92話 領域騒動⑤
「あれは……敵の基地か」
「まさか、領域を展開してその中に基地を設けているなんて……」
「あれが、敵の本拠地ではあるまいし、長期戦になることを想定していたのか?」
「かもしれない。まぁ、あれを壊せば、敵は劣勢になること間違いないし、結局、戦うんだから迂回する理由なんてないよな?」
建物の上、高台から基地を見下している。
水色の長髪、氷で編まれたドレスを身に纏うのは最古の魔王、第二位“氷結の魔王”レミナス・グラシアスと暴風の竜王にして“無敗の巨竜”ビーヴァルド・レブロヴァールの二人が合流した。
壁の手前にその基地は存在した。
「敵から情報を吐かせることも出来るだろう?」
「そうですね。吐けばいいですが……」
魔王の少女と竜人の男。
デコボココンビであることは間違いないが、戦闘経験を積んでいる二人は状況を整理して合流したのなら、協力しようということで話はまとまった。
「さて、行こうか!!」
「もう包囲されているが……」
「そんなことわかってるわ!!」
二人が議論している時点で敵も当然、気付いていたが、レミナスとビーには焦る様子は見られない。
魔王としてのプライド、竜王としての強さが二人にはあるからだ。
「最古の魔王、第二位“氷結の魔王”レミナス・グラシアスと“最破”の一人、ビーヴァルド・レブロヴァール――」
二人の周囲に存在している雑兵とは違う人物、男だ。
真っ先に違ったのは鋼鉄シルバーのフルアーマーを着込み、顔を見せている。水色の髪が皮膚とアーマーの隙間から出ている。
アーマーから分からないが、体格からしてビーと同じく肉弾戦特化だろう、と二人は憶測を立てる。
ビーとレミナスはお互いを見つめてレミナスは一歩引いた態度を取り、ビーは一歩前に出て口を開いた。
「誰だ?」
「お前等の敵だ。悪の組織『混沌神殿・対真善殲滅機構』の最高戦力、精鋭部隊の一角、十番隊『暗黒満月』が一人、第九位、グレルだ」
「ふぅん、じゃあ始めようか!!」
流石、戦闘狂であり、魔王だ。
敵であるなら、力を振るい、圧倒するのみ。話し合いの余地なんてないし、そもそも敵自体に毛ほども興味を感じないのだ。
レミナスはただこの状況を打開したいだけ、妹のためにこの『無限の星』のために――
「いいだろう。全隊員、戦闘行為、開始だ――」
男はそう冷たく言い放ち、戦いの火蓋が切って落とされた。
「領域の外周……選択は間違っていなかったの?」
最古の魔王、第五位“繁栄の魔王”マリテア・ヴィティムが長身の女性、ベルーナ・ジルミゾンに問う。
「相変わらず静かなのは、この世界観なのだろうけど、敵にとって自由自在なら正規ルートなのかもしれないです」
正直、正解なんてわからない。
恐らく敵に許されているルートであろう裏路地、そこをベルーナが先頭で二人は移動している。
相変わらず、静かなのは変わらないが、状況は変わった。
狭い裏路地から唐突に大通りに出た。
「これは……新展開かな?」
「ですね。で、あの子……」
大通りの奥に青白い一つの人影があった。
非常に小柄であり、青色の長髪を一つに結んだ髪型。ジュウロウが着ているような和服を身に纏っている。
「どなたですか?」
「悪の組織『混沌神殿・対真善殲滅機構』の最高戦力、精鋭部隊の一角、十番隊『暗黒満月』が一人、第十位、ユリナ・ギウナ――」
そして腰に携えている刀を抜く。
それは青白い月明かりに照らされたようなものだが、元々青い刀身であり、月光でその色が更に輝いている。
真っ暗な街、基本的に静寂に満ちている領域で静かに邂逅する。
ワーレストとレジナインはビーとレミナスとは違う基地へと辿り着き、止まることはなく、進行しながら話し合いを続ける。
「基地ということは人員の保管、待機場所かな? ここを潰せば、我々にメリット十分あるだろうし、長期戦は誰も望んでいないだろう」
「そうですねッ!!」
ただ周りを振り向くだけで雑兵が血を流して倒れていき、ワーレストは動き回っている。
「意外と多いですね!!」
「あぁ、静かすぎて予想を見誤ったけど、誤差だよ誤差。情報を収集するためには多少、兵器運用をしてくれないとな!!」
確かに人数が多かろうと雑兵が増えただけで危機感も上がらない。ポジティブに考えるなら、相手が保有している情報を引き出してくれれば、役に立ったということになるだろう。
レジナインは冷静に分析する。
『おい、兵器を投入しろ――』
敵陣の内線にその指示が出されてただワーレストとレジナインに向かおうとしていた後方の隊員が基地の奥へと駆け出す。
ワーレストとレジナインは隊員の流れが期待通りに兵器運用をしようとする流れになるが、二人は違和感を覚えた。
「まさか、能無しか?」
いくら兵器運用をしようと全員が一時的であろうと敵であるワーレストとレジナインから目を逸らし、全員が基地の奥へと引っ込んでしまったのだ。
「雑兵だから……でも、まるで子供みたいに……」
あの動きを彷彿とされるのは間違いなくご飯だと言われて駆ける子供だ。
それを大の大人であろう敵陣の隊員が行ったのだから、明らかな誤算で頭脳明晰キャラである二人は見事にフリーズしてしまった。
「やぁやぁ、閉鎖空間でやらせてもらうね――」
飄々とした雰囲気、桃色の長髪を三つ編みにした女性が基地の入り口に立っていた。
この状況は入り口を塞がれたが、これが一人だったら、危ないが二人なら全然焦ることはない。
「悪の組織『混沌神殿・対真善殲滅機構』の最高戦力、精鋭部隊の一角、十番隊『暗黒満月』が一人、第三位、シュラン。さっさと終わらせよう――」
飄々とした態度は変わらず、状況を正確に整理が出来ないのか、それともワーレストとレジナインを相手取っても勝てると余裕すぎる戦力があるのか。
「そうだな。無駄なことに時間をかけるのは嫌いなんだ。ワーレストは兵器を、私はこの刺客の相手をするよ――」
壁の外側と内側。
精鋭部隊の一角、十番隊『暗黒満月』の各隊員が一人か、二人の相手を割り振られて各自に任務を遂行していく。全員で殲滅することはない、その部隊の戦術は隊長が決めることなので様々だ。
法則は存在し、十番隊は精鋭部隊の端くれ、戦力が足りない隊員を補うために外周に基地を二つ、内側に基地を一つ設置して雑兵と兵器を上手く使い、殲滅をする。
「僕はフェル。悪の組織『混沌神殿・対真善殲滅機構』の最高戦力、十番隊『暗黒満月』が一人、第七位のフェルだ――」
戦場は屋上で行われ、その周囲には雑兵が位置する。
全員が後方支援に徹しており、前線で戦うのはフェルの名乗った黒髪だが、毛先が水色である少年だけだろう。
話し合いの結果、念のためリツリとリビルが相手をしてルカルの他、六人の使用人は雑兵を相手にすることを決める。
そして十番隊『暗黒満月』と『無限の星』により全面戦争、その名“影月戦争”が戦火に包まれていく。
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