69話 破壊と再生のプリンセス③
黒、そして白がぶつかり合う。
神速に匹敵するジュウロウの剣撃と渡り合っている。三千年前から二人は変わっていない証だ。
何しろ二人が出会った場面が強さを示すものだった。
破壊神には配下がいなかった。自分を信仰してくれる種族はいたが、忠誠を誓い、最も近くにいてくれる存在を欲した。
破壊神、レシア・レギレスは配下に強さを求めた。
それ故に人間最強と名を馳せていた人物、ジュウロウ・ハリアートに接触して勝負を挑んだ。
その詳細は“自分に勝ったら、自分の配下になれ”という簡単なものであり、強者同士が物事を決める方法として手っ取り早く、納得できるのが、自分が持つ力をぶつけ合い、どちらが勝っているかだ。
お互いが剣の軌道、剣技の形、足取り、攻撃のタイミング、威力などを対処する。軌道を予想し、分かり切っているか、新たな剣技の形を把握し、その足取りに合わせて押すか引くかを選択肢、攻撃のタイミングを予測し、威力に合わせて攻防を行う。
一つ一つを挙げれば、工程が多いが、その全てを瞬時に詰まることなくしているが、神速に匹敵する速度の場合は常に思考を巡らせているというよりは反射と直感で切り抜けている。
思考するタイミングは攻撃をする直後だ。
「ふッ――」
ジュウロウの攻撃は回数を重ねる度に威力、方法を変える。特定の剣技を学ばず、我流で人間の頂点にまで上り詰めたジュウロウの戦い方は全て自分で決めている。
だが、それはレシアも同じだ。【破壊】という力を制御して継承された剣を使い、近接戦闘でも最強を目指していた。
その実力は世界大戦で神々を退け、レオンに辿り着いた事実が示している。
そのため、二人の戦いはどちらかが勝敗を決めるほどの差、変化を持たさなければ決めることはないだろう。
例えば、ジュウロウが更に成長するか、どちらかが油断して一歩引いた途端――
「時間はかけられない。そんな時間はない――」
そしてエマ、幼い見た目であるが戦闘経験の量でいうなら、この中で随一である。故に勝敗がどっちにしろこの状況が不味いことなんて感覚で理解できる。
「どんな戦いでも長引くことに対して得するのは観客か、有利な方だけだ――」
この戦況を覆すには自分も力を振るうことが必要不可欠だ。
次の瞬間、黒色と黄色の光が天に上がった。
「黄金に輝け、ソルリウス――」
戦況を見ての独自の判断を下し、エマは意識を集中させて力を解放する。
一瞬、ゴオッとぜんいんが悪寒のようなもの、何かが蠢くものを感じた。
その方向には天へ噴き出す灼熱の炎、わざと全員の気を引くように一度に膨大な魔力量を解放し、同時刻――レオンを確認している。
細かい所は省いて極論の話、破壊神が二人いることが予想外であって一人であるなら、対処できる可能性は上がる。なら、厄介な方を先に打倒すればいいだけだ。
「ふッ――」
エマは自分の攻撃を視認したレシアに企みの笑みを浮かべて、彼女とは違う方を見る。
そう、二分されてもう見えていないレオン・レギレスの方を向いた。宮殿が破壊され、『障害』に覆われようとこの距離であれば、強引な魔力感知で補足は可能だ。
この行動にジュウロウは意味を悟り、レシアを食い止め、エマは一歩踏み出す。
「――――《金色に輝く帰結を齎す至高の星剣》ッ!!!」
瞬時に己の力を解放する様は何度も扱ってきたものであり、少しの隙が生まれるはずだが、それが感じられないことから戦闘経験の量による差を思い知らされる。
周囲の温度が上昇することで醸し出される存在感、それをレシアではなく、レオンに振り下ろされる。
エマがレオンを狙っていることはソージも理解し、遅れて剣を振り下ろす。
「ッ――――」
ヤバい、と内心で絶叫する。
だが、対処法がないわけではなかった。この機構の主導権を持っているのは自分自身であるため、存在の数で言うなら六対二ではなく、六対三だ。
