76話 新たな扉
「な、なんですか、それは!!」
一番、驚いているのは初めて見るワーレスト、ベルーナ、シール、ピール、リールたちである。
「あ、そういえば言い忘れていた……」
それを目にしていたが、状況が状況だったのかジュウロウがポツリと呟く。
外見に関しては瓜二つ、その瞳や髪色が真っ白になっている。
補助装置、という概念は『本体』であるレオンと『補助』であるアレンの関係性と同じだろうが、あちらは外見の年齢が違ったが、何か理由があるのだろうか。
まぁ、接触を受けたことで『魂』を……ってやり方は良く分からないが、異常な覚醒の仕方だろうし、正当なやり方で『補助』であるアレンが目覚めたというわけではないのだろう。
それにレイムとレイネルのように同一人物として通常は『本体』であるレイムの身体に付随する形で存在しているが、もちろん任意で分裂することも出来るが、レオンとアレンは常時、離れていたが、あれにも……。
可愛いものが二つ増えたことで可愛がっている女性陣ははしゃいでいる。
「レイム様が二人!?」
「補助装置って具体的に何をするのでしょうか?」
「主にレイムの手伝いです。レイムが戦闘不能になった際の肉体の主導権を変更したり、独立で戦うことも可能ですが、思考を分割することで一人の存在ですが、二人分の働きが可能です」
「色は違うが、瓜二つ……でも口調も違いますね?」
「はい。もう一人の自分という存在ですが、些細な差異がなければ、分裂することは出来ないので……」
そんな会話をしていると玉座の間の中央が光輝き、五人の人影が現れた。
「帰ったぞ。レイム、目が覚めたようで何よりだ!!」
これで『無限の星』のメンバーが集まり、改めて会議が行われる。
だが、既存の情報は粗方共有を済ましているため、話し合いの内容はこれからに対しての話し合いくらいだ。
「ワーレストと『塔』の残骸を調査したが、残骸からポータルを作成することに成功した。だが、それが不可解だ。恐らく、あの建物は自壊プログラム作動したらしいが……」
「それがなぜか綺麗に残っていた、と……?」
確信の部分をジュウロウが述べる。追い詰められたレオンが自壊プログラムを発動し、逃げる隙を稼いだ。
それに自壊プログラムというものは自らの技術すら抹消することも重要だろう。
この『塔』自体の影響と技術力を考えてそれくらいは考慮しているはずだ。
それか、それくらいも考慮できていなかったとか……だが、その疑問をレジナインは自壊した『塔』を見せ、あり得ないと述べた。
「他の部分は徹底的に自壊していたことにより、私は意図的だと判断した」
「そのポータルはどこに?」
「いえ、作動はまだしていません。ですか、必ずどこかに繋がります」
つまり手がかりを掴んだということだ。
レオン・レギレスは再戦を望んでいたため、また必ず相まみえることになるだろう。
「分かった。早速、試してみよう!!」
それはレイムの決断により、すぐさま実行された。レジナインが『塔』の残骸から組み立てたポータルを玉座の間に顕現させる。
その外観は丸い輪のようなものな機械だ。
玉座から立ち上がり、ポータルの前へレイムは立つ。
「では、起動します!!」
そして一瞬、その輪の中で時空が歪むことを全員が肌で感じた。
その装置は空間を感知し、別の地点へ道を開ける。
この世界から見ても、まだ数千年先の技術だろう。世界文明の技術レベルが違うことが一つだが、能力の力で独自で技術発展をした“天才”がいたから、それと種族の中でも無機物の異端である機械の生命がいたから技術が判明して助かった。
「どこに繋がっているの?」
「ん~、正直、分かりません。初めから地図があればいいんですけど……おっと」
つい嫌味を言ってしまうレジナインだが、その通りだ。
どんな場所も地図以前に足を運んで、地図を作成していたように自分達からするとこのポータルの先は未知の領域だ。
「道は開いた……もし、私がレオンの目的なら、ここが危ないのかもしれない。そしてここにいてもまた同じ結末になるかもしれない。だから……」
「まぁまぁ、我が相棒よ。不安になるのは分かるが、それよりも未知はワクワクするだろ!! どんな時も前向きに行かないと!!」
ポータルを前に立って不安に駆られるレイムをエマが慰める。
「ここで戦うのも、ポータルをくぐることも最終的には全てレイム様が決めてください」
そう、ワーレストが優しく述べる。
この決断について正直、レイムは悩んでしまうだろうが、先へ、前へ進むことを優先にすることで結果を出す。
「――行こう!!」
「ふ、俺達はどこまでもレイムについて行くよ……」
傍にいたソージのその言葉にレイムはただ嬉しく微笑んだ。
そして『無限の星』は早速、そのポータルへその身を投じるように足を踏み入れた。
ほぼ毎日、暗雲が天に敷き詰めている環境であるネルトシネアス領域、その奥地の上空に浮遊する漆黒の城。
大魔王の城とは別であり、最古の魔王の故郷と言っても間違いない場所。
そこはとても冷たく、無人のような静けさだ。
この存在を知っているのは神々の上層部くらいでネルトシネアス領域に生きる種族すら存在を知らない特異な場所。
無人のようだが、実はたった一人……城の虫が最奥に存在した。
カツカツ、カツカツと黒く暗い空間に一人、全身を黒いローブを羽織っている背の高い人物が通路を歩く。
そして最奥に位置する両開きの扉を開く。
そこは吹き抜けた場所だった。
黒い石畳の床、柵、均等の柱、丸いテーブルに二つの椅子、その一つに老いぼれの男だと思うが、人のような外見のようだが、人なのか曖昧なものだった。
「久しいな、老いた貴様を見るのは不思議な感じだな……“死劫の管理者”デスター・モルス――」
来訪者が話しかけたが、“死劫の管理者”デスター・モルスと呼ばれた死の神は振り向くことなく沈黙する。
「ふん、礼儀がないのは相変わらずだな。まさか、ここにいたなんて……偶然か、運命か。クフフフフ……」
来訪者に何か意図があるのか、笑っている。
その表情を見るように少しずつ顔を上げて口を開く。
「お前は、変らない、な……。お前という存在を分かっているつもりだ。だから俺は……離れたんだ。全てを破壊したお前から離れるために――」
「……そうか、別に貴様と会話することなんてないが、念を押しておくぞ――」
その瞬間、彼の気配が全てを覆った。
「――私の邪魔をしたら殺す。後継機が現れようと殺す。貴様の大事なものを破壊する。分かったな?」
「……この宇宙を悪に染めるのか?」
「ふん、そんな当たり前なこと……それが私の役割だ。その役割を……いや、存在理由を捨てた貴様に言っても無駄だったな。では、失礼する」
言いたい事を言ったので彼は立ち上がって去る。
「――なら、お前は一度でも自分というものに疑問を持ったことはないんだな?」
「……ない。俺は、悪だ。それが俺だ。ただそれだけだ。ただ無力なまま宇宙の新生を受け入れるがいい」
一人称が私から俺になったことで彼の本性が微かに現れている。
そして彼は扉を開けることはなく、宇宙の悪はその姿を消した。
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