8話 大浴場
最初の七人の使用人、その二番ルカル・リセカンド。漆黒の長髪のリツリとは少し青みのあり、控えめの胸のリツリとは違い、大きさは六倍くらいあるだろうか。レイムの背丈から上を向いても胸が視界の真ん中に来るから余計に大きく見えてしまう。
メイド服は全使用人が揃えて、通常の衣類とは違い、このような蒸気が充満している空間でも形などは崩れていない。
そんなルカルは城内の施設管理を行っており、可動している施設を見回っている。
この温泉は各属性を含んだものがいくつも種類が存在するため、自分に合う温泉に浸かることで疲労はすぐに回復するほどのものだ。
もちろん、この城の主であるレイム専用の温泉も用意されている。
それは漆黒の湯。
その黒さから黒インクをそのまま湯船に敷き詰めたのかと思われるが、レイムに合う者と言えば、己から発せられる【破壊】の魔力だけだ。
しかしただ【破壊】の魔力を注ぎ込んだというわけではなく、温泉を建設することが決まり、当時の破壊神によってこの湯が作られたというわけだ。
破壊神が入れば、魔力を回復できるが、他の者がこの湯に浸かるとパチパチと肌に軽い痛みが走る。
これは『破壊神の加護』を持つ“最破”でさえ、パチパチとなる理由はそもそも論、魔力適正がない属性は操れないので当然の反応であり、破壊神の加護でもそうなるのは加護があるから済んでいるだけだ。
一つの湯船でも三十人ほどが入れる大きさが並び、それぞれ竜の彫刻からお湯が注がれている。
ルカルを先頭にレイムとリツリは大浴場を進む。十二年も生きているレイムがお風呂にいるとついつい考えてしまうことが身体の成長についてだ。
当然のことだが、子供である自分と大人であるリツリ達と比較する自分が落ち込むのは当たり前のことだ。
更に追い打ちをかけるように神という存在の身体はある程度、成長すると外見成長は止まるらしく、決定的な年齢は大人である二十過ぎと言われているが、個人差もあるためレイムは自分の今後が不安であり、成長している感じがしないため、もう止まってしまったのではないかと思っている。
漆黒の長髪が余計に目立つ白い肌、胸は凹凸が確認できるためギリギリ膨らんでいる。
ふと、横で歩くリツリを見る。
その顔、上半身、下半身と目線を流す。ルカルより小さいが手で掴める程度、今の段階でレイムはリツリのサイズを目指そうとしていると自分の目標を再認識すると、その目線に気が付いたのか、リツリが話しかけた。
「レイム様?」
「ん、な、なに! 別に何も見ていないけど!?」
慌てて言い訳をするレイムにリツリは可愛いものだと微笑む。
「あ、いや……あ、そういえば、あの三人が最破に加入するなら、加護を与えないといけませんね」
「あ~そういえば、そうだ」
加護とは文字通り、神の恩恵を受けられるようなものであり、受けられる者は神の眷属や神とたしかに繋がっている者として認識されているが、加護を受けている者は超少数である。
最破が受けている『破壊神の加護』はその時点で不老であり、破壊神が存在する限り、加護を受けた者は不死となる恩恵が受けられる。
最破の一員、破壊神の配下としての証として神から加護が与えられる。
漆黒の湯に到着してレイムとリツリは湯船に入る。
「はぁ~……」
安堵に包まれてレイムはリラックスする。
魔力の回復が備わっている漆黒の湯だが、レイムは膨大な魔力量と自然回復が間に合って枯渇することなんて自分と同じ実力者と死闘を繰り広げたら、枯渇の可能性はあるだろう。
「加護、やった方がいいよね?」
「そうですね。しかし……まだ最破のリーダーであるジュウロウが納得していないですから」
微妙な表情を浮かべるリツリ、圧倒的に年上であっても最破のリーダーであるジュウロウ・ハリアートに強く意見を言えない。
それは他の最破のメンバーでも同じであり、強く言えるのは立場が上なレイムだけだ。
「そう……じゃあ、しょうがないね」
するとガタッと大浴場の入り口が開く音がしてソージ達の声が聞こえた。
「おぉ、凄いな」
「え~、凄い!!」
「広すぎる!」
ソージ、ソピア、サリアが大浴場に入ってきた。
「うぅッ」
ビックリと同時に身体中に一気に恥ずかしさが湧き上がってきて、湯に顔を沈める。
その乙女の反応にリツリはまた微笑み、隣に施設を様子を見るルカルがリツリに問い掛けた。
「リツリ、あれが?」
「そう、新人。人間の勇者たちだよ」
長い年月を生きてきた経験者だからか、リツリの反応はそれなりの高評価だった。
あの三人はレイムと同じ、最破からは『子供』だと思われているが、その結果が悪い奴じゃないってことは認められている。
それに勇者の家系はほとんどが善人とされているため、後は純粋な忠誠を我が神であるレイム・レギレスに向けられるかだろう。
「ソージ、ソピア、サリア!!」
リツリが三人を呼ぶ。蒸気で見えないが、その声の方向に進んで漆黒の湯へと現れたソージ、ソピア、サリアの三人。
「このお風呂、黒い」
そう誰もが思う意見をソピアは話した。
「あぁ、このお風呂は破壊神の魔力が含まれたものだからそのせいで黒くなっているんだ。根性があるなら、後はレイム様が許可するなら」
「うぅ~……」
そんな話よりレイムは恥ずかしかった。
黒い湯船で身体の目元より下は隠されているが、自分が裸であることは間違いないけど自分の心は揺れている。
「どうしました、レイム様?」
一瞬、リツリの顔がにやけた。
「え、恥ずかしいんですか? いつも下着と服しか着ないのに?」
「い、いや……初めて、だし」
たしかにレイムはパンツと黒い服を着ているだけだ。
少し服が靡けば、パンツが見えるものだが、もう最破達は神の服装に何も口出しはしない。
そもそもあの服装をした理由は着飾るのが嫌いというものでそれで生活も訓練もしていたため、仲間、育てた最破達には羞恥心はなかった。
でも、初めてという言葉の意味を汲み取るのなら、彼らが新人だからだろう。
しかし核心的な理由はほとんどが知っているが、言わない。
「うぅ~……」
身体が熱い。湯船だからか、いやそれだけじゃない。
漆黒の湯を見て、リツリ、ソージに目を移す。
もちろん、彼らも裸だ。親睦会で聞いたのはソージの年齢は十六歳、自分とは四つの差があることだ。
勇者として並外れた訓練をしてきたからか、十六歳で並外れた筋肉をしている。ジュウロウやビーなど、お風呂で目にしたことはあり、屈強なものだという認識はあったが、それとは別の感情、形、鼓動、色が加わっている。
「じゃ、じゃあ……」
「い、いや!!」
自分の湯に入ることは最破ならできるが、加護を受けていない者が入浴したら、何が起こるかなんてわからない。
隣で入浴するリツリに悪意はないため、何か企んでいるのはすぐにわかる。
それに自分の力が染み込んでいる湯船に入るなんて恥ずかしすぎるからとレイムは咄嗟に立ち上がった。