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主人思いの侍女の願い



「オスカーさまって、甘いものがお好きだったのね。知らなかったわ」



 自室に戻って侍女アニーの手を借りて着替えながら、ふふ、と嬉しそうにシャルロッテは言った。


 主人が口にした今日のデートの感想に、侍女のアニーは「いえいえ、そんな訳ないでしょう」と心の中で突っ込みを入れる。



 今日は、アニーも護衛の騎士たちに同行して2人のデートの光景を目撃していた。


 カフェでのお茶の際には、騎士のひとりとカップルのフリをしてシャルロッテたちのテーブルのすぐ隣に座っていたのだ。



 アニーからしてみれば、オスカーは別に甘いものが特段好きという訳ではない。

 嫌いではないが普通に食べられる、あくまでその程度に見えた。


 実際、シャルロッテとケーキ半分こをする後半頃は、彼は少しばかり涙目になっていた。

 きっと今頃は胃がもたれているだろう。胃薬が欲しいとか言っていそうだ。



 だから、あれは完全にシャルロッテを気にかけての行動で、ケーキ愛によるものではないとアニーは分かっていた。



 残念ながら、シャルロッテには1ホルン(この世界の長さの単位、ミリに近い)も伝わっていないようだが。



 でも、アニーはシャルロッテのその反応も少し理解できるのだ。


 今回の結婚は、シャルロッテの病気があって成り立った契約結婚で、結婚前に保証代わりの離縁届けも記入済みで、夫となるオスカーは有名な女嫌い。



 シャルロッテだけが相手を大好きで相手側は無関心という、一方通行の夫婦になるだろうと予想したのは本人だけではない、実はアニーもそうだった。



 きっと、結婚はしてもらえても、たまに顔を合わせるくらいの希薄な関係になるだろう。

 寝室はもちろん、食事なども別々で、最悪の場合シャルロッテだけ離れに押しやられるかもしれない、その時は自分も付いて行こう、なんて密かに決意していたのだ。



 それが蓋を開けてみれば、寝室はちゃんと当主夫人用の部屋をあてがわれたし、朝食は必ず一緒だったし、ひと月近く経った後ではあるが、今日の午後にオスカーはシャルロッテと2人の時間を作ってくれた。


 そしてシャルロッテの望むまま街を歩き、カフェに行き。


 極めつけはケーキ全種類の半分こだ。



 蔑ろにされるどころか、驚くほどの好待遇に、アニーも内心では驚いていた。




 でも、だからと言って、オスカーがシャルロッテに恋心を抱いているなどとアニーは思っていない。


 きっとあれはオスカーの人の良さなのだろう。死にゆく人を思い遣る気持ち、あるいは同情が、オスカーの気持ちの大部分を占めている。


 縁談よけと前置きしながらシャルロッテからの結婚の申し込みを受け、結婚後も何かと気にかけるのは、やはりアラマキフィリスの影響が大きい。



 だから、オスカーが優しければ優しいだけ、薬のことを打ち明けるのが怖くなるシャルロッテの気持ちは、アニーだって分かってしまうのだ。


 半年間と限定している分、せめてその間だけはと願ってしまう気持ちも。



 ―――でも。



 それを理解しても、シャルロッテが薬の存在を隠したまま、表向きは亡くなった事にして、その後どこか別の国で暮らすという案には、アニーは完全には賛成していない。



 ただこの国にとどまっても、離縁した貴族令嬢にその後いい縁談が来る可能性はないという事実を知ってもいるから、強く反対するのも戸惑われた。




 ―――オスカーさまがシャルロッテお嬢さまを好きになってくださったら、そしてアラマキフィリスが完治したお嬢さまと本当の夫婦になってくださったら。


 ―――そうしたら、文句なしの大団円で皆が幸せになるのに。



 シャルロッテが大切でたまらない優しい侍女は、自分でどうにか出来る訳もないのに、気がつけばそんな事を願っていた。










 一方その頃、当主執務室では。





「オスカーさま、大丈夫ですか?」


「・・・レナート。侍従長に言って、胃薬をもらって来てくれ」



 アニーの読み通り、オスカーは胃薬を所望していた。



 そして、その日のオスカーの夕食はなしになったそうだ。







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