73話 黒白神レイム VS 叛逆神レオン②
能力の最大権能――『世界系』は己の世界を型によって再現する。世界系の維持については所有者の練度や魔力量であり、一般的に切り札であるが持続する時間はそう長くは持たない。
が、しかし持続時間が長ければ良いというではない。
改めて言うが、世界系の勝敗はあらゆる要素が関わってきそうなものだが、勝敗を分けるのは全ての総合、自分という存在が相手に勝ればいいだけだ。
ドドドッドドドッ――と漆黒の光弾は壁を跳弾しながら、縦横無尽に空間を更に漆黒へ染め上げていく。
敵であるレオンが見えないのなら、全方位に攻撃を伸ばす。手ごたえを感じることは出来ないが、レオンの世界系でレイムは世界系で対抗している。
「ぐあッ――」
恐らく漆黒の光弾が命中したであろうレオンの苦痛が聞こえた方向に重点的に攻撃を向ける。
だが、すぐに会費をしたのか苦痛は聞こえない。
いや、当たってはいるがレオン自身が常に防御に徹しているのだろう。防御壁は敗れるが、それに徹しているため、次に繋がらないのだろう。
そもそもこの状況では正確性は皆無に等しいため、この真っ暗な空間をどうにかした方がいい。
魔力量はまだ余裕はあるが、今の状態が無駄撃ちに思えてきたことでレイムは打開策を考える。
暗闇を照らすには壁を破壊するか、でも領域環境型の世界系は壁を壊したところですぐに元に戻ってしまうため、いつだって叩くのは本体であるレオンだ。
そのためにこの空間を照らす必要がある、とレイムが自分の考えを巡らせていた時、頭に声が響く。
『私の【再生】なら、できるよ――【破壊】が黒い光なら、【再生】が発現する際に生じるのは……?』
――え? あ、そうか!!
『うん。早くしないと勝機がなくなっちゃう!!』
正直、レオンは上手い。自分と同じように力を解釈して使用する力量、経験もあるだろうが、それは一つの『才能』と言っていいだろう。
恐らくだが、破壊神という家系に生まれた、いや神として崇められた存在なら、微細であっても力の使い方が肌で感じるように理解できるのだろう。存在が位置する『位階』と存在が保有する『才能』との折り合いで変わってくるのだろう。
なら、両方、高ければ――
「輝きを見せろ――」
左腕、左手、力強く掴む神器に魔力を流して純白の剣が白く強く光り、一点に光る【純白】が暗黒を照らし、塗り替える。
「何ッ――」
そして一か八かの作戦としてレイムは《再生剣レクイエム》に魔力を流して、辺りを強く照らし、刀身から光を放つ。
その性質は【再生】であるが、この状況ならそんなことを意識せずに反射的に回避するだろう。
ゴウッ!!!
とレイムの殺意を乗せた光が彼女の前方へ伸びる。
そしてレイムの予想通りにレオンは白い光を避けた。
何故、それに気づいたのか――それは前方に放った光の端っこにレオンの姿を確認したからである。
裏切りの神が自分の瞳に映った瞬間、全ての攻撃を彼に向ける。
ここからは更なる死闘が繰り広げられる。強く純白の光の輝きでレオン・レギレスを補足して攻撃と自らも移動する。
全力で両翼を羽ばたかせ、遂にレオンと接近する。剣の射程まで迫り、剣を交える。
ガンッガンッと無言でレイムは剣撃を放つ。狙うのは心臓か、その首であり、近接戦闘は不得意だったレオンはレイムに押されて、力を行使する隙がなくなる。
領域環境型の世界系〈反逆の世界〉に侵入しているレイムは【叛逆】の圧力を受けているが、レイムも攻撃特化型の世界系〈破壊の世界〉を展開しているため、完全な圧力を受けているわけではないため、レオンを追いつめることが出来ている。
「クソォォォォォッ!!!」
「ッ――――」
新たな力である【叛逆】の力を解放し、世界系を展開して己の戦闘能力を確実に向上しているはずだが、レイムに勝利出来ない。
この思いもよらない現実に激しい嫌悪感をレオンは抱く。
自分は選ばれた存在であり、普通より才能に溢れ、異常とまで言われるほどの位階の存在――目の前の存在を簡単に殺し、世界すら軽々と手中に収めることが出来るはずだ。
だが、眼前の少女は想定されていないことを成し、憎々しくも諦めず自分に向かってくる。
「あがッ――」
また隙を突かれて左胸を漆黒の刀身が貫く。
「お返しだ――」
痛い、痛い――まさか、ここまで押されるなんて思いもしなかった。
どうする、どうする……宮殿の支援性能を用いたとしても勝てない、だと――おかしい、まさかこいつは俺、以上だというのか――
いや、まだだ……でも、今は……あぁ、そうだ。ここで、ここで――
レオンは心の中で迷いながらある決断を下し、レイムの剣が刺さっている身体を引き、唐突に飛び上がった。
「ッ――――」
唐突に飛び上がったそれは自分で展開した漆黒の壁を突き破った。
「え――?」
突然のことでレイムは一瞬、思考が追いつかなくなったが、刹那に見た必死な表情とまだ余裕のあるレオンの表情から逃走しているのだと理解し、少し遅れて翼を羽ばたかせて上空へ飛ぶ。柱で支えられた壁のない吹き抜けた宮殿から抜け出し、上昇するレオンとそれを追うレイム。
レオンは逃走する、と直感の判断だったが、宮殿を抜け出したことでレイムの判断は間違いではなかった。
また再来するという魂胆なのだろうが、それを許すはずもないレイムは魔力を翼に回し、羽根の一本一本から魔力を放出し、一瞬の時間の中で光速まで達する。魔力という曖昧のようで見えない力の塊が身体の一部、血液のように正確に少女の意思で調整し、必死に上へと逃亡を図ろうとするレオンをレイム・レギレスは追い抜いた。
「なに――」
命を取られる『必死』からの逃亡へと行動を移行したために生じた微かな『余裕』は自身より上へと至った小さな影によってかき消され、そこには『恐怖』だけが生じた。
予想外の連続――あの方は彼女に関して注意しろとしか言わなかった。
逆に推測するなら、彼女に抱くものは『注意』のみにしておけということだったのではないか。
ただ一つの言葉を忠告として受け取ったが、その『注意』をレオンは非常に軽く解釈してしまったのだ。
今、思えばあの方が『注意』する彼女、レイム・レギレスがどれだけのものなのかなんて正確な数値は割り出せないが、何となく大雑把でも理解することは出来ただろう。
そう、これは自分の驕りからだ。自分は確かに成長しただろうが、彼女も成長することに気付かなかった。
いや、あれは成長なのか……突発にして彼女の変化は明らかなイレギュラーだった。
あぁ、そうか――だからこその『注意』だったのか。
今の自分を客観的に見定め、今頃だったが本質を理解した。追い詰められているが、負けるわけには……いや、そもそも死ぬわけにはいかない。
「宮殿、要塞――」
今、逃げることは無理だと考えて宮殿に命令を下す。今の自分では彼女に勝てないと認め、ならどうやってこの状況から抜け出すかを考えた。
「消滅しろ――」
漆黒の宮殿が形態を変えたことで暗雲が晴れ、太陽の光が差し込み、景色が青く染まりつつある蒼空の中でレイムは剣をレオンへ突き出した。
「――《その剣先に破壊を約束しよう》ッ!!!」
それは決着の時、だとお互いが理解できる状況であり、場面であり、運命である。




