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66話 裏切りの神⑤



「やるな。ソージ――」


 遠間からジュウロウは彼の成したことを眺める。

 こちら、ジュウロウとエマはソージの攻撃によってまだ戦いは始まってもいないが……。


「ジュウロウ、来るよ――」


 エマの声でジュウロウが正面を向くと同時にレシアは疾走する。目で追える程度だが、あの頃と変わらず、卓越した剣技でジュウロウと対峙する。

 それは本当にレシア・レギレスだという証拠の一つになるが、敵同士である今、お互いの手札は分かり切っている。


「それがあなたの選択ならば、俺は――」


「――私を殺せるのか?」


「――あぁ、やるさ。やるしかないだろ!!」


 彼は主である破壊神の右腕であるが、先代、いやの主であろうと剣技の追随を許さない。剣技こそジュウロウがどうしても譲れないものなのだ。

 まさか、かつての主の剣さばきを思い出して対処するなんて思いもしなかった。

 だが、やると決めたら後は突き進むのみだ。ジュウロウが本気の剣撃はレシアでさえも見定めることが困難だ。

 それは勧誘の時、二人が初めて戦った時と変わらず、ジュウロウの剣技には悩まされているが、それはお互いが約三千年前より成長しているからだ。


「そういえばッ、本気で戦うのはあの時以来だな?」


 二人の本気の戦いは勧誘の時のみ、レシアがジュウロウの噂を聞きつけたことで最強の人間ならば、戦ってみたいという興味から配下へと加えることに至った。


「そうだったな。だが、私は衰えてはいない!!」


 もし、本気で戦ったらどちらが強いのだろうか。剣技において譲らないジュウロウ、絶対的な力を持つレシア――ジュウロウはレシアの【破壊】に対抗できる力を持ち、レシアはジュウロウの【無浄】に対抗できる力を持つ。


 正直、答えは出せないだろう。


「私は、蚊帳の外か……?」


 二人の雰囲気を察してエマはそれを傍観しようとした瞬間、強力な風圧が二人にも襲い、身体が押される。


「なッ――」


 ガタンッと宮殿が傾く。

 反射的に周囲を確認し、体勢を崩したジュウロウにレシアが追撃するのも目撃し、剣を向けて炎を放つ。


「おっと、私がいることを忘れないでよ? レシア」


「そうだったな。だが、不利なのは依然とお前達だぞ?」


 それは悔しいが正しいだろう。漆黒の宮殿、戦場を意図的に崩し、敵の足取りすら乱してくる。

 更にこれが完全に崩壊してしまえば、飛行できる存在……この中だとレイムとエマの二人だけだ。


「そのようだな――」


 レシア・レギレスもそうだが、レオン・レギレスも……両方にとって敵である破壊神が存在しているのだ。






「ぐおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 全身全霊を持って役割を全うする。

 破壊神という存在に対してこの星で対抗できるものは複数いるが、この存在を殺すのは同族こそがその役割に相応しいだろう。

 だが、これはただの同族ではない、悪の道へと堕ちた者達の粛清だ。

 それが同族である自分の役割だ。


「くッ……貴様――」


 流石に傷を負っている状態のレオンはレイムに押されている。少女とは言え、魔力を帯びて大幅な身体強化をした筋力は容易に大人、巨岩、建物すら大きく干渉する力を持っている。


 そして何より力となっているのは彼女が抱いている信念だろう。

 今まで恐怖され、恨まれてきた力である【破壊】――それを司る破壊神、それは彼女にとっては己自身が否定されているのだ。口だけ文字だけでそれは知らされていたが、身に染みて感じたのは己を取り巻く環境だった。

 時間を経て、少女は自分なりに察した。


 だからこそ少女は自分のやりたい事を“良いことをやりたい”という内容にした。

 この目的は当然だが、悪を打ち倒すことも含まれている。


「レオン・レギレスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」


 少女に似合わない力技、ガリガリと力が擦れ合い火花が散る。


「ハァァァッ!!!」


 次のレオンの剣を弾き、彼の肉体を連撃で切り刻む。

 そして確かに奴から鮮血が跳ねるように噴き出して後退り、レイムは追撃を止めることはなく、レオンの心臓部目掛けて、剣を突き刺す。


「――【叛逆】」


「えッ――」


 超至近距離でレイムはその言葉、能力の名前を耳に入れた。


 その瞬間、凄い勢いでレイムは押されて吹き飛ばされる。

 しかし妙だ。

 通常の能力の発動方法とは些か異なっている。まさかだとは思うが、新たな能力の発動を発見したのか、レオンと接触した者はそんなものを教えたのか。


「チッ――」


 また吹き飛ばされたことにイラつき、舌打ちをするが、すぐにレオンの方を向く。

 そして体勢を整えて剣を左手で持ち、右手を上げ、虚空を掴む。黒が集約して長細いものへと姿を成す。


 その手に《破神槍ルークラガ》が顕現する。

 この槍の威力ならば、この程度の力の向きなど容易に突破してレオンを穿つ。


「貫け――――《|万物を貫く行動の破神槍シヴシュラウト・ルークラガ》ッ!!!」


 万物を貫く槍は主の手から解き放たれた。

 バチバチッと黒い雷が走り、その速度は音速を凌駕し、光の速さに達する。今のレイムとレオンの距離なら、この攻撃を避けることも出来ない。

 そもそもこの槍は主が標的に定めた対象を貫くまで進むため、回避という対処は意味をなさない。


 これでレオンの動きを止めて、今後こそ確実に――これほどの性能を持つ槍を解き放った以上、レイムの勝利を垣間見るようにニヤリと勝てる予感の笑みを浮かべた。


 だが、レオンに接近した槍は突如としてレイムの視界から消えた。


「あ、えッ――」


 この意味が分からなかった。

 だが、現実は過程を理解できなくとも『結果』だけは確実に突きつけ、様々な意味であろうと激痛を伴うか如く、それを刻んでいく。

 いた……い。

 痛みのようなものを身体に感じ、視界を少し降ろすと『槍』があった。


「う、そ――」


 やっと、理解が及んだ。

 そしてそれを見ていたソージ達も『結果』を目撃する。

 それはレイム・レギレスの心臓部に己の武器である《破神槍ルークラガ》が存在し、どこから見ても彼女の心臓を、身体を貫通している光景だった。


 その瞬間、ソージの全身が震え、声が絶叫する。


「レイムぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ――――」


 そして漆黒の宮殿は崩壊して大きく傾き、レオンやレシアを除いた存在が一方向へと滑る。

 瞬きの間の出来事なんて理解不可能だ。

 レイムはただ事実を突きつけられ、自分の名前を叫ぶ方を見ながら、その身体は糸が切れたように崩れて、斜面となった床を滑る。


 なんだろう、分からない――意識が朦朧とする。

 誰かが近づいてくる。

 慌てて、身体に触れ……。

 歪んだ視界に覚えている顔が見えたが、抗える術を知らないレイムはそのまま漆黒の大海へ身を任せ、沈み、意識を手放した。




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