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94話 第八位・血潮拡散③



「よっと――」


 シールは屋上から開けた地上へと降り立つ。

 そこは丁度、リールが虐殺を完了し、ピールが能力を発動していた。

 無駄撃ちをすることはないのか、死角なのか、あの一撃だけで追撃されることはなかった。

 何となくだが、敵の位置を定めて狙うことに長けている奴だ。だからこそ、このような戦闘スタイルを極めていたのだろう。


「な、なんだ……この煙は――」


 いつの間にか周囲を包む桃色の煙、ピールが所有する能力の権能〈薔薇の香り〉――それを体内に取り込んだ瞬間、感覚神経を狂わせる力を持つ。

 対象の視界は歪み、精神が、浮上する感覚に襲われる。


 そして彼女の元に辿り着く。


「来たんだね――」


 朧気な空間の中で一人の少女と対面する。


 別の精神の中では……。


「な、なんだここは――」


 別の精神の中では……。


「おい、ここはどこだ――」


 銀髪ショート、青色の瞳をした眠そうな少女と対面し、意識は朦朧とせずにさっきいた場所とは全くの空間にいることを自覚する。


「あなた、どうしたの?」


 少女にそう問いかけられた。


 だが、決まってそう問いかけられた者はその質問の意図をすぐには看破することは出来ない。

 突然の展開、曖昧な感覚……その果てに確かなもの――


「ほら、蛇に噛まれてる!!」


 少女は顔より下に指を差している。

 そこへと視線を下げるとそこは無数の蛇に噛まれ、自分という形が曖昧になっていた。

 だが、さっきまで麻痺していた身体、身体が海から浮上するように感覚が明確になっていく。


「な……な……あ、あああああああああああああああああああッ!!!」


 痛みが一瞬にして身体に満ちる。

 ただ蛇に噛まれているだけだが、それは全身に渡り、皮膚から肉体、神経から精神、脳から魂へと届きうる痛みが走る。

 通常なら、肉体の痛みだけで魂まで痛みが到達することはない。可能にするのは肉体が消耗するか、死の淵だろう。


「――『夢幻神冠ファントム』」


 そうピール・レペレストは自分の能力を解説する。


「これはわたしのもう一つの力。一度、死んでママに生き返らせたことで手に入れた力。桃色の煙――〈薔薇の香り〉を吸い込んで体内に取り込むと肉体の制御をなくして精神の感覚を研ぎ澄ませる。攻撃方法は夢という形で干渉し、その攻撃は肉体という壁がないから、すぐに魂まで痛みという衝撃を伝わりやすくなっている」


「がッ……それって――」


「そう、この夢の中では肉体という壁がなくて脆い精神を全力で叩きのめされて夢の中で死んでいく。更にこの夢でわたしは何でもあり、これは夢だからね――」


 そして現実では男たちが白目を向いて失神していた。


「――ピール。もう、終わった?」


「うん。もう終わった……」


 その後、シールは《鮮血剣サングディス》を一振りすると倒れている男の首が両断し、血が空中を流れてシールに集約される。


「じゃあ、私は行ってくるね!!」


 まだ増援は来るかもしれないため、ピールとリールは地上で待機する。ビルへと入る。

 さっき光が放たれた場所はビルの上層階であるため、とりあえず上を目指して階段を駆け上がる。

 一階、二階、三階……十階、十一階、十二階。


 そこで階段は終わっていた。

 だが、感覚的だが、まだ階段が終わる最上階に来たわけがないため、ペタペタと常時、靴を履いていない裸足の音を立てて、窓に駆け寄り、窓を開けて上を見る。

 やっぱり上はまだまだ続いている。

 遠目で見ていても、デカかった建物だから、まだまだ上は存在するが、階段はなくなっている

 横を見ると長い廊下、シンプルな構造だが、戦闘の際は注意すべき場所だろうが、悩んでいる時間もないため、シールは足を進める。


 そして丁度、真ん中の地点で上から違和感を察する。


「ん……?」


 キュイーンという音が真上から鳴り、シールに降り注いだ。

 ギリギリでシールは後方に回避して《鮮血剣サングディス》を構える。

 目視では見えないはずだが、天井越しで命中できている。魔法、力の干渉は見受けられない……まさか、下の階から聞こえる足音だけで敵対象の位置を判別したのか。

 なら――


「耳が優れている……それか、まぁいいや」


 まだ観測方法は確定していないが、攻撃を察知したら回避か、防御をすればいいだけであると考えて前へ進もうとするが、さっきの攻撃で天井に穴が開いていることに気付く。


「あ……」


 その穴を覗き見ると橙色のポニーテールの少女が見えた。見た目は少女だが、仲間であるわけがない、紛れもなく、敵だ。

 やっと敵の姿が見えた。


「あいつか――」


 シールの眼が更に開く。

 獲物の姿を瞳に刻み、絶対に狩るために……。


 その瞬間、鮮血の翼を広げて舞い上がる。

 光の攻撃で空いた穴は余裕でシールは通り抜けるため、妨害される前に出来るだけ距離を詰める。


「ッ――――」


 その吸血鬼の少女シール・レペレストの殺意に気圧されて敵の少女はすぐに下がる。

 だが、今まで遠距離攻撃をしてきた奴が、そう簡単に相手を寄せ付けることはないだろうとシールは予想する。


 それはすぐに的中する。

 キューンという音の後、光がシールに向けて壁を突き破って向かってきた。

 飛行中の攻撃、その光が当たる直前に剣を振り上げて全身を包むように鮮血の球体を形成する。

 ドォンッと命中した音が響く。


「もう一発ッ!!」


 空間が割かれ、サーチライトがガコンと少女の前に現れる。そう、空間転移の技術によって任意の場所に物を運搬することができ、その役割を担うのが、領域内に存在する基地なのだ。

 少女はサーチライトの後ろにあるボタンを思いっ切り踏み、キューンと自動的にサーチライトの向きが、敵である吸血鬼に向いて光が放たれる。


「ふふッ!!」


 この展開した領域の特性のおかげで敵と設定した対象の位置情報はどこにいようがまるわかりであり、その情報をサーチライトと同期することで自動的に対象へ向く。

 この領域が展開した時点で敵側である彼女は最初から有利に立てるため、そんな余裕に少女は微笑む。


 ボゴォォォンッ――と少女の前方、床が崩壊し、鮮血の球体が現れた。


「なにッ――!!」


 サーチライトの標準補正は高く、更に攻撃の光の速度で迫っているため、回避することは不可能に近い。

 が、予想外の位置に目を合わせた敵はいた。


「私達は三人で一つ、私の代わりにリールが身代わりになってくれたよ。さて、やっと会えたな。メスガキ――」


「ふふん、ただ近づいただけで勝利気取り? そんなことで勝てるほど私は甘くないから――」


 どっちも正しい言い合い、一触即発の状態となる。


「まず、お前、誰だよ?」


「ん……悪の組織『混沌神殿カオス・システム・対真善殲滅機構』の最高戦力、精鋭部隊の一角、十番隊『暗黒満月』が一人、第八位、ラウラだ。ほんの短い間だろうけど、頑張ろうね?」


 橙色のポニーテールに近未来的な白色を基調とした抱えるほどの銃を肩からベルトで掛けている。

 その姿、雰囲気からこの戦いが初めてではなく、戦闘を経験してきたことは確かに感じ取ることが出来る。


 そこからシールは思う。

 これは楽しめそうだ、と――


「あぁ、望むところだ!!!」




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