86話 第八位・血潮拡散①
一つの壁の外側。
この壁の向こう側は更に領域の効果が上がっていく。
だが、領域に入り込んだ敵、正確には初見の存在は必ず、領域の中心に目をやり、注目するだろう。
なぜなら、領域の中心がこの舞台の要だからだ。
敵と交戦し、相手が有利になる領域……それを崩さなければ、敵に圧倒されるだけだ。
だから領域の中心を目指して領域を崩すのが勝つための方法の一つだろう。
「う~ん……さっき何か響いたはずなんだけどな~」
ビルの屋上。
黄金の長髪、赤色の瞳、赤と黒のドレスを着た十二歳の少女が考える。内側はもう見たので、外側を眺めている。
内側は街並みが広がり、壁があるが、まだ先は続いている。
外側は街が途中で終わり、上空のような景色だ。
「ん~?」
「留まるべきなのかな? お姉ちゃん」
「留まるの、先へ行った方がいいんじゃ……」
銀髪ショート、青色の瞳、青と白のドレスを着た十一歳の少女が姉であるシールに疑問を投げかけるが、
灰色の長髪、紫色の瞳、褐色の肌、前後の面積の灰色のエプロンのようなものを着用している十歳の少女が案を話す。
「そうだね~でも、皆がそうやって行動しているなら、私達はゆっくりでもいいかもしれないよ? そう簡単に全滅するなんて思えないし……」
歓楽的な自分の性格に従い、マイペースに物事を見て、行動する。
別に主であるレイムを心配しているわけではなく、その役割は自分達より実力の高いジュウロウが必ずやり遂げると信じているのだ。
まぁ、他力本願であることには変わりないが、全員が中心に向かってもいいが、別の視点から見たシールは回りを見て周って、気になるところを探そうという魂胆だ。
一応、三人は近くだった。
「ん……電車が動いている?」
八車両の電車が動いている。
まずだが、この街は動いていない。電気もついていないし、人の気配なんて侵入した『無限の星』か敵以外は存在しないだろう。
なら、あれは何だ、とシールは考える。
ぱっと考えて敵でしかないが、確信はないし、ほとんどは中心を目指すだろうが、自分達は遠回りするのだから、丁度良いだろう。
「ピール、リール、行くよ!!」
二人は姉であるシールについて行くのみだ。ドレスを身に纏い、貴族の娘のような風貌な少女だが、ビルから勢いよく飛び出し、宙を舞う。
吸血鬼に飛行能力はない……だが、体内で巡る鮮血、親指を歯で切り、数滴が細い指から垂れ、それを後方に散らす。
すると彼女の魔力と鮮血が反応し、その数を急速に増加させてあっという間に赤黒い両翼へと変化させて少女の身体を持ち上げ、羽ばたく。
それを後方の二人も行い、運行している電車の屋根へと着地する。
「ふぅ~、んん?」
やはり気配はない。
「おとり、かな?」
「かもしれない。それでもわたしたちを相手取るなんてことが出来ればの話しだけど……」
「本当だね。中に行くよ」
翼だった血液を手中に収めて剣へと形を変化させてその刃で穴を空けて電車の中へと侵入する。
目指すのは当然、先頭車両だが、リールは反対側、ピールはその場に留まり、シールは先頭へと進む。
「ん~、ん~、ん~……」
電車、というものに詳しくはないが、普通に走り、内部も変わっていない。
まぁ、全体的に暗いというわけだが、【鮮血】の力を使えば、目の慣れを早めることが出来るため、昼間のように全てを捉えられる。
だがしかし魔力感知が不可能なのは、少し痛手……いや、不便なくらいだ。
「何もない……ん?」
先頭車両へと行き、運転する扉をこじ開けて中を見ると足下に明らかに不自然に置かれたもの、黒い装置があった。
その装置が可動はしていないのは一目瞭然なため、しゃがんでよく観察する。
十二歳の少女から見て、抱えられるほどの大きさだが、上の方に取っ手があるため、大人なら片手で持ち運べるものなのだろう。
縦に長く、全身が黒。
色の影響か、怪しさ満点なのは否めない。
シール側にレンズのようなものがあり、投影機だろうか。
「お姉ちゃん!! リールが何か発見したって!!」
ピールが声を上げて報告する。
「うん!! こっちも見つけた!!」
眼だけは投影機に向けていたが、すぐ後ろからリールの声がした。
「普通、こんなものって電車に必要ないはず……壊す?」
「そうだね。怪しいし、壊した方がいい――」
その時、タイミングを見計らったように投影機が可動し、キュィィィンと何かが加速する音が響いたと思った途端、青白い光が電車内に満ちた。
ゴゴゴッと強い力が車両を内側から押し、数秒で破裂し、電車は爆散する。
「ッ……なになに?」
咄嗟の判断で三人は爆散に流されて上空に舞った。
「なにか、分からない……でも、敵の攻撃であることは間違いない!!」
「でも、爆散……あの二つの装置から放出した光が満ちて拡散した――」
力の流れからさっきの事象をシールは分析する。
「ん?」
その瞬間、地上で強光が発生してシールは青白い光に襲われる。命中した存在は悉く破裂して大地へと残骸が落ちる。
「くふふ、いいね。まんまと引っかかった。遊べるねぇ~」
三人を完全に見据えている橙色のポニーテールの少女は思わず、笑う。
「さて、逃がさないでよ?」
そう、無線で告げると自分が立てた計画に沿って即座に動き出した。
「いたた……」
敵の計画に見事に引っかかったシール、ピール、リールだったが、即座に形成した鮮血の壁により少しかすっただけで三人とも無事だったが、大地に落ちた。
「ふぅ~……あれって単なるビーム?」
「いや、どうだろ……機械から放たれた光は淡いものだったけど、身体が動かなかった」
「その後の強い光には殺傷能力があった……」
「絶対に当たるようなものか……まぁ、向こうから出てきたのは楽でいい!!」
確かに向こうから出てきたのは楽だが、まだ敵の場所は分かっていないのだから探すことには変わらない。
かすり傷とは言え、防御をしていたシールの感覚ではまともに食らえば、余裕で自分達に通用する威力をあの光の危険性は高い。
「どうする?」
「三人で固まるしかない。それが私達の強みだからね――」
街が、景色が動いている。
さっきのように地震を引き起こすほどのものではなく、静かに地形が変化している。地形が変化しているのに地震が起きないのは領域全体ではなく、一部の区画を変化させるのは容易なのか……。
「ん……い・た――」
吸血鬼の少女の長女、シール・レペレストが真っ先に敵であり、獲物を発見した。
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