なんかが、普通に……」


「そうだよ、みんなと一緒さ!」


「みんな? みんなって……?」




ああ、こいつ、本当に鈍いな。




「みんなはみんなだ。お前を無視していた連中、その場は無言で隠れて悪口を言ってた連中。あいつらは明日がどうの、未来がどうの。そんなことはこれっぽっちも考えちゃないないんだ」


「え? でも、私が足らないから、なんでも巧くできないから、文句言ってたんじゃないの?」


「違うよ、あいつらは自分らと違う人間、意見の合わない人間、ちょっとしたことで逆恨みした人間……そんな、自分より弱い立場の人間を常に求めてるんだ、自分たちでも気づかぬうちに」


「そ、そうなの?」


「そうだよ。だから、アイツらの誰か一人がお前の悪口を言うだろ? お前が反論も暴力も振るわないから、アイツらはお前を「虐めていい人間」に分類してお前にあれこれ言って来たし、防止の脱げないお前、学校を休みがちなお前を、自分たちより劣った人間、とみなして集団攻撃して来てたんだよ」


「え? そうかな?」




はあ。


ああ、何度目の溜息と言うのか。


俺はコイツに向けて、さらに優しく説いてやった。




「あのなお前、もう、気に掛けるな。昔を思い出すな。病気は治ってきてる、薬も軽いものに変わった、転移もない。顔色も、肌色も、禿げてた頭さえ髪の毛が生えてきた」


「う、うん」


「──だろ?」


「で、でも、私……わつぁ言ってダメダメだから、そんなふうに考えきれないな」




コイツはまたも顔色暗く沈み始める。




「でも、じゃねえよ!」




俺は強い口調でコイツの視線を上げさせた。




「あのな、はっきり言うぞ? 俺はこの高校で、お前と一緒に楽しみたいと思ってるんだ」


「ふえ? 私と?」


「そうだよ! 俺はお前の入院していた病院に見舞いに行ったろ?」


「う、うん。女子じゃなくて男子だったんで驚いたよ」


「まあ、なんだ。おれでも突然の自分の行動にあとから拍手したさ」


「でも、もう私、髪の毛なんて全部抜けちゃって。もうこれまでかな、私、ここで死ぬんだ──なんて、なんとなく考えてた」


「そうだろ!?」


「うん」


「でも、お前、変わっただろ!」


「え? あ。うん」


「だよな! 俺がこの高校の専願にしたの、お前がこのド底辺の高校に専願受験したからなんだぞ!」


「えー? それって?」




俺は飽きれた。


どこまでも、どこまでも抜けてるやつなんだ、コイツは。




「俺はお前と楽しみたい。笑いあいたい。一秒でも長く一緒の時間を過ごしたい」


「え? なんで? どうして?」




お前が好きだから──と言いかけ、違うな、とも思う。




「気になるんだよ、お前、みんなに何をされてもずっと微笑みを絶やさなかったから」


「え? 私ってそうなの?」


「そ・う・な・ん・だ・よ!」


「でも私いじめられてなんかないよ? 私、他の人に話しかけても、「これ」「あっち」「他の人に聞いて」「え? あんたこのクラスだっけ?」とか、きちんと答えてくれてたよ?」


「……」




おお。


おおお。


おおおおお。




あまりに認識が違いすぎる。


お前な、それが「虐め」なんだよ!


「無視の始まり」なんだよ!


思いっきり避けられてるじゃねえか!!




「いいか、もう一回言うぞ、俺はこの高校でお前と仲良くしたい」


「え? うん」


「…‥」




一世一代の告白を。


軽く流してくれるこの神経、一体全体どうなんだ!?


チョロいどころか、最高の難敵だろ!




「ええと、だから俺はお前の横にずっといたいんだ! これからの人生、お前に賭けてみたい!」


「なんで?」


「俺はお前のことが気になって病院に行った。そして、絶望を告げられた。でも、お前は五体満足でここにいて、今もこうして俺と話してる」


「うん。だよね」


「だよね、じゃねえよ!」




「じゃあ、言い方を変える」


「うん」




「──改めて、俺と友達になってくれないか」


「え? 君って私の友達じゃなかったの?」




俺は叫びだしたい気分に襲われつつも。


ああ、顔が熱い。


頭に血が上っているのがわかる。


このニブチンが!




はっきり言わないとダメなのか、いや、こんなやつなんだ。


はっきり言わないとダメだろう。




「言うぞ?」


「うん」


「お、俺の彼女になってくれ! 禿でもいい、病気でもいい。だから、入院していた頃のように、カレンダーに×を付けながら、死ぬまでの日々を数えるなんてもう止めめろ!」


「え? 私、そんなことってしてた?」


「してた。やってた。暗い顔で、遠くを見る目で。どこか悲しそうに、でも落ち着いた顔で」


「え? 嫌なの見られちゃったな。でも、もうそんなことしてないよ?」




 その彼女の言葉に俺は飛びつく。




「それでいいんだよ! 生きろ!」


「うん」


「そうだよ、俺と一緒に生きてくれ、生き抜いてくれ!」


「ええと、うん。君となら、良いかな」




 俺はごくりと息をのむ。




「え?」




 そう、今度は俺が驚く番だ。




「うん、私ね、君と一緒に歩いていきたい」




彼女ははっきりと口にして。


俺は口を丸く開け、実に間抜けな顔を晒し。




「そ。それってお前……!」


「うん」




花のような笑顔。


俺は言葉を無くした。




「でね、君って私より鈍いんじゃないかな?」


「え?」


「だって、両親だってあきらめて、見舞いにほとんど来なかったのに」


「ええ?」


「でね、見舞いに来たのは君だけだったんだよ?」


「そ、そうか?」


「で、花や本や果物を持って来てくれたでしょ? 見舞いのたびに」


「あ、ああ」


「もう、本当に君って鈍いね」


「え?」


「私だって年頃の女の子なんだよ?」


「へ?」


「そんなことされて、自分の気持ちの変化に気づかないわけないじゃない。死にたい、って気持ちなんて、一瞬で生きたい、って気持ちに変わるよ」




俺は再び唾を飲み込む。




「君の心が、君の行動が、私の命を繋げたの」


「お、おう」


「君の行動が、私に「生きよう」って意志を持たせたの」


「……お、おう」


「だから、私の病気を治したのは君。頼んでもないのに、私に未来を用意したのも君なんだよ?」


「そ、そうなの……か?」


「そうだよ!」




と、今度は彼女が声尾のトーンを上げる番。




「だ・か・ら」




彼女が人差し指で俺を指さして。




「わかるよね? わからない?」


「い、いや、なんとなく分かるかも?」


「もう、鈍いんだから! 私、君のこと大好きだよ?」


「っ!」




俺はもう、彼女のことで頭がいっぱいで。


顔は茹でダコだろう、まず間違いなく。


あああ、なんと返事しよう。


コイツ、笑うとめちゃくちゃ可愛いじゃん! ──もちろん、知ってたけど。




「ね?」


「……ああ」


「だから、これからも私のこと、大事にしてね? 私、なにがあっても君にずっとついてゆくよ!」




ああ、すでに日は暮れている。


都市公園の街灯が光る。


それは、俺たちの未来を示すように、進む時間を俺たちに教えてくれていた。


街灯の光が彼女の首飾りに落ち、きらりと光る。




──ああ、今日はもう帰ろう。


今日はもうこれで十分だ。


だって、俺は今日、人生で最も大切なものを捕まえたような気がしたから。



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