5羽
「ノアさん、お待たせいたしました」
まずはこちらを、と差し出されたのは、僕の登録表だ。
「あっ、ありがとうございます」
カウンターに置かれた登録表をサッと手に取る。
……ちらり。
受付のお姉さんのほうを見る。
お姉さんの横に、怖い顔をしたおじさんが立っている。
いかにも厳しそうで、しかめっ面をしていて、怖い。
「お前がノアか」
突然おじさんが口を開く。
どきどきが止まらない。
「はっ、ひゃひ!そうです!」
僕、何か悪いことしちゃったかな?
怒られるかな?
思わずシエラの手を握る。
シエラも、ぎゅ、と握り返してくれる。
あったかい。シエラも一緒にいる。
「貴様に話がある。連れも一緒に来て構わない」
職員用カウンターから出てきたおじさんは、そのまますたすたと歩き始めてしまった。
「……へ?」
「どうぞ」
ぽかんとする僕たち。
お姉さんに促されて、慌てて僕たちも後を追った。
「は、話って、何だろう……」
おじさんの後を着いていく。
角を曲がる。階段だ。
怖くなって、シエラにこっそりと話しかけた。
「分かりません。でも、ノアは悪いことをしていませんから」
大丈夫ですよ、とシエラが囁く。
「そっ、そうだよね……」
ギルドに居る他の大人達が、僕たちをを見てヒソヒソと話をする。
怖い。怖いよ。
僕、何もしてないよ。
「私はいつでも、ノアの味方ですから」
ふわ、と頭を撫でられる。
その手が優しくて、温かくて、すっと不安な気持ちが溶けていく。
「……ありがとう」
階段を上がって、さらに階段を上がって、廊下を進む。
あんなにいた利用者はもう誰もいなくて、制服を着た職員さんがたまに歩いているだけだ。
「ここだ。入れ」
おじさんが立派なドアを開けて、部屋の中に入る。
厳つい手がドアを支えていて、ぼんやりとその手を見ていたけれど、僕たちのために支えてるんだ、って理解したとき、申し訳なくなって、慌てて部屋の中に入った。
部屋の奥には立派な机があって、その手前にソファとローテーブルがあった。
部屋の両サイドには本棚があるけれど、本棚の中は書類でいっぱいだ。
「座りたまえ」
おじさんがソファにどっかりと座る。
僕たちは恐る恐る、おじさんの向かいのソファに座った。
「失礼します」
コンコン、とノックがあって、一人の職員が入ってくる。
「お飲み物をお持ちしました」
職員さんは手にトレイを持っていた。
高そうなグラスが僕たちとおじさんの前に置かれる。
「ご苦労」
職員さんはカップを置くと、一礼して部屋から出ていった。
ふう、と息を吐く音が聞こえて、おじさんがグラスに口をつける。
空になったグラスが机の上に置かれた。
「ノアと……ええと」
「シエラ、と申します」
「シエラか」
おじさんは腕を組んでうーんと唸った。
そして、ふっと笑って。
「すまない、怖かっただろう?」
優しいおじいさんのような顔をした。
次回の投稿より、投稿時間を【偶数日22:00】といたします。