74話 叛逆の存在
漆黒の宮殿は複合され、一階が宮殿部分となり、上へと更に建物が形成された。一階部分の芸術性はなく、塔が複合したような外観であった。
悪から渡されたそれは世界規模の性能を発揮する機構であり、一つの力を増幅し、各大規模で使用できる優れものだが、操作が難関なのが欠点だ。
そのため使用者は限られているこの機構を渡されるほどに悪へ認められた。
「があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――!!!」
レイムの剣が突き刺したのはレオンの心臓部。
その叫びの起因は痛みより、凄まじい衝撃が自身の身体を震動して意思とは関係なく、絶叫が腹の底から吐き出される。
肉体、精神、魂の一点を付ける場所が心臓部分、だが到達するのは至難の業である。
レオンはレイムに押され、空の天井から落下する。
激しい墜落に自分の身体が大気を裂き、擦る。肉体の痛み、精神の乱れていることからレイムの攻撃は精神の域まで到達している。
ただ衝撃だけがレオン・レギレスという『存在』に轟く。
そして二人は巨大な塔へと変貌した機構の天辺を破り、内部で衝突した。
天井が破壊され、瓦礫が落ちて煙が立ち込める。変貌した塔の強度は万全の状態だったようで天井を破っただけで床が崩壊することはなかった。
「はぁ……はぁ……――」
少女、そして男の激しい呼吸音が聞こえる。
身体が張りつめてはち切れそうな緊張感、予想外の展開、激しい感情の起伏――肉眼で見える力の疲労だけではなく、内部に存在する精神も同様に疲労困憊である。
お互いの息切れ、あらゆる要素の疲労が今、自覚できる所に浮上したようだ。魔力を今までの限界以上に使用しても、レイム・レギレスという少女は息切れ、疲労困憊で済んでいる。
人体に必要な要素が不足しているのか、頭がガンガンと響いている。
『レイム、【再生】を使うよ』
もう一人の自分、レイネルの処置によって疲労の深刻度は減っていき、剣をつき立ち上がる。
「――レイム、支えるよ」
レイネルが存在を顕現させて主人格のレイムに肩を貸し、自分以外の生命反応がある空間の中央に足を進める。
何もなかったであろう床はあっという間に瓦礫で埋め尽くされた床に横たわるのはレオン・レギレスだ。
自分の鼻に血肉の匂いがしていることから負傷をしているのは確実だ。
「はぁ……終わりだ。レオン・レギレス――」
レイムは大の字に倒れているレオン・レギレスに剣を向ける。破壊神の神器《破壊剣ルークレム》で貫かれた心臓部は真っ黒な穴が開いていた。
レオンの身体は痙攣しているような動きは見られるが、反応は非常に薄い。
「ふ、ふふふふふふは、ははははははははは…………」
レイムの声は微かに聞こえているが、理解しているのかは不明だ。
彼の主観、感覚は途切れつつある。下位部の情報がしっかりと認識されていないほどにレオン・レギレスという『存在』に対して激しい損傷を与えたのだ。
――あぁ、俺は……。
自分の自己情報を認識することも出来なくなってしまっていることから『魂』にまで損傷が達している。
『お前はこれで満足なのか、レオン・レギレス……?』
――え、俺は……俺は……。
曖昧な視界、感覚、核を貫かれた肉体という世界から真っ白な景色に移り変わった。
そこは精神の内側、魂に近い領域。
彼にとっては懐かしい場所であることを思い出す。自己を覚醒させたあの時、空であった自分の肉体より更に奥の精神に接触し、自己を覚醒させてくれた存在がまた同じ手段で話しかけてきた。
それは悪の存在にしてその概念、即ち――宇宙の悪。
――失敗、しました。申し訳ありません。
『そうだな。結果的に敗北に至った。だが、再戦の機会がまだ存在している』
――再戦……。
『あぁ、お前が望むなら、私はお前を助けよう。だが、もしその気がないなら、お前はここで眠るがいい』
――いや、俺は諦めない。諦めるはずがない!!! 俺の目的はまだ、まだぁぁぁッ!!!
