82話 領域騒動③
そこは手が加えられたまっ平な地面、コンクリートの上だ。
「うぐッ……ここは?」
レイムが辺りを見渡そうとした瞬間、バチンッバチンッと音が鳴り、強い明かりが発生する。
それは巨大なライト、サーチライトがレイムとレイネルを全方位から襲う。
「罠……待ち構えていた?」
強光で硬直するレイムとは違い、レイネルは正確に状況を分析する。
この光は何の変哲もないものだ。目くらましか、何なのか分からないが、光のせいで辺りに人がいるのかもわからないため、身構える。
「さてさて~!!!」
二人の正面から甲高い声が響き、レイムとレイネルは声がした方を向く。
それと同時に自分達の周囲に大勢の人がいることを自覚し、その先頭に立つ女性が姿を現す。
白い髪のショート、真っ白な軍服のような服装をした女性。
「あれが……いや――」
やっと敵が現れたことで領域の主、管理者が現れたのかと思ったが、違う。
今のところ目の前にいる奴じゃないことは分かる。一番分かりやすいのは神の力がそのまま領域に発生している神々の領域なら良いのだが、そう簡単にはいかないだろう。
「誰……?」
魔力で身体強化を施し、不可視の圧力に抗いながら目の前の人物に問うと同時に大地が大きく揺れ出す。
恐らく、領域が大きく地形を変化させているのだ。
レイムの問いに女性は自慢げに鼻を鳴らす。
「ふふん……聞かれたのなら、名乗ろう。我らは悪の組織『混沌神殿・対真善殲滅機構』の最高戦力、精鋭部隊が一角、十番隊『暗黒満月』が一人……第二位、ロアだ――」
女性は素直に自身の組織名、部隊、名前を打ち明けた。
まぁ、それが本当なのかなんて今のレイムに正確に判断することは出来ない。ロアと名乗った女性はまだ言葉を続ける。
「早速だが、レイム・レギレス、お前には死んでもらおう!!」
「……は?」
この世界でゲームを始めた娯楽をある程度、齧ったレイムにとってその台詞はド定番であったが、今では実際に創作で使われたことはないくらいに所謂、古い文言だ。
敵であるが、突然、はっきりと言われたことに思考が追いついていなかったが、すぐに猛攻が二人に降りかかる。
「ぐッ……まずはこれを何とかしないと……」
二人に圧力がかかる。領域の特性がこれほどまで協力だとは思っていなかったため、抗う力を得ようとレイネルはレイムの中へと光の粒子となって入っていく。
実体できるのはメリットもあるが、純粋に本体の邪魔となるデメリットもある。分離している状態では本体のレイムでも【再生】の能力を使用できないため、今は所謂、完全体になっておく。
更に権能〈破壊の翼〉を展開し、身体能力を強化するが先制を仕掛けられたため、今から抗うにも余計に力が必要となる。
正直、これは打開するには非常に困難だ。
膨大な魔力量を有していても蛇口、唯一の入り口であるレイムが塞がれてしまったら、いくら大量が流れようとしても意味をなさないだろう。
この際の打開策としては蛇口ではなく、器に穴をあける……だが、自分自身でそんなことはできない。
つまりは……この状況に力に抗い、蛇口を回すしかない。
「舐めるなよ……」
圧迫されている最中、少女の喉元から低い声が漏れ出す。
それは怒りだ。純粋な怒りを力として圧迫されている身体を押し上げ、魔力を放出して対抗する。
「ふん、念には念だ!!!」
周囲の武装した者達がサーチライトの後ろについているコードを引っ張る。
その瞬間、ただの強光だったのが光の刃となってレイムに炸裂する。
それは紛れもなく、ビームの類だ。
「ぐッ――」
だが、魔力による身体強化のおかげで光の刃が命中しても肉体を切り裂くことはなく、レイムを包む魔力の層を切り裂くだけだ。
しかしまだ圧力は続いている。
自分自身を圧殺する気か、と思ってしまうほどに効力は乱れることなく続いている。
「クソォォォォォォォォォォッ――――!!!」
全力全開の少女の叫びとともに魔力を押し出し、圧力に抗いやっと直立し、剣を振りかぶる。
『対破神兵器、準備完了――』
ロアの無線からそう聞こえた。
「よし、外すなよ――」
悪の組織から支給された武装を着用した大部隊、その中でも他の隊員とは違う雰囲気を醸し出している男が立ったまま狙撃銃を構える。
対象となる破壊神は心臓を潰されても蘇生したという情報のため、男が狙うのは頭部だ。
一見、対物ライフルだが、それは悪ととある組織にて製造された神を討つための兵器、特殊なものに特殊な弾を込めて放たれるそれは神すら貫く。部隊の中で一番の狙撃手は息を整え、スコープを覗く。
『限定拡散兵器の停止まで3――』
対象を食い止めるのも永遠には続かないため、サーチライト型の限定格債兵器の停止とともに対象を仕留める。
「ッ――――」
レイムは無我夢中で剣を振るい、漆黒の斬撃を飛ばす。
正確性は皆無だが、無我夢中の威力は当たれば無傷では済まない。魔力による身体強化練度に正確性はないが、その厚さは練度の高いものと比較できるほどのものだ。
だが、レイムはもう罠に嵌っていた。
『2――1――』
敵側で進行するレイムが知らないカウントダウン。
そして光の刃が止み、レイムの視界が明確になった。が、それと同時に敵もレイム・レギレスを明確に捉えており、カウントダウンの終了と同時に引き金が引かれた。
「あ――」
レイムは見えていた。
狙撃銃を構えており、銃弾すらも見えていた。
パァンッと何かが弾けたような音が響き、頭が真っ白になった。
「え……――――」
頭の中に『?』が浮かんでいる。
頭から命令を受けているであろう糸が全て断ち切られたように全身の力が消え失せる感覚に包まれる。
――何か、何か……。
意味の分からない瞬間だが、何かを考えようとするが、頭が働かない。
すると何かが顔面、の鼻……まだ幼いがその美形に添って暖かいものが伝る。衝撃で身体が傾き、流れるそれは皮膚から離れ、少女の眼球に映る。
赤いの球体……いや――
「血……」
一滴の雫が見えたことでレイムは自分が流血していることに気付いたが、気付くのが遅かった。
いや、当たっていた時点で敵の術中に嵌っていた。
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