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97話 第一位・残像風景②



 情報収集はこれだけか……あと、望めるのは悪の組織『混沌神殿カオス・システム・対真善殲滅機構』の最高戦力、曲がりなりにも精鋭部隊の一角、それが壊滅するのなら、その先にある組織の主要人物に近づければいいだろう。

 目的がレイム・レギレスなら、この部隊を壊滅させようが、また次の刺客が来るだろう。


 この悪を滅ぼすなら、都合が良い。

 なんせ、あっちから接触してきたのだから、自分達はきっかけを掴み、進むだけだ。

 白髪の男は刀を抜く。白い柄と鞘、その刃は全てを跳ね返すほどの銀色の刀身、その佇まい、たかが人間と思えないほどの雰囲気を醸し出す。


 ある時はそこには何もいない透明人間のように、ある時は誰が一歩も動けない状況のようにする。

 正直、言うなら、殺すタイミングなんて幾つもあった。

 だが、かつての友を切り捨てるには理由が必要だ。


 そして彼女は悪の道に進んでいた。


「そんなにあの子のことが大事なの?」


「当たり前だ」


「なぜ?」


「俺は強くなるために修行、戦いを続け、その先で敗北を知った。それが三代目破壊神レシア・レギレスだった。その力を継承したレイム・レギレスにも忠誠を誓うのは当然のことだ。その主を捕縛したんだ、覚悟は出来ているだろ?」


 右手で刀を握り、左へ振りかぶる。


「安心しろ、痛みなく殺してやる――」


 踏み込みから一瞬にしてルリの眼前に現れたジュウロウ、だがその剣撃は空振りで終わった。


「ッ!! なんだ?」


 即座に背後を向くと入り口の手前にルリはいた。


「能力か……いや――」


 この領域のせいで魔力感知が出来ない。

 そもそもジュウロウ・ハリアートは魔力感知を基本、使っていない。では何で察知するのかと言われたら、己の身体に備わっている感覚のみ。

 だからこそ、魔力感知という手段を封じられたとしても仲間に支障があっても彼には支障はない。


 それに能力を発動しているならば、力の強弱に変化が起きている。能力所有者は言い方を変えると『能力』に縛られている。

 発動条件は『能力』の名前を呼ぶ、つまり詠唱をする。詠唱と無詠唱の違いは発動する魔力消費の多さと魂の影響が存在するため、『能力』の取説としては詠唱が正しい使い方であり、無詠唱は間違いに当たる。


 そして詠唱だろうが、無詠唱だろうが、対象から溢れ出る魔力の多さで判別がつく。変わっていないことから領域の特性の一つであろう転移で避けたのだろう。


「逃げているだけか?」


「私は辛いの。敵であろうと友達だったジュウロウを殺すのは?」


「チッ、こっちからすれば、煽りにしか取れないんだ。やめてくれ」


「いや、本当だよ。私が今、ここにいるのは……いや、精鋭部隊に所属する皆がそう。力があるから、今、この地位にいる。力があるから、生き残れる」


「そうなのか……俺の能力は知っているだろ。そんな余裕ぶっこいていいのか?」


 無邪気さは脱ぎえていない。いや、裏表の違いが少ないのだろう。

 だが、少し本気の表情が見え、彼女も刀を抜く。武器の殆どが白に対してルリは黒紫色だ。


「スゥ~……――『虚空神冠ヴァシオン』ッ!!」


 その瞬間、彼女から暗黒の魔力が立ち込める。

 その魔力量、実力は普通か、それ以下だが、ジュウロウが注目したのはその能力の性質だ。

 単純な暗黒ではない、もっと深いものだと直感で感じる。


「隊長になる理由はあったか――『無浄神冠アウミヌス』」


 ルリとは対照的に真っ白な魔力が身体を纏う。


「――《虚実一禍きょじついちか》ッ!!!」


 基本の居合斬り、刀を振るうと同時に漆黒の斬撃がジュウロウに放たれる。

 それは音の速さで迫る虚空の刃。


「何ッ――」


「馬鹿正直に剣で相殺するわけねぇだろッ!!」


 刀を主武器にするジュウロウなら、斬撃は刀で対処するだろうと予想していたが、虚空の刃を飛び越えて距離を詰める。


「範囲拡張――」


「ん?」


 ルリの詠唱とともに木造の宮殿が内部から広がる。範囲拡張、という言葉から一定の範囲を拡張しており、さっきの広さの二十倍の広さとなる。


 狭い場所でやり合うのは危険だと考えたか、でもそんなものは些細に過ぎない。


「広ければ、勝てるとでも?」


「余裕なのも今の内だよ!!」


「ッ――《一閃無浄いっせんむじょう》」


 そしてジュウロウは彼女の実力を正確に測るために剣技を放つ。

 完成された剣技、ルリと同じように居合斬り、ルリの斬撃の速度より凌駕した脅威な刃が迫る。


「――《虚偽二途きょぎにと》ッ!!!」


 その速さに驚愕した表情が見えた。

 範囲拡張で間合いが遠くなったおかげで驚愕したが、必死に考えて剣技を放つことは出来たのだ。

 ルリは向かってきたジュウロウの斬撃を一撃で断ち、二撃目は縦の斬撃を放つ。


「何ッ――」


 加減はしたが、自分の魔力は【無】が含まれているため、生半可な出力ではあらゆる力を無に帰すという【無】の特性からあの出力でも斬撃を切断されるとは思ってもみなかった。

 この【無】の力は絶対だ。切断する方法は出力を上回るか、同じ【無】を保有する『唯一者』か……。


「まさか――」


 迫ってきた縦の斬撃を敢えて剣で防ぐ。

 今、刀身には己の能力『無浄神冠アウミヌス』を流しているため、普通なら出力次第で徐々に消えていくか、霧散する。


 だが、消えない。

いや、正確には消えているが、今の出力からして無効化の速度が遅く、肌感覚だが、違和感を感じている。


 最初、彼女の発動時に感じた、単純な暗黒の正体……。

 片手で握っていた刀を両手で握り、力を込めて横に薙ぎる。暗黒の魔力と呼称しているものを横へと跳ね返し、その正体を掴んだ。


「分かったよ……俺の無効化の効力が弱い理由、例え、闇だろうが、光だろうか、物質であろうが、概念であろうが、無に帰す特性が働く。これを突破するには俺の出力を超えるもの、それが同じ【無】を保有する『唯一者』か……後、もう一つ、【無】に近しい概念なら、対処できるんだ――」


「ふんッ」


 ルリは鼻を鳴らす。

 どうやら正解のようでルリは口を開く。


「私の能力は【虚空】……そこには何もない状態を操る。つまり――」


「あぁ、【無】と近しい概念……だからお前が俺の相手なんだろうな」


「お察しの通り……」


 彼女はまだまだジュウロウと渡り合えると自信を持っており、ジュウロウはその表情を見て、つい笑みを溢す。


 いや――


「くははッ、アハハハハハハハハハハハッ!!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」


 それは大爆笑だった。




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