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67話 破壊と再生のプリンセス①



 ―――――


 ――――


 ―――


 ――


 ―


 暖かい、気持ちがいい……何も聞こえないが、心地よいのは確かに感じられる。

 この気持ちはなんなのだろう。


「え――ここは?」


 自分の瞼はいつの間にか閉じていた。

 瞼を開くと、そこは青色の世界だった。水で埋め尽くされているが、その水深は足首の少し上までであり、白色の固まった地面からは石が浮き出ている。所々に白色の建造物の一部があり、どこか幻想的なものだ。


 ここは現実なのか、と一瞬過ったが、違うだろう。

 さっきまでレオンと戦っていたはずだが、なぜかこんな場所にいるのだろうか。当然の疑問を持ちながら、立ち上がり、足を進める。

 レイムの動きに水が少し揺らぐ以外、風のなく、どこまでこの光景が続いているのか分からないが、広いだけはたしかだろう。


「ソージ!! ソピア!! サリア!!――」


「ジュウロウ!! エマ!!――みんな、どこぉ!!!」


 ただ大声で呼びかけるが、その声は静寂に飲まれてしまった。

 急に不安が覆いかぶさる。

 幻想的であるが、それに少しの不安が存在すれば、それはたちまち恐怖へと変わり、逃げ出したくなる。

 その恐怖でレイムが後退ろうとした瞬間――


「――ねぇ、あなたはだぁれ」


 曖昧な声音が背後から聞こえて振り向くと水が激しく波打ち、持ち上がり、人型を象っていく。身長はエマくらいではっきりと腕や足は分かるが、表情などはわからない。


「ここはあらゆる世界、生命がたどり着く終わりの世界――ここでは肉体は存在しない、今のあなたは魂と精神がここに引き寄せられた状態……」


 その言葉の通り、なぜかそんな感じが伝わってくる。


「魂……私は死んだの?」


 敵意はないと判断したレイムは質問する。


「今のあなたの状態は臨死……死に片足を踏み入れている状態。だからここには剣もなければ、服もない、ただ魂と結びついていた肉体の影で存在は映し出される」


「えッ、嘘――」


 自分の身体を見るといつもの黒色の一枚服はなく、レイムは裸だった。気付かなかったことに驚くが、そう説明されれば、納得するしかない。


「そして魂が露出状態で魂を認識すれば、あなたの力は覚醒を果たすでしょう」


 水の者が述べる言葉にレイムは心の中で疑問を浮かべるが、確かに『魂』というものを知覚することが出来ると気づく。


 恐らく死後の世界に近い空間であるが故の感覚だろう。存在の構成する要素として魂、精神、肉体の三つがある。

 その肉体が消失し、精神も微塵なものであり、夢のような感覚である。

 そのため最後の魂が殆ど露出した状態なのだろう。


『――存在を補足、確認。システム側からの『魂』へ接続。適切な対応として補助装置の覚醒を開始』


「なに、これ……」


 無機質な声が聞こえてレイムは動揺するが、身体の中に存在する『魂』が外部の概念に触れられている感覚が伝わってくる。


『――【破壊】を触媒にして過去関連情報を参照。【再生】を起動』


 その瞬間、背景が真っ白になった。


「初めまして、レイム・レギレス――」


 次に現れたのは『自分』だった。

 それはまるで鏡の前に反射した自分であり、肉体の形、表情、皮膚のしわである肉体の模様すら全てが瓜二つであるが、一つ異なる部分がある。髪色や瞳の色が黒いレイム・レギレスに対して目の前に存在するもう一人の自分は真っ白に塗られたように髪色と瞳が白く、反転していた。


「え……」


「私はレイムと対になるもの【再生】です――」


 もう一人の自分はそう自身を称した。【再生】……それが破壊神レイム・レギレスのもう一つの力ということか。


「私はレイム、レイムは私。一心同体、というより同一人物と言った方がいい。姉妹のように捉えても構わないけど、どちらが姉なのかは議論の余地がある」


 もう一人の自分はどこか真面目に偏っている。

 突然のことで普通は自分に瓜二つであろうと疑うことをするだろうが、レイムはそれを微塵もしないどころか疑問という選択に目を向けない。魂が露出している環境だから深く考える、疑うことが出来ないのか。


 それは本当に目の前の自分が言った通りに鏡に映った『もう一人の自分』であり、『同一人物』であるから疑う余地などなく、信じられる。


 なんせ自分の言葉なのだから……。


「レイム、皆を助けるために私を受け入れて――」


 白い自分は手を伸ばす。

 二人の少女、黒と白、反対の概念をその身に宿す器。


「うん。分かった……え~と……」


 だけどもう一人の自分が存在するのなら、意思疎通を自然に行うために区別するためにも名前が必要だ。


「んん? 名前、なんて……でも、レイムが決めてくれるなら……」


 自らでは望まないがレイムが決めるなら良いと恥ずかしそうにもう一人の自分は言う。

 まさか、もう一人の自分に名前を付けるなんて思いもよらなかった。名前を付けるとしたら、自分が両親の立場になった時、最愛の人と子供が出来た時だろう。

 名前をつけるなら、自分に似たものが良いだろう。


「れい、れい……レイネルってどう?」


「ふ、うん。それで――」


『報告――レイム・レギレスに【再生】の定着を確認』


 突然の事だったが理解は追いついた。

 新たな力を覚醒させたレイム、この後にすることは一つしかないだろう。


「行こう、みんなを助けに――」


「うん。何処までもついていくよ。レイム――」


 レイムが手を伸ばし、その手をレイネルは握り、二人は踏み出す。


 そして夢が覚めるが如く、白い景色が消えていく。


『――臨死から意識を浮上、覚醒を促進』


 ―


 ――


 ―――


 ――――


 ―――――




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