精神世界でレオンは叫ぶ。
これは想像に近いものであり、観測する術は上位存在くらいしか持ち合わせていない領域の中でレオンは気持ちを吐き出す。
まだチャンスがあるのなら、もう一度機会を望む。
次こそは目的を達成するために行動すると……そうゆう諦めの悪い所がレオン・レギレスの長所であり、短所である。
根本的な話、生命の存在理由として『生きる』ことが筆頭の理由だろう。
たとえそれに理由がなくともあらゆる存在は『生きる』ために生まれてきたのだ。
『そうか、ではその様にしよう――』
………
……
…
そしてレオンの意識が少しずつ明確なものとなっていき、彼は笑う。
「ふははははは……」
だが、それは枯れたような和気藹々とは違った余力のない笑いだ。
まだ絶命していない男は少しずつ増えている力を用いて起き上がろうとしているが、肉体、精神が貫かれ、魂が傷つけられた傷を治すには流石に時間がかかる。
「まだ、だ……俺はまだ、生きて……」
「何、まだやるつもり?」
「まだだ……ここで終わるわけがないだろ……お前は気にならない、のか?」
「は、何を?」
「自分がどのような存在なのか……肉体の誕生もそうだが、この存在の起源を――」
次の瞬間、レオンの身体が風化するように崩れ、黒い灰と化す。
彼の言動から死ぬわけではないだろう。
「え……ちょっと!! うわッ――」
すると漆黒の宮殿、否――漆黒の巨塔が大きく揺れ、半分に割れ、あっという間に全体に崩壊が伝播する。
この出来事はレオンによる自己崩壊の起動。
ガリガリと割れ、ゴリゴリと瓦礫が崩れる。レオンが消えた空間も崩壊し、レイムとレイネルの二人は崩壊の隙間に落ちていく。
ゴゴゴッ!!!
と黒色の物質が神界の高度から世界に落下していくが、地上に届くことはなく、全てが消滅に至り、漆黒の巨塔は姿を消す。
巨塔の崩壊と同時に観測されるソージ、ソピア、サリア、ジュウロウ、エマの五人はビーの背中に転移された。
「レイムッ!! レイムぅぅぅッ!!!」
主神レイムの姿が見えないことが配下にとっては最大の危機だ。逃走するレオンを追ったところで視界から外れ、その後に巨塔が崩壊した。
神界の高度、夜でもないのに星の景色が上へ薄く存在しており、漆黒の塊が消滅の光で遠目から見たら、少し幻想的にも思える。
「あ、あれ!!」
ビーの竜形態の背中に乗った五人は主であるレイムを見つけようと崩壊し、消滅する漆黒の巨塔へ近づこうとした瞬間、ジュウロウ・ハリアートが何かを見つけて声を上げて指を差す。
そこは崩壊する全体の中心部、瓦礫の隙間から漏れ出す明らかに周囲とは異様な白い光があった。
「こ、こうかな?」
レイネルにとって飛ぶことは初めてであるため、レイムを抱えて慎重に崩壊する瓦礫を避けて疲労困憊のレイムを運んでいく。
「え、あれ?」
自分達が凝視する白い光が近づき、形を捉えられる距離となり、全員が違和感を覚えた。白い光の正体は何かが発している光なのだろうが、それはレイムの形をした真っ白な少女であることだとは全員は思わなかった。
「れ、レイムが二人!?」
『『えぇぇぇッ――!!!』』
確かな形を捉えて白い光の正体と状況を見て、分かりやすくエマ・ラピリオンが声を上げて飛び上がる。
それに合わせてエマを観測しているレジナインとジュウロウと伝達で繋がっているワーレストが向こう側で驚愕する。
そしてレイムを抱えるレイネルがビーの背中に降り立つ。
白い瞳、白い髪、白い肌、そして空を飛ぶための白い翼、天使に近い美しい存在がレイム・レギレスを抱えている。
これは不可思議な状況すぎる。
「皆さん、初めまして。私はレイム・レギレスの補助装置、有り体に言うならもう一人のレイムであり、同一人物。レイネルとレイムから名前をつけてくれました。レイムは疲労から眠っただけです」
その色は違うが、それは寸分の狂いもない瓜二つの存在。白い自分、レイネルは真剣な表情に変える。
「悔しいことでレオンは逃亡しました。だけど道標はここに――」
魔力で浮遊させたものは漆黒の球体、それはあの機構の核と思しきものだ。
「それは……」
ソージが問う。
「情報源です。レオンが立ち去った後にこれがあったということは意図的でしょう。ここからが始まり、というわけです。皆さん、私とレイムを今後ともよろしくお願いします」
これは容姿は一致しているが、人格は少し異なる彼女なりの挨拶であり、前進を促すための言葉。
「ソージ、レイムを」
「お、おう。あ、レイムをありがとう。れ、レイネル」
少し戸惑ったソージの反応を見て、彼女は彼という存在を、気持ちを理解して微笑む。
「私は疲労回復に努めます――」
そう言い、レイネルは白い光の粒子となってレイムの中へ帰っていく。
「レイム、無事でよかった……でも――」
少し軽くなったレイムが無事なことに深い安心感を覚えるが、そのすぐ後には確かなもの『事実』……『結果』がある。
まだ終わっていない、何も終わっていないということを言葉もなく、全員が認識して見上げて、立ち向かうことを決意する。
「これからも俺達は主についていくだけだ。その覚悟だけは持っておけ――よし、帰還するぞ!!!」
その空気感をジュウロウ・ハリアートは一区切りにしてビーに帰還を促す。
敵であるレオン・レギレスを打倒できなかったという良い結果ではなかったが、再戦に対して次こそはという気持ちを心に埋める。
今はただ無事を喜び合おう。
そして次へ、今は進むことが重要である。
これで第二章『神核解放』編は終了です。
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