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80話 領域騒動①



「ん……ここは?」


 予想外な出来事だが、一人の青年はここを落ち着かせる。

 敵の領域内ということで魔力による探知は不可能であるが、それ以外の方法、気配の感覚と肉眼で周囲を見渡す。

 樹木が鬱蒼と茂った山奥……しかも神社の敷地内。


「人間が四人、機械が一人……竜人が一人に、魔人が二人……エルフが一人に、吸血鬼が三人、そして魔王が五人に神が一人……」


 少年の声だが、その声は地に足のついたように不動の気配を感じ、意図的なのか雰囲気に完全に溶け込んでいる。


 そして神社の影から現れたのは黒髪の少年が姿を現す。

 ソージ・レスティアルより年下であるが、非常に落ち着ており、大人びた雰囲気を醸し出している。


「誰だ……?」


 この敵地に踏み入れ、出会った存在は敵であることには違いない。


「敵……ただ、それだけだ」


「……分かった」


 恐らくこの少年には何を言っても自分の意思を曲げないだろうと断固たる意志を感じ、ソージは潔く、聖剣に手を触れて引き抜く。

 手の接触によって聖剣の刀身が黄金のように輝き、ソージが纏う鎧にも光を与える。


「言っておくが、手加減はしないぞ?」


「あぁ、それで十分だ……」


 ソージは聖剣《竜聖剣ドラドゥーム》を構えるが、一方の少年は拳を握ることはなく、爪を立てるように足を肩幅の広さで構える。

 まさか刃物を使わない戦闘法を扱うのか……それでも慢心する理由にはならない。

 お互いがお互いを観察し、同時に踏み出して戦闘が開始した。






 そして別の場所では一人の男が転移させられていた。

 大きな神社……いや木造の宮殿か、壁などない建物は吹き抜けとなっているが、簾がかけられており、室内は隠されている。

 その周りには水が存在し、蓮の葉が浮いている。


 スッスッと若干のすり足で赤い大橋を渡り、風景に合っている和服を着用した真っ白な髪色、刀を携えた男がいた。

 曖昧な下地だからか、より幻想郷のように見える場所に最破最強の男、ジュウロウ・ハリアートはここに顕現した。


 流石に転移を防ぐことは事前に力を展開しておかない無理だ。意思のない領域、電源を入れるタイミングなんて把握しなければ、対策もないが……。

 ジュウロウは宮殿に足を踏み入れ、左右に広がる空間に目をやるが、もうわかっているため、左方に身体を向き、進む。


 ギシッギシッと床が軋む音だけが耳に入る。

 直接、目を見てはいないが、お互いがお互いを視界に入れているのは分かっている。

 目の前の存在が敵であること、一段上がった位の高いものが鎮座する場所、簾で顔は分からないが、体型から女性と性別は判断できる。


 彼女も同じく和服を着用している。

 赤紫色の着物を……。


「やぁ、ジュウロウ……久しぶりすぎて忘れちゃったかな?」


 女性の声、名前を知っているのは敵の情報収集が上出来だったのか……と思考を巡らせるが、答えは分からない。

 だが、戦闘になるなら、これほどまでに得意なことはないが……。


「誰だ。俺は見覚えがないが……せめて素顔を見せてくれないか?」


 無属性を有している彼だが、相手を見極める方法は魔力感知、ではなくその眼だ。

 彼の魔力はあらゆるものを無に帰すこととちょっとした性質が合わさったものだけで利便性は皆無な能力だ。

 だからこそ、彼は人一倍、警戒し、慎重になる。


「誰だ……」


 すると簾が巻き上がり、その奥にいる人物が明確になる。

 美人な女、その髪色は着物と同じ色であり、凛としているが、それは形だけだとジュウロウは察する。

 如何にどんな風貌であろうと自分達が敵地だと思って乗り込んだ場所で対峙したのだから、警戒しないわけがなく、ジュウロウはその人物を観察するが、一つ違和感、というか、見覚えがあった。


 そんな言動をする女性をジュウロウは知らないが、その人物の面影に思い当たる節があった。


「ま、まさか……」


 その人物を思い出し、鼓動が加速し、冷静が崩れていく。

 全く予想していない事態、いや……いくら天才であろうと予想ができる範疇なら可能であろうが、その外はどうしようもない。

 一目見ただけでジュウロウは彼女を理解する。


「ルリ……ルリ・ギウナ――」


 そう、目の前にいたのは昔、幼少期に交流があった少女だった。

 あの失踪事件が彼を強く変えた要因であった少女、ルリ・ギウナはジュウロウと同じように大人になっていた。

もう助け出すことは出来ないと信じ込んでいたジュウロウの今を大きく覆すように内心が荒れる。


「そう、覚えててくれたんだね。時間で言ったら、何千年って経っていたみたいだから、少し不安だったけど、やっぱりジュウロウはジュウロウだったんだね」


 無邪気、それを前面に出してルリ・ギウナは話す。

 あの時に戻るように、いや戻らせるように、子供の如く、大人びた彼女はジュウロウに話しかける。


 当然、ジュウロウにも葛藤は存在した。

 まだ少年だった、彼に大きな衝撃を与えたもの……かつての主、レシア・レギレスの再会に続けて、幼少期に関係があった少女の再会……これは――


 何かを狙っている、とジュウロウは考えた。

 三代目破壊神レシア・レギレスとルリ・ギウナの二人が同じ勢力から出された兵士なら、自分に差し向けられた人物がルリ・ギウナという点が不可解だ。


 まさか、過去に接点があった人物なら何とかなるとでも……。

 そう、考えていたが目の前にいるんだから、会話で何か情報を入手しようとジュウロウは考える。


 突然の再会で動揺したが、すぐに冷静に戻る。


「今までどこにいたんだ?」


「うん。とある組織、だよ。私は突然のことで何も分からなかったけど……」


 その文脈を喋っている際にジュウロウから目を反らした、ということは何かを隠しているのだろう。

 罪悪感、いや俺が望む答えを持ってはいないのだろう。


「お前が今、いる場所は善なのか、悪なのか?」


 そして単刀直入にジュウロウは質問する。


「……立ち位置は悪だよ。でも私はこれが悪いことだって、思っていないから――」


 ただ真っ直ぐとジュウロウの方を向き、ルリ・ギウナはそう告げた。静かな声、疑うことはできない正直な気持ちが彼女自身で表され……いや、証明していた。




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