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84話 独白



「あいつ……」


 ジュウロウ・ハリアートはしばらく立ち尽くしていたが、あの壁が進む先だと即判断して走り出す。

 千年単位で生き長らえてきた人間、人並み以上に努力をし、全て自身の思い通りに成長した男。


 それは彼が天才だから、天賦の才の持ち主だから……彼が『唯一者』だからだ。

 だが、それは才能の話だ。

 今、彼が問題視しているのは感情の変化だ。

 それすら才能でどうにかできないのか、と他者からの意見もありそうだが、『唯一者』は別に悩まないなんてことはない。


 全てを理解し、少しの努力で目的地に辿り着ける。

 剣を極め、最強の剣士となることも魔法を極め、独自の魔法理論を確立することも、神に挑み、勝利することも……。


 だが、それでどうなる?

 全てを理解し、この世に未練などなくなったら?

 全てを可能にするからこそ、無意味さを知ったら?


 でも、そこまで辿り着くことは簡単にはない。

 無属性を兼ね備えた唯一なる力、才能に関しては天才の極致――そして人間としての精神性だ。


 だからこそ悩み、葛藤し、生きる。

 それこそが『唯一者』にして人間としての在り方であり、証なのだ。


「あいつの言ったことが本当なら……俺は優先するものを優先するさ。例え、敵であろうと俺は大事なものを守るために――」


 その脚力による移動で数分の間で壁に接近し、右手で刀を掴む。


 ――あれは斬れるか?


 力が制限された領域内で力が発揮できるのか、という疑問が過ったが、すぐに大丈夫だと自分を信じて刀を抜く。


「『無浄神冠アウミヌス』――《一閃無浄いっせんむじょう》ッ!!!」


 基本の横薙ぎにして一撃必殺の型。

 純白の刀身から放たれたのは透明だが、遠目ならその斬撃を視認できるものだ。触れれば、問答無用で斬り裂かれる。


 ザァンッ――ゴゴゴォォォッ!!!

 少しの不安だったが、壁の中間を横に切り裂き、横に細長い穴を空けた。

 無属性を含んでいる斬撃、それを放つジュウロウもこの領域の効力は確かに受けているが、【無】の特性のおかげで半分以下の効力となっている。


 ジュウロウの斬撃が通った場所から影響で壁がひび割れ、倒壊する。


「よし――」


 一振りで巨大な壁の一部を破壊したことを当然だと言わんばかりに涼しい表情をしながら、ジュウロウは先へ進んで行った。


 巨大な壁によって分けられた区画、無論、これにも意味がある。人数で劣っているなら、敵の戦力を分散させて絶対に勝利できる罠に嵌めることだ。

 この戦場は自分達の思いのままに操作できるという圧倒的有利な環境で迎え撃つ。

 これが必勝法であり、負けるはずのないものだ。


「――これがあるから、私は勝つことができる」


 ……………


 …………


 ………


 ……


 …


 ほとんどの精鋭部隊は命令に従い、その役割を実行する。

 それは『悪』そのものからの命令であり、それを遂行することで『悪』の目的が徐々に達成されていく。


 私、いや私達は……多分、他の部隊より『悪』に対して忠誠心なんてないだろう。でも、ここにいる理由はここしか自分の居場所がないから、だろう。

 しかし私はまだマシだ。才能によって選ばれ、一番隊の隊長の弟子となった所謂、優遇者だ。

 この部隊は実験的な部隊だ。

 だが、この作戦を成功しなければ、『悪』のために自分達の利用価値を示さないと……。

 悪の組織『混沌神殿カオス・システム・対真善殲滅機構』に加入した者は忠誠心がなかろうと身の全てを『悪』に捧げる。


 それほどまでに組織の頂点にいる存在が強力なのは、基本的に対面など不可能な精鋭部隊の隊員でもひしひしと感じている。

 それは明らかに恐怖心だ。

 一度でも『悪』に与してしまったら、『悪』の指示に従わなければ、死しかない。

 そう、自分達はもう後戻りなんてできない。


「……俺は、勝てる」


 ソージと対峙していた一人の少年は呟く。


「地獄の痛みに耐えて手に入れたこの力で……俺は、望むものを手に入れる」


 少年は満月を見上げる。

 白き月光が暗き戦場を照らすという幻想的な景色、ここが戦火と血潮で染まるのだろうと少年は思い、黄昏る。


「ん……?」


 作戦開始から数十分、一つの壁に穴が開けられて壁の向こう側に予想された人物らが突破してくる。

 この戦場で敵の行動は全て想定されている。

 ビル群の地区、屋上の一つに突っ立っている少年は誰かを待っている。


 その相手は当然、決まっている。

 少年の敵である彼が進んでいる方向、その前方に立ち塞がっているのだから……。


 そして一時間くらいは経っただろうが、感覚ではただ月を見上げていたら、あっという間にその時が来た。


「お前……」


 金髪の青年が声を漏らす。

 突然の戦闘を仕掛け、一度は離れたのにまた目の前に現れれば、イラつきもあるだろうし、初対面より更に不信感が湧いている。


「ん、何も……でも、今回は名乗る。悪の組織『混沌神殿カオス・システム・対真善殲滅機構』の最高戦力、精鋭部隊の一角、十番隊『暗黒満月』が一人、第六位、ルイカだ」


 ルイカ、という名前をソージに告げた。


 その長々しい組織名、精鋭部隊の一角であり、十番隊『暗黒満月』を告げたが、それが決まった台詞なのだろう。


「俺は『無限の星』の“最破”が一人、第十席、ソージ・レスティアルだ――」


 お互い名前を名乗った後、ルイカは腰を落として戦闘態勢に入り、ソージは聖剣を抜く。


 再び、二人の戦いが始まる――


 この時間が長ければ、長いほど微かな『希望』を感じ、手に入れることができるが、新米に関してはかつての『地獄』と変わらない。

 この組織に存在している者達のほどんどが『地獄』から這い上がってきた者達だろう。


 我々の全てが『地獄』としか形容せざるをえない場所から生まれたのだ。




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