81話 領域騒動②
まずは敵を導き、己の領域へと踏み入らせる。戦場である領域内で仲間同士を分断することで戦力を分散する。
だが、それだけで戦いに勝機を得るには半分、足りないものが必要となる。
それは事前に敵情報を徹底的に収集することだ。
決して初見ではなく、相手の力を知った状態であらゆる対策を講じて計画を高確率で遂行する。
これはこの組織のやり方だ。
「んん……?」
慎重に一階、一階とビルの中を進んで行くレイム。
正直、火力で対処したいが、この領域の精度は自分達の世界にあった領域より高いのは間違いない。
さっきの世界と酷似しているが、この二つが違うことはすぐに理解できる。
だが、この領域の性能は今だ知れない。魔力感知が出来ないせいで辺りで何が起きているのか、何が潜んでいるのか、なんて気配を察知するなんて限界があるし、その技能は磨いていない。
持前の魔力操作が使用できなければ、痛手になり、不安になったレイムはレイネルを顕現させる。
「んん……どうしたの、レイム?」
エレベーターが使用不可だったため、階段で一気に登ろうとしたが、何故か一階ずつしか続いていないというクソ仕様でいちいちその階を抜けて反対側にある階段に行く必要がある。
デカい窓から見える景色、高さで半分くらいは進んだが、ここまでで何も異変はなかったが、流石に不安になったため、自分自身を登場させた。
「んッ、先行って」
レイムは先を指差し、自分自身であるレイネルに命令する。
自分自身であり、補助装置であるため、横柄な態度であろうと本体であるレイムにレイネルが従う他ない。
レイネルとレイムは少し離れてビル内を進む。電気などついておらず、窓から離れた通路は薄暗いものとなっている。
普段は魔力操作で何がいるのか、いないのかということは把握できたが、今は一切把握が出来ない状態であるため、少女であるレイムが不安に駆られるのは当然であり、少し欠けていた少女らしさが出ている。
「いませんね~」
「うん、いない……ね」
どちらも疑心暗鬼だ。
今の段階で可能な探知能力を駆使していないはずだが、何より確信がない。領域に侵入した者の能力、主に魔力操作を封じている原理は領域に既に展開されている固有の魔力、そして魔力操作で体外に放出した魔力が領域に吸収される二つが要因となっている。
これは敵側に圧倒的有利を齎すもの、それが領域であるなら核を破壊するしかない。
この領域の特性についてはもう皆も薄々分かっているだろうが、魔力操作による感知を封じられては全体を把握するには自分自身の目でするしかない。
「ひとまず上に行こう――」
そう、決めた瞬間、前方の通路が大きな音が立てて、崩壊する。人じゃないことは確かだ。
ドシドシと重い何かがこの階の床から落ち、その影は不規則に蠢いている。
その瞬間、ゴゴゴッと大きな何かは二人の方へ迫ってきた。
「ぐッ――」
瞬く間にガラス窓に強く押し付けられる。
メシメシとガラスと自分の身体が軋むほどに強い圧力に襲われる。
「な、なにこいつ!?」
黒く大きなものだが、表面から触手のようなものが出ている。本体の質量は大きな岩ほどあるだろう。
「クソ……魔力を――」
持前の魔力量を放出して身体を包み、身体能力を向上させる。
「ぐあああぁぁぁぁぁッ――――」
腕に力を入れて身体を上げる。
徐々に持ち上がるが、それでも黒い生物の方が強い。
「レイム、これ、魔力を吸ってる!!」
「え、嘘……これ――」
自分を覆う己の魔力が吸われているのが、すぐに分かった。
これでは身体強化を十分に施すことが出来ずに押しつぶされてしまう。レイムの魔力を吸って力が増したのか、圧迫する力が強くなっていく。
体内で魔力が巡っているため、そう簡単に身体が傷つくことはなく、痛みも軽減されているため、思考は可能。
「ぐッ……なら――」
確かに魔力は吸われているが、この吸収速度は隙がある。魔力を能力に乗せてその手から『破壊神冠』を発動し、高出力の攻撃を放つ。
初動はバチバチと電撃が鳴るような音、レイム自身の腕から放たれる。
周囲に魔法陣を展開するという蛇口ではなく、水が溜められた器から穴が開き、魔力が漏れ出すという大量の魔力をふんだんに使い、高密度かつ高出力の攻撃が解放される。
その威力はその階はもちろん、上下の階の含めたビルの中層が崩壊する。
グガァァァァァッ!!!
ゼロ距離からの高密度かつ高出力の攻撃が炸裂し、黒い怪物は悲鳴を上げて、ビルは傾き、崩壊する。
だが、そんな簡単に崩れるのか、とレイムは疑問に思いながら翼を展開して上空を舞う。
「壊れましたね?」
「うん。呆気なかったけど、ん……?」
望まれた方へ行くことにしてビルへ上ったが、それは崩壊してしまった。レイムは翼で上空にいるが、何もなく飛べることに少し驚き、周囲を見渡すと明かりもなく、暗い景色だが、どことなく動いているようだ。
魔力感知が使用不可なため、正確性は低いが、目では動いているように見える。
「ん~……」
手がかりだと思っていたビルが崩壊したことで手がかりがなくなったため、これからどうしようかとレイムは考える。
次の瞬間――
「レイム、後ろ――――!!!」
「え、ッ!!」
背後を振り向くとビルが浮遊し、こちらに迫ってくる。
すかさず《破壊剣ルークレム》を抜き、音もなく、自分に引き寄せられるビルに向かって剣を突く。
だが、そのビルは急加速し、レイムへと激突する。
「うぐッ……」
まさか、加速するなんて思わなかった。
それは一つではなく、まるで磁石のように辺りの建物は空中へと浮上し、レイムに突っ込んでいく。
「これは領域が――」
そう、領域の性質によって物理法則を一時的に操っている。領域内に入った者を無断で転移することが可能なら、これくらいのことも可能だろう。
すると大地を見ると明らかに大地が川の激流のように動いており、その反対側を見ると領域の中心だと思われる地点から大地が流れてくる。
そして流れていく方向に目をやると明らかに領域が拡大しているのが伺える。
「正体を現したってところ、かな?」
レイムは剣を使ってビルたちを叩き切るが、数が多くて物量に押されているため、補助装置であるレイネルも加勢しようとしたその時……。
『――照応領域、照応形態から戦場形態へと移行する』
「え……この声」
「アナウンス?」
それは恐らく、この領域内にいる者達に聞こえただろう。
だが、それを理解する前にレイムとレイネルは見えない力、圧力に襲われて身動きが取れなくなり、お互いが引き寄せ合ってぶつかるように密着する。
これは恐怖による硬直ではないのは明らかだ。抵抗すれば、するほどに痛みが伴う。
「こ、これほどの強制力――」
この領域は想像以上に精巧であり、強力なものが底に存在している。
そしてレイムとレイネルは再び、転移を襲い、いつの間にか地に足がついていた。
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