8羽
「もしかすると、何か手掛かりが掴めるかもしれない。……藁にも縋る思いなんだ」
ギルドマスターの目が、真っ直ぐ僕を見る。
何年も、繰り返し見る悪夢。
きっと、これまでにも何人もの高名な呪術師や医師を頼っていて。
それでも何も手掛かりがつかめずここまで来てしまったのだろう。
その証拠があの依頼だ。
僕たちが受けた眠り草の収集だって、きっと依頼人は同じ人で。
きっと、腕のいい薬師がいて、なんとか眠れるように、睡眠薬を作っているのだ。
「ノアくんさえ良ければ、一度、依頼者に会ってみてくれないか?」
「……」
会った所で、何ができる?
僕は現実のうさぎですら操ることができない、出来損ないのうさぎ使い。
呪術師や占い師でもないし、夢の中のことは何も分からない。
「ノア」
シエラの声がする。
彼女もまた、真っ直ぐ僕を見ていた。
「……行ってみましょう。」
うさぎ使いについても、何か分かるかもしれません。
その言葉に、体の奥から熱が上がってくる。
目頭が、熱い。
「なんで、そんな……っ」
もしかして、なんて。
そんなの、僕だって何度も考えた。
でも、それを認めてしまったら。
「……っ」
握ったズボンが黒くなる。
生地がひやりと肌に張り付く感触がする。
"うさぎ使いは、本当に、うさぎを操る職業なのか?"
体の内側から雫が溢れて、僕の手を濡らす。
僕が、もしくは街の大人が勘違いしただけで。
あの日焦がれた"うさぎ使い"という職業は……
「ノアくん」
顔を上げる。
滲んだギルドマスターの顔が見える。
「……もしかすると、うさぎ使いは君の思っている職業ではないかもしれない」
涙が、堰を切ったように溢れ出す。
「……そんなの、」
「でも」
僕の反論が、ギルドマスターに飲み込まれる。
「職業は、その人が生まれた理由だ」
その人にしか果たせない、重大な役割だ。
ギルドマスターは泣きじゃくる僕に分かるように、言い聞かせるように、一語一語、丁寧に喋った。
僕も、生まれてから何度も聞いた、神さまの教え。
人にはそれぞれ役割があって。
その役割を果たせるようにサポートしてくれるのが、ひとりひとりに与えられる職業なのだと。
どんなに役に立た無さそうな職業だって、どんなにマイナーな職業だって、それには役割がある。
その人にしか果たせない、役割が。
「……僕も、役割、果たせる?」
「ああ」
ギルドマスターの肯定が優しく僕の心の隙間に入り込んでくる。
「……僕、うさぎ使いだから。うさぎさんのショーで人を楽しませることが役割だと思ってました」
するりと心から言葉が溢れる。
「だから、うさぎを操れない僕は、役割を果たせない、ダメな人間だって……」
生きてちゃいけない、生きる価値のない人なのかなって。
僕も神さまの教えは何度も聞いたけど、本当はそんなのただの綺麗事なんじゃないかって、何度も思った。
「……僕の役割は、うさぎのショーで人を楽しませることじゃ、なかった……?」