障害、集約――言葉ではなく、心で命令し、人差し指に存在した黒い指輪が光り、主導権の命令を遂行する。
同時にレオンは横薙ぎに剣を振るい、灼熱の炎と炸裂の光に飲み込まれる。
そして『障害』の奔流がエマやソージ達を通り過ぎ、レオンの地点へと集約されて渦を巻く。
もう既に二人の攻撃に飲み込まれていて燃え上がり、光輝いている混沌とした状態であり、安否は不明だ。
「ぐッ――」
次の瞬間、【叛逆】が作用して光がソージに炸裂するが、神器解放された力の全てではなく、その一割にも満たないものが斬撃として迫り、ソージは滑り落ちる。
そのまま落ちるかと思ったが、何とか瓦礫の上に身を投げていたようだ。
「危なかった……」
ゴオオオッ――と空気、魔力の流れが一点に集中する。二人の攻撃、その上に障害の渦に巻き込まれた地点が大きく渦を巻き、拡大していく。
「な、なんだ――」
レオンを襲ったエマの炎とソージの光、そしてそれらを覆った障害が渦巻いているが、その内部が膨張しているのが外部から見ても分かるほどに渦を巻く形が崩れ始めている。
「無駄な足掻き、流石に魔王の私と勇者のソージの攻撃を受けて瀕死は間違いないと思うけど……」
今までの経験から相手が一人でここまで押されたことは初見だったということもあるが、ジルフィスとレシアに関しては技術と力の性質、それらに押されたからだ。敗北理由に関しては分析したつもりであり、神器解放を扱えるのなら、それが確実にそいつの切り札の一つになる。
そもそもそれを扱えば、戦局がひっくり返る。
ジルフィスに至っては自分の驕り、レシアに至っては純粋な敗北……そしてさっきの魔力出力から槍の神器を解放したと思われるが……。
「あれを跳ね返したの?」
熱波で浮遊し、レオンとレシアを観測して分析する。
あれって逸らすこともできなかったはずだけど――それを行ったとなれば、能力を向上したという豪語は予想外を言っている。
あれを【破壊】で逸らせるのか、神器解放なら分からないが、そんな魔力反応はレイムの一つしかなかった。
ならば、能力行使だけであれを逸らす力を保有している……故に確実な事としてレオン・レギレスは能力を複数所持している。
だが、如何に二代目破壊神であろうと存在が出力できる容量が決まっている。
己の限界まで複数の能力を容量割けば、複数の力を行使できるメリットが存在するが、デメリットもちろん存在している、
存在が出力できる容量、或いは魂の限界点。
一つの能力で容量の十割を割いた出力と二つの能力で容量を五割ずつ割いた出力では当たり前だが、前者の方がどんな能力であっても発揮する性能が高い。
更に二つの能力を同時に行使すれば、存在に対して掛かる負担は二倍になる。能力の切り替えなら、負担は通常で抑えることが出来る。
今までの状況から推測するとレオンは【破壊】と【叛逆】の能力を有しており、それを状況によって使い分けている。
「なに!? エマ、レシアが――」
「え?」
ジュウロウが叫び、その方向を見るとさっきまで本気の戦いを続けていたレシアが消失している。
そして膨張する漆黒の渦が指向性を持ち、ソージへと小さな渦を放った。小さいが、膨張している漆黒の渦より小さいというわけであり、あの威力であるならソージが対処することは不可能だ。
完全に防ぐことはなく、飲み込まれて無事であろうと前進を漆黒の風刃で切り刻まれるだろう。
ソージには無理だが、彼の後方にはソピア、サリア、そしてレイムが存在しているのだから、ソージは決して引くことなんて出来ない。
例え、自分が死ぬことになろうと――
「くッ……あああああああぁぁぁぁぁッ――――」
「流石に不味い――!!!」
状況を見て、エマは即座に動くが、障害の渦に妨害される。
もう対処できるものがいない。
あぁ、予想外だった。完全にレオンの戦力を見誤ったのだ。
そしてソージの目の前に【破壊】が現れた――




