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68話 破壊と再生のプリンセス②



 漆黒の宮殿は二分に崩壊してレオン側にソージ、ソピア、サリア、そしてレイム。レシア側にジュウロウとエマが位置している。

 今の状況は一言で述べると最悪だ。

 だが、決して漆黒の塔に乗り込む人選、数を間違えたわけではない。もしもの時というより短期決戦を計画したまでだ。

 今の戦力を全て投入すれば、勝てたかもしれないが不確定要素が存在する限り、そんな思い切ったことは出来ない。

 そんな慎重な決断を蹴り上げ、計画を破綻させたのは死んだと思われていたレシア・レギレスだ。

 レオンの意思で宮殿の装置を起動させて『障害』を巻き散らす。意図的な宮殿の破壊とは言え、レオンとレシアは『障害』の影響を受けないようだ。


「おい、レイムッ!! レイムッ!!」


 漆黒の宮殿が浮遊しているように二分からバラバラになった欠片も浮遊して何とかソージ達は落下せず済んでいる。

 レイムも寸前でソージが抱きかかえて落下を防いだ。

 ソージは叫ぶが、レイムは目を覚まさない。少女の状態は悲惨、というまでにはいかないが心臓部、小さな身体に漆黒の槍が貫通している。


 如何に神であろうと肉体の要である心臓を破壊されれば、意識は消失する。

 更に神器解放を行った攻撃が自分自身に返ってきて、自己回復など間に合うはずもない。


「はぁ……はぁ……ふ、ふははははははははははッ!!!」


 詰め寄られた時は流石に焦ったが、深い安堵を感じて笑いが零れる。同じ破壊神としてレオンが警戒している存在の一人であり、可能性が最も高いレイム・レギレスを何とか打倒したことで段階を踏んだ計画の序盤は完了となる。


「レイムッ!! レイムッ!!!」


「無駄だ――わかるだろう? 自身の槍で貫かれた。それもレイム・レギレス自身が創り出したのだから、その武器は自身にも通用する。それが心臓を粉砕したんだ。どんな神、どんな存在であろうと急所、核を破壊されれば、生命維持は不可能だ」


「ッ……」


 そんなことは分かっている。

 だが、そんな容易に認められることじゃない、信じられない。でも、信じなくてはいけない。レイムが死亡してしまった以上……終わり――

 ………

 ……

 …


「いや、まだだ……」


 ソージは今の気持ちを抑え込み、視野を広げて自身の役目を悟る。

 まだ希望はある。レイムだけが頼みの綱じゃない、ここにいる全員がレオンを、この世界を終焉に導く者を打倒する役割がある。


「ソピア、レイムを……」


「お兄ちゃん……どうする気?」


「決まっているだろ、このままじゃ終われない――サリア、援護を」


「うん。任せて!!」


 そして二人は立ち上がり、レオンを真っ直ぐ見る。

 絶望の淵からまだ希望の方へ見て、主力が失われようと最後まで自分の役割を全うする者達が目の前に現れた。


「くッ……な、何だ。その目は?」


 レオンは歯を食いしばって怒りを露わにする。

 この状況、戦いの勝機は完全にレオンに傾いており、レイム・レギレスが失われたことで更にその可能性は上昇した。

 それなのにレオンが望む『絶望』を見せることはなく、その反対に位置する『希望』を抱いて自分を見ているのだ。


「その行動は無意味だぞ? ここから先の結果は決まっているというのに……まさか、それを認識していないのか? そこまで馬鹿なのか!!」


「いいや、知っている……」


「はッ、それを知っていてまだ抗うのか? ここから先は地獄の他ないというのに!!」


「まだ敗北だとは決まっていない。まだ俺達がいる……」


 ここで諦めたら『勇者』として生きてきた意味がない……それは自分達の存在理由を自分自身で消してしまう。

 無駄な悪足掻きでも、負け惜しみでも何でもいい。でも、まだ決定的な敗北じゃない今は何が何でも立ち向かうまでだ。

 ただの気持ちであろうと、存在というものは気持ちという意思で動いているのだから……。


 無駄であろうとこのままでは死にきれないが……。


「ふははははははッ――納得できない、このままでは死にきれないかぁ?」


「あぁ、納得できるわけないだろぉぉぉぉぉッ!!!」


 ただそれだけだ。

怒り、後悔、その全てを力と化し、聖剣を構え、走り出す。瓦礫から飛び、自身の魔力で足場を作り、虚空を踏み出す。

人間、種族、世界の希望として、勇者として、何より愛する人を殺された一人の人間として――


「第一剣技――《天火閃光てんかせんこう》ッ!!!」


 レオンとの距離が半分を詰めた地点で特攻剣技を発動する。閃光が炸裂した途端、レオンの眼前にソージが現れた。


「ふッ――」


 振り下ろしに特化した第三剣技――《光来天幕こうらいてんまく》を発動し、レオンは淡い光に包まれるが、同時に強烈な光を放つ聖剣が迫る。


「ぐッ――」


 反応が少し遅れた。

 それは光のせいということもあるだろうが、ジュウロウの神速は光と同様、剣自体を補足することが不可能であったため、光の要素はレオンの近接戦闘の実力を考察する際には不要だ。

 ジュウロウの助言にあった近接戦闘『剣術』の向上はない可能性が高まる。


「はあッ――」


 第六剣技――《月輝燦然げっきさんぜん

 強烈な光が連続で繰り出され、視界が黄色で覆われ、白へと至る。痛み、感覚など物質界の全てを置き去りにして結果を突き付ける。


「ぐあッ――」


 また身体が強く押される。

 だが、ソージの攻撃は命中しており、更に上空から三連の矢が降り注ぎ、それにも察知が遅れて命中する。

 だが、流石は破壊神だ。

 まともに食らっても腐っても神であり、存在の上位者である証として耐久力は負けていない。


「貴様あああああああッ――――」


 レオン・レギレスは感情の起伏が激しい、印象としては子供のようだが、非常に人間味が感じられる。

 怒りとともに魔力が外界に噴き出す。

 破壊神の特徴として魔力保有量が半端じゃない、空気のようなものだったのが外界に現れ、密集すると質量を持つほどに存在感を放つ。


「これは……」


 この魔力量、そしてそれらはレオンが持つ剣に集約されている。ということは奴が成すことは……。


「全てを超えろ、リベリア――」


 神器解放だ。

 一個人で最大最強の攻撃、これで勝敗はハッキリとするだろう。


「正義を示せ、ドラドゥーム――」


 黒色と黄色の力が天へ上がる。

 お互いに顔を見合わせ、タイミングを計り、同時に力が下される。


「――――《全てを超えろ、(ビトレイアル)叛逆の意思(・リベリア)》ッ!!!」


「――――《全てに示す、(エクシティウム)黄金の破滅を(・ドラドゥーム)》ッ!!!」